1話 星の大精霊『シロボシ』誕生
星の管理者からの誘いにより、私は異世界に転生しました。
しかも転生先は星の大精霊。
簡単に死ぬことはないし、星の力は使い放題。更には、その気になれば精霊を生み出せるというとんでもない力まで備わっている。
……今は猫型マスコットのような見た目になっているから、この状態で星の大精霊と言われても信じられないとは思うけど。
そんな猫型マスコットと化した私の、異世界でやりたいことはただひとつ。
「可愛いマスコットになって、日々を甘やかされるような極楽生活してみたい!」
なーんて目標は出来たけれど、何から始めるべきか……
今現在。私は天井が解放された明るい洞窟内で1人ぼっち。
周りにあるものといえば、更に輝きが強くなった真っ白な宝石達だけ。
「うーん……」
私はオモチャみたいな両手を組んで、大きな頭をこてんと傾けながら悩んでみる。
「……よし、まずは誰か作ろう!」
1人より複数人。たった1人で悩むより、誰かと悩んだ方がお得に決まっている。
「そうと決まれば……!」
私の身体には、精霊を生み出す知識はしっかりある。
私は両手を合わせて力を込め、手の中からひとつの宝石を生み出した。
この宝石は星のマナ結晶。星の力をギュッと詰め込んだ、ものすごい代物。
これを色んな形に変えて、時には何かと混ぜて、それにトドメと言わんばかりに心を込めれば、精霊は生まれるみたい。
「最初は……私を守ってくれる存在がいいな……」
私の平和を守る存在。普段は楽しく暮らしてて、時には勇敢に戦ってくれる。
隣にマスコットが居ても不自然ではないような、そんな可愛らしい子にしよう。名前は……キラナにしよう。
私は大きなマナ結晶を星型のブローチの形に変換して、コミカルな両手でギュッと握りしめて力を込める。
程なくして、私が握りしめた灰色のブローチが白く輝きだした。
両手を開けると、手の中にあったブローチはフワフワと浮いて私の前で停止した。
「おぉ……!」
私が見上げる中、ブローチから溢れ出した光は人の形を作り、やがて私の目の前に1人の少女が誕生した。
白がメインカラーの可愛らしい衣装。
大きなポニーテールを揺らし、フリフリのスカートを翻しながら一回転した少女は、私の前でパッと目を見開いた。
「魔法使いキラナ誕生!」
「かわいー!」
そう、私が真っ先に生み出したのは魔法少女。
マスコットとセットになっても違和感がない人間ランキング上位の、可愛い上に戦える星の精霊だ。
精霊だからなのか、耳はエルフのように尖っている。
「大精霊様、初めまして!」
「初めまして! キラナ、握手して!」
「いーよ!」
自らが生み出した存在に握手を求める、猫型マスコット0歳児。
「はい、握手〜!」
「やったー!」
キラナは私の要望を快くオッケーして、わざわざ地面に降りて両手を握りしめてくれた。
「やったー! 魔法少女と握手しちゃった!」
「お望みなら抱っこもするよ?」
「いいの!?」
「うん! 私ネコちゃん大好きだから!」
猫型マスコットの姿になって良かった……!
まあ、キラナを猫好き設定にしたのは私なんだけどね。
悲しき一人芝居。
「……あっ、今はそんなことしてる場合じゃなかった。ねえキラナ、私……」
「あ、そっか! 最初に何をするべきか分からないから、まず私を生み出したんだったね!」
話が早くて助かる。
「ねえ大精霊様、まずは……」
「待ってキラナ!」
大精霊と口にしたキラナに、私は待ったをかける。
「大精霊様って呼ばれるのって、なんか他人行儀で味気なくって……」
私が申し訳なさそうにそう言うと、キラナは「分かった!」って言ってくれた。
「じゃあこれからは様を付けずにお名前で呼ぶね! 何て呼んだらいい?」
「私はね……」
ここで自分の名前をそのまま言おうとしたけど、折角転生しておいて、前世の名前使うのもなぁ……
「異世界に転生したわけだし、新しく自分の名前をつけてみるね」
「分かった!」
「え〜とね〜」
私は小さな足で、出来るだけ可愛らしい歩き方を意識しつつ、あちこち歩き回りながら名前を考える。
キラナはそんな私を可愛らしい笑顔で眺めながら、私の次の言葉を待ってるみたい。
「うーん……」
折角だから星に関連する名前がいいよね。星、スター、メテオ……コメット……
「……よし、シンプルに『シロボシ』にしよ」
分かりやすいし、縁起もいいし、そもそも私自身どこか白っぽいし。どちらかといえば灰色だけど。
「シロボシ! 強そうで、それでいてすごくかわいいと思う!」
「えへへ〜、でしょ?」
咄嗟に思いついた名前だけど、何だかとてもいい感じ。
「さて、名前も決めたところで、次は何しようかな?」
「シロボシ、地上で住む場所を探すのはどう?」
何をしようか考える私に、キラナは早速私の名前を呼んで、その上で新たな提案を出してくれた。
「何をするにも、お家がないと始まらないでしょ?」
「それもそうだね。異空間で住むのもいいけど、地上の拠点も欲しいよね……洞窟に住むのもアレだし……」
そもそも洞窟に天井無いし……
「じゃあ決まり! シロボシ、お外に出ていい感じの場所を探しに行こっ!」
「うんっ!」
キラナの案に同意して、大きな頭で頷く。
「あの天井の穴から外に出よ!」
キラナは星型のブローチに手を添えると、とても可愛らしいホウキをブローチから生成した。
「おぉ〜」
「私の隣に乗って!」
キラナはホウキに横に座って浮かび上がりながら、私を隣の席に誘う。
魔法少女の隣に誘われるなんて、まさに夢のような光景。だけど私はここでうんと頷かない。
ついにやって来ました我儘チャンス。
ここはいちマスコットとして、キラナに少し我儘言ってみるとしますか。
「キラナ、お膝の上乗せて〜」
「いいよ! シロボシ、はいどうぞ!」
「やった〜!」
キラナはこれまたいい笑顔でオッケーしてくれた上に、自ら手を差し伸べ、私を膝の上に乗せてくれた。
「ホウキの上、すごく高いね〜」
「これからもっと高くなるよ! 私にしっかり捕まっててね!」
「うんっ!」
キラナは私を片手で抱きしめて、私はキラナの腕をギュッと掴みながら元気よく頷いた。気分は魔法少女のマスコット。
「シロボシ、行くよ〜!」
「おーっ!」
マスコットらしい掛け声を出すと、キラナはホウキを浮上させた。
岩でボコボコの通路を通って天井を抜けて、大空へと飛び上がる。
「高ーい! はじめての景色ー!」
「私も初めて! でもすっごくいい感じ!」
キラナは素晴らしいホウキ捌きで優雅に空を飛んだ。
洞窟から飛び出した先に広がるのは、異世界の大自然。
「すごーい!」
「見てシロボシ、向こうに森があるよ!」
「キレー!」
地球でも見たことない素晴らしい大自然の景色に、私は子ども並に大はしゃぎ。
遠くの空には鳥や、明らかに鳥じゃない生き物が空を飛んでいる。あれはドラゴンかな?
足元には広葉樹の森が広がっている。
パッと見ではどんな木なのかは分からないし、植物をよく知らないから地球の植物との違いもよく分からない。
でも、広大な景色を眺めるだけでもすごく楽しい。
「この辺に住めそうな場所あるかなぁ」
「大丈夫だよシロボシ、住める場所はあるから安心して!」
「頼もしいね〜。ねえキラナ」
「なあに?」
私は頭上を見上げてキラナの顔を見つめる。
「もし見つからなかったら、その時はキラナのお家に住まわせてね」
「何言ってるの、私も生まれたばかりだからお家ないんだってば。もう、シロボシったら〜」
「えへへ……」
0歳児同士の戯れ。
「あっ、キラナ! なんか向こうにドラゴンみたいのいる!」
「えっ? どこどこ?」
「あれ! あそこの黒いの!」
たった1人だと味気ないけど、仲間がいるとこんなにも賑やかで楽しい。
「もしかしてアレ?」
「そう! 結構大きそうだよね」
「飛行機くらいあるかな?」
滅多なことでは死なないから、安心感がもあるのもいい。
「あれ? あのドラゴン、なんか大きくなってる?」
「こっち来てない?」
普通なら何があるか分からない空を飛び回るのも危険極まりないだろうけど、大精霊と精霊なら大丈夫。
こうして楽しめるのも、大精霊の特権ってやつだね。
「あ、ドラゴンがこっちに向かって口開けてる」
「呑気に言ってる場合じゃないよシロボシ!」
遠くのドラゴンが妙な動きをすると、キラナは慌てて私をギュッと抱きしめた。その次の瞬間。
黒ドラゴンのいる方角から、轟音と共に真っ青の光線が放たれた。
それと同時に、目の前に広がる景色が一瞬で変化。光線を放つドラゴンが目の前から消えて、視界いっぱいに緑が現れた。
どうやら私達は一瞬で地面に降り立ったらしい。
「あれ? 地面に移動した?」
「ワープ! 初めて使ってみたよ!」
どうやらキラナは、星の魔法を使って瞬間移動をしたみたい。
凄まじいエネルギーを誇る星の力を魔法に利用して、長い距離を瞬時に移動できる。これで異世界の移動も思いのまま。
「ここは森の中かな? ドラゴンから大きく離れたの?」
「ドラゴンの真下に移動したんだよ」
「何で?」
確かに私達の頭上には、さっき目の前にいたドラゴンが。お腹を晒しながら、口から青く輝く光線を真っ直ぐ放っている。
「キラナ、なんでドラゴンから逃げなかったの?」
「もし相手が嫌な子なら、今後のためにもここで倒しておこうと思って……」
勇ましいね。
「キラナ、気をつけてね。あのドラゴン、周りの迷惑も考えずに光線放ってたよ。絶対に身勝手な奴だよ」
「みたいだね。もう、迷惑なんだから……」
程なくして、ドラゴンは光線を放ち終えた。
ドラゴンは口を閉じると、真下にいる私達に向かって急降下してきた。
「よっ!」
キラナは私を抱えながら再びワープして、ドラゴンの眼前に移動する。
『ほう、我の技を避けるとは……ただの精霊ではないようだな』
黒ドラゴンは口を開けずに、偉そうな口調で私達に語りかけてきた。
「ドラゴンが喋ってる……」
ドラゴン肉の味が気になってたけど、喋る相手は何となく食べづらい。でも食べてみたい。
『素晴らしい身のこなしだが……貴様らの命運もここまでだ』
「命運?」
喋るドラゴンは偉そうに話を続ける。
『精霊よ、選ぶがいい。ここで我に無様に潰されるか、素直に食われて血肉として共に生きるか……』
黒ドラゴンはどうやら私達を食べようとしているらしい。なんてこと考えるんだ、この生意気ドラゴンめ。
まあ私もドラゴン食べようとしてたんだけども。似たもの同士だね。
「そんなことさせない! シロボシは私が守るんだから!」
そんな生意気ドラゴンに対して、キラナは力強く勇ましい言葉で返すと、胸元に装着しているブローチに手を置いた。
「それっ!」
キラナはブローチから可愛らしいステッキを、生み出した。キラナはステッキを手元でクルリと一回転させてから構える。
『ふっ……ふははははっ! 随分と頼りない杖だな!』
ドラゴンはキラナのステッキを見て大笑いしている。でも、なんか笑ってるというより怒ってる?
『そのような……そのようなエモノで我を倒せると思ったわけか! 傲慢な奴め!』
どうやらドラゴンはキラナの武器が気に入らなかったらしく、突然声を大にして怒りだした。
『灰燼すら残さん!』
ドラゴンは体内の魔力を高めて、私達に向かって大口を開けてきた。さっきより高度な光線を放つつもりらしい。
へぇ、ドラゴンの口の中ってこうなってるんだ。
「いい加減にしてっ!」
そんなご立腹ドラゴンを前にキラナが動いた。
私をホウキに残して、キラナは一瞬でドラゴンの眼前にワープ。
「やあっ!」
『!?』
ドラゴンが光線を放つその瞬間。キラナは脚に重力の魔法を込め、その脚でドラゴンの鼻先を思い切り踏みつけた。
結果、ドラゴンは口を開けられず、口内で行き場を失った閃光は大爆発を起こした。
「ガアッ!?」
ドラゴンの口から一瞬だけ閃光が漏れ出す。閃光の爆発は体内に逆流したのか、篭った爆発音と共に胴体が大きく膨らんだ。
『ぐぅ……!』
キラナの奇襲でドラゴンが大きく怯んだ。今がチャンスだ。
キラナは両手でグッと握りしめたステッキを大きく振りかぶる。振りかぶったステッキは大きなハンマーに変化した。
振り下ろす先はドラゴンの頭。
「コメットハンマー!」
威勢のいい掛け声と共に、キラナのハンマーはドラゴンの頭部目掛けて全力で振り下ろされた。
「待って!」
キラナのハンマーがドラゴンに触れる寸前。私は咄嗟に星の魔法『ワープ』を使ってキラナの前に飛び出した。
「ぐえっ!?」
ハンマーは私の頭にぶつかり、鈍い音を立てた。
「あっ!?」
「あたた……」
私はその場で尻餅をついた。キラナの攻撃は別に痛くなかったけど、つい癖でハンマーが当たった部分をさする。
「シロボシ!? 何してるの!?」
「ごめんキラナ……」
そんな私にキラナは驚いて、大急ぎで私の元に駆け寄ってきた。
「でもキラナ、今の魔法でドラゴンをペシャンコにするつもりだったでしょ……」
「うん。このドラゴン、シロボシを食べようとしたから……」
「やり過ぎだよ……」
せめてドラゴンの形くらいは残しておいてほしい。ドラゴン肉が食べられなくなるじゃん。
まあ、それよりももっと有用な使い方を思いついたんだけどね。
「あのねキラナ。私、ちょっと考えたんだけど……」
私はキラナと一緒に、苦しそうに呻くドラゴンから離れて、キラナに耳を寄せるようジェスチャーをする。
「?」
キラナは私のジェスチャーの意味を正確に汲み取って、その場でしゃがんで素直に耳を傾けてくれた。
「あのねキラナ……このドラゴン、お話ができるでしょ?」
私はキラナの耳元に口を寄せると、ヒソヒソ声で私の考えを話し始めた。
「だから、ドラゴンにこの異世界のことを色々と聞いてみようよ」
「うーん……ドラゴンは素直に話を聞いてくれるかな?」
「やるだけやってみる! 見てて!」
私はキラナから離れて、未だに苦しそうに悶えるドラゴンにトコトコ歩いて近付いた。
「ねえ、ドラゴンさん」
私は大きな頭をコテンと傾けて、両手を口元に持ってきて、ドラゴンに対して大きな目で上目遣いをする。
私の考えうる中でとびきり可愛いと思うポーズだ。
私の可愛らしさを最大限発揮して、この生意気ドラゴンを懐柔してみせる。
「あのね、私達……」
『我は畜生と話す趣味はない。失せろ』
私は真の姿を解放した。
私は灰色の結晶で構成された鎧姿に変化。辺りの景色は歪み、木々で覆われていた空間は暗転して宇宙を形成する。
『ドラゴン、私と話をしなさい』
『ひっ……!?』
星の大精霊である私を前にしたドラゴンはすっかり萎縮して、全身を可能な限り縮み込ませてブルブルと震え出した。
『あっ、あの……その……!』
『ん? ドラゴンにとって宇宙空間は寒いかな? まあ、そんな畏まらずに話を聞いてよ』
『はっ、はぃい……!』
言葉を間違えたらやられると判断したのか、ドラゴンは先程とは打って変わって丁寧な口調に変化していた。
そんなドラゴンに、私は改めて技を仕掛ける。
私は頭を傾け、両手を口元まで持ち上げ、精一杯の可愛いポーズを取った。
『ドラゴンさん、私達が今いるこの世界について色々と教えてくれないかなぁ』
『わっ、分かりましたぁ!』
私の可愛らしいおねだりにより、あの生意気ドラゴンもついに懐柔されたのでした。可愛いは正義。




