大精霊人生の始まり
ある日。いつものように目を覚ましたら、目の前に王子様のような美しい人物が立っていた。
かと思えば視界は暗転。
次に気がついたら、私は豪華絢爛な大広間の中央で盛大にもてなされていた。
「何この夢……」
「夢ではございません!」
「うおっ!?」
私の独り言に、いつの間に隣に現れた美人な女性が食い気味に反応してきた。
「この度は誠に申し訳ございません……!」
何やら荘厳な雰囲気を纏った、とても綺麗な女性が私に謝罪してくる。
「あの、何があったんですか……?」
「実は……貴方は異世界の人間に召喚され、その場で処分されてしまいました……」
「…………マジ?」
綺麗な女性の話によると……
王子が、寝ている私を異世界に召喚
↓
召喚したものの、目当ての人間ではなかった
↓
その場で処分
と、いうことらしい。
「えっ? 私は知らない間に異世界に転移して、その場で殺されたんですか?」
「その通りです……」
まさか異世界に飛んでたった数秒で処分されるとは……
「あっ! でもご安心ください! 貴方を殺害した方は、貴方が死に際に発した凄まじいエネルギーにより城ごと消し飛ばされたので!」
その情報で何を安心したらいいの?
「そもそも城が消し飛ぶエネルギーを私が発したんですか?」
「はい」
「何故?」
「あの、貴方の魂には凄まじいエネルギーが濃縮されてまして……それが外部の力に触れ、結果として城が消滅して……」
駄目だ、何もかも意味不明で頭に入ってこない。
「そんなことより!」
女性は私に顔を突き出した。
「貴方へのお詫びとして、新しい転生先をご用意させていただきました!」
「転生先?」
「はい! 私は星の管理者なので、転生先を選ぶくらいどうってことないのです!」
目の前の美女は異世界の星の管理者だったらしい。
「穏やかな人で、魂が強いのでかなりいい転生先をご用意できました!」
管理者は張り切りながら話を続ける。
「貴方が私の転生先を用意してくれたんですか?」
「はい! 転生先は星の大精霊です!」
大精霊がどんな生き物なのか想像できないけど、すごい生き物なのは何となく分かる。
しかも星に関する大精霊、かなり強いに違いない。
「魔法の大元のような、すごい存在です! 転生したら、どんな生活をしても構いません!」
「いいんですか?」
「はい! 技術持ち込んだりとか、新しい料理や機械を発明して人々に広めても構いませんから!」
それ結構危なくない?
「そんな無責任な……もし私が破壊衝動に駆られて星を滅ぼしたらどうするんですか」
「大丈夫です。貴方自身、文明を滅ぼすのはもったいないと思うタイプですよね?」
まあその通りだけど……むしろどんな文明あるか知りたがるタイプ。
「星を滅ぼさなければ何しても構いません。文明のひとつくらいは崩壊させても構いませんし……」
「やめてくださいよ、そんな縁起でもない……」
「その心があるなら、尚更大丈夫!」
何を根拠に言ってるの?
私の不安を他所に、目の前の管理者は意気揚々と話を続ける。
「精霊生活は楽しいですよ! 人と関わったり、逆に関わらず暮らしたりできますし……その気になればダンジョンとかも作れます」
「ダンジョン?」
管理者の言葉に、ファンタジーゲーム大好きな私の心が僅かに揺れる。
「異空間作って、そこで仲間とか増やして楽しく暮らすこともできます!」
「……えっ? 大精霊って生き物作れるんですか?」
「正確には精霊の類いですね」
管理者は私が何度も投げかける質問にしっかり答えていく。
「貴方は星のマナ結晶を生み出せて、そのマナと記憶を混ぜて、新しい命を生み出せるんです」
つまり、料理人の記憶のある物とマナ結晶を組み合わせたら料理人の精霊が生まれるということだろうか。
プロの料理人を生み出せば、ずっと美味しい料理を食べられる。かなりいい話だけど……
「意味もなく命を生み出すのは流石に……」
「いえ、そんな気負わなくて大丈夫ですから!」
「気負いますよ、命なんですから」
「むしろ作ってもらわないと困るんです!」
否定気味に話す私に対し、管理者は食い気味に反論する。
「貴方の作った星の精霊は、魔法の基礎になったりするんですから。とても大事な仕事なんですよ」
尚更不安だ。
変に精霊を作った結果、預かり知らないところで精霊が人間に迷惑をかける可能性がある。
迷惑が巡り巡って自分に返ってくる可能性のことを考えると少し心配だ。
「自由に作っていいんです! コックの精霊とか作って料理作らせても構いませんから! お願いします!」
「えっ、いいんですか?」
「変に気負うより、出来るだけ多くの精霊を作ってもらいたいので……」
自分だけのコック……ご馳走大好きな私にとって、ほんの少しだけど魅力的な話だ。
「ですが、もしお嫌なら地球に魂を戻せますから」
「地球にも戻れるんですね」
「……で、どうでしょうか。ここはどうか、星の大精霊に転生してくださいませんか?」
「そうですね……」
魅力的な提案にすぐに頷きたいところだけど、幾つか質問をしなければ。
私は大事な質問を管理者に投げかけた。
「あの、美味しいもの食べれて……あとは命の安全があるなら……」
「どちらもあります! 地球人の口に合いそうな物から、未知のご馳走てんこもり! それと大精霊は基本「不死身」だから毒も気にせず」
「行きます!」
未知のご馳走に見事釣られた私は即決。管理者の星に行くことを決心したのだった。
「ありがとうございます! 本当に助かりました……! こちらでは、他所の星の魂を迎え入れるノルマがあるので……」
「大変ですね……」
それにしても、地球から別の星に行くことになるなんて……まさに、異世界小説の冒頭のようだ。
「じゃあ早速で悪いのですが、今すぐに転生してもらいます!」
「分かりました。お願いします」
「話が早くて助かります!」
管理者のこの一言を最後に、私の視界は一気に暗転した。
次に目を開けると、私の視界いっぱいに飛び込んできたのは白い宝石の大群。
四方八方から飛び出した真っ白な宝石は、本来は暗いであろう洞窟内をまぶしく照らし出している。
どうやら私は無事に転生し、洞窟内で目覚めたようだ。
『ふぁーあ』
私は両手を上に伸ばして欠伸をすると、自分の身体の様子を確認する。
おぉ、もう視界から既に違う。目で見ているわけではないのか、視界は広範囲で自由自在。
何もせず座っているだけで、この洞窟内を一望できる。ゴツゴツした岩壁と白い宝石しかないけど。
『キレー』
というか声がやたら野太い。人のものとは思えない、なんか地鳴りかと思うほどに勇ましくていい声だ。
さて、お次はいよいよ異世界の自分とご対面といこうか。
私はこの洞窟内で一際大きな宝石に近付くと、宝石を横に切断して鏡の代わりにした。
『よし、いい感じ……』
宝石の断面に私の顔が映ったらしい。
見た目は灰色の宝石が集まったような、かっこいい騎士のような見た目をしていた。
かっこいいし、宙に浮かんでいるしで、外観は実にカッコよくて最高だ。
『いいじゃん』
でも折角だから、もっと可愛いやつになってみたい。
大精霊の基本や知識は頭の中にある。自身の身体を変化させる技術も既に扱える。
私は試しに色んな姿になってみることにした。
まずは無難な人型。宝石を猫耳に見立てて、宝石の結晶を丸い尻尾に見立てた、灰色スカートをまとった猫耳少女。
『狙い過ぎかも』
お次は宝石の獣。とびきり強そうなヤツをイメージしてみると、想像以上にカッコいい、猫科の宝石怪獣になった。
『カッコいい……!』
でも討伐されそうな見た目だから却下。
ならばとにかく無害そうな奴にしよう。私は再び形を変え、身体をどんどん小さくしていく。
『変に狙いすぎるのも違う……ここは少し変えて……』
試行錯誤を繰り返し、やがて私の納得のいく見た目が出来上がった。
「できた!」
完成したのは、ちんちくりんな見た目をした二足歩行の猫型の生き物。
デフォルメされた手足に、大きなとんがり耳のついた頭。お尻にはこんぺいとうのような結晶がくっ付いている。
何とも言えない可愛らしいこの姿は、さながら地域のマスコットのようだ。
声も可愛らしくして、更にマスコットらしさアップ。
「かなりいいじゃん……」
私は鏡代わりの宝石の前で何度も決めポーズを決めながら、完成されたマスコットボディを堪能する。
「これなら人間に見られても平気だし、もしかしたら可愛がられるかも……」
なんて考えた私の頭に、ひとつの大きな野望が生まれた。
マスコットになって、色んな人から可愛がられ甘やかされる……
欲しい時にお菓子を貰ったり、私が少し我儘を言えば、好きなお菓子を幾らでも与えてくれる……
お外行きたいと言えば、周りが旅行の準備とかしてくれて、私はただ遊ぶだけ……
……うん、かなりいいかもしれない。
星の管理者からは何をしてもいいと言われた。
自分だけの楽園を作って、そこで一生遊び回ったって、管理者からは文句は言われないだろう。
こうして、異世界での私の目標が決まった。
『マスコットになってみんなから甘やかされる、そんな夢のような楽園を作ろう!』
私は意思表明をするかの如く、天に向かって握り拳を掲げながら全力で目標を叫んだ。
その瞬間、小さな私の全身から凄まじい閃光が発生。
閃光は天井をぶち壊し、天を轟かせるとんでもない光が空へと噴き出してしまった。
……まずは力の扱い方を学習しなくちゃ。




