23話 あれから数週間後。スーパーでの出来事
星の大精霊である私が、冒険者を無傷で追い返すという一大イベントを無事に乗り越えてから数週間が経過した。
クレーター跡地に生まれた精霊の街は、更にいい感じに発展した。
まずは、街で暮らす精霊達の一部は力が強くなったからか、姿が変化した。
ウサギやキツネなどの多種多様な生き物をデフォルメにしたような、まさに今の私と似た系統の可愛らしい姿に。
どうやら一部の精霊は魔法少女のマスコット的な存在に進化したらしい。
契約した人間に精霊の力を貸し、見返りに討伐した魔物の魔力を一部貰うのだとか。
そんな仕組みのマスコット精霊達は、人間に対して友好的。一部の子は、魔法少女候補との運命の出会いを夢見ているみたい。
他にも気になる変化をする精霊もいた。
デフォルメされた可愛いタコ宇宙人のような子や、綺麗な流れ星をキャラクターにしたような子。
あと、武器とか水晶玉のような見た目をした子など、個性的な精霊がどんどん増えている。
今後、どんな精霊に進化していくのかな?
お次に、魔法の大精霊であるアンダさんが「街作りに協力したい」とのことで、技術を持った魔法の精霊を街に呼び寄せてくれた。
精霊は、金属やガラスなどを簡単に加工できる技術や、野菜の育て方など、とっても便利な魔法技術を教えてくれた。
魔法技術が街中に伝わると、見たことのない綺麗な素材を使った道具や、金属を使った物が表に目立ちはじめてきた。
あと、建物の建築技術が目に見えて向上した。
更に日が経つと、なんと金属類や食べ物を加工する工場が建設された。
便利な日用品やら、凝ったお菓子や缶詰やら、とにかく色んなものが工場で生まれてはクレーター跡地の街に広まっていった。
そして本日、街に素晴らしい建築物が誕生した。
色んな商品が並ぶ大きなスーパーだ。
清潔な店内は明るくて、それでいてとても広い。郊外で作られた野菜や加工物など、色んな商品が棚に並べられていて、すごく賑やかだった。
「きゃー! すごーい!」
「なんと素晴らしい……!」
魔法少女キラナと一緒にスーパーに突撃した私は、スーパーの素晴らしい完成度に心ときめかせた。
「精霊のみんな、こんな素晴らしい建物を作ってくれて本当にありがとう……!」
私が精霊達に感謝の言葉を述べると、スーパーの中にいた精霊達は嬉しそうに笑ったり、頬を赤くして照れたりしていた。すっごく可愛い。
「シロボシ! カート持って来たよ!」
私服姿のキラナはカゴの入ったカートを押してやって来ると、ネコ型マスコットである私の頭を掴んでカートのマスコット入れに押し込んだ。
……何でカートに、当たり前のようにマスコット入れが?
「さあ、しゅっぱーつ!」
「おー!」
何はともあれ、楽しいお買い物の時間の始まりだ!
キラナが操縦するカートに乗った私は、心の底からスーパーを楽しんだ。
新鮮なお魚や生肉、美味しそうなお惣菜、紙パックのジュースに生菓子だらけのコーナー。美味しそうな商品は即座にカゴに入れていく。
そしていよいよやって来ました。まだ品数は少ないけれど、個性豊かなお菓子が並べられたお菓子コーナー。
工場で生まれたと思われる加工品が並ぶ景色はまさに絶景。
「このクッキー美味しそう!」
「キラナ! あっちにチョコレートっぽいのあるよ!」
「すごい! 大きな板チョコだ〜!」
キラナは気になったお菓子を手に取ってはカゴに入れていく。
「シロボシ! スーパー楽しいね!」
「うん! お菓子を沢山買い込んで、お家でお菓子パーティーしよ!」
「いいね! じゃあパーティーっぽいものも沢山買い込もう!」
「イェーイ!」
新しいカゴを追加して、新たに炭酸飲料やアイスもカゴに入れていく。
「いやぁ、まさかこんな早くに加工品と再開できるなんて……」
「精霊すごいね! あと、アンダさ……アンダ様の手伝いの効果もあるかも!」
「そうだね〜アンダさんには特に感謝しないと」
アンダさんは精霊を動かして、私の街作りに協力してくれた。
「詳しい魔法技術が入ったおかげで、更に街が発展したよね〜」
「シロボシ、アンダ様と出会えて良かったね!」
そんなアンダさんは、ゴールさんに私との距離感を指摘されて以降、アンダさんからは少し距離を置かれた。
未だに私との距離感を掴めていない様子だけど、それでもアンダさんは今も、私を友達として接してくれている。
「また今度、アンダさんをピクニックにでも誘ってみようかな?」
「素晴らしいご提案です」
アンダさんをピクニックに誘う提案に、キラナ以外の精霊が反応した。
「シロボシ様のお誘いなら、アンダ様もお喜びになることでしょう」
私達の話に割って入って来たのは、魔法少女オーラさん。シンプルな私服姿のオーラさんは、カートを押しながら私達の方へと歩いて来た。
「あ、オーラさん!」
「シロボシ様、キラナ先輩、おはようございます」
「おはよう!」
私達はお互いに朝の挨拶を交わす。
「オーラちゃんもお買い物?」
「はい。新しくできたスーパーを見て回るついでに、食料の買い出しに」
「食料……」
オーラさんの買い物カゴの中には、ゼリー飲料などの栄養食品が沢山。
「精霊なので栄養素は気にしなくてもいいとは分かってはいるのですが……この小さな食品に沢山の栄養が詰まっていると思うと、お得な気がして……」
気持ちは分かる。
「あと、味が好みなので……」
オーラさんって、好きな食べ物を延々と食べ続けるタイプなのかな。気に入った唐揚げを延々と食べ続けるアンダさんと似てるね。
「それより、アンダ様とのピクニックはいつになさいますか?」
「えーと、ピクニックをする以外のことはまだはっきりと決めてないから……」
アンダさんのこととなると少し暴走するオーラさんに戸惑いながらも、私は質問に答える。
「また今度、アンダさんと会った時にそれとなく話をするよ。その時に時間や場所を決めれたらいいかなって」
「そうですね。シロボシ様がアンダ様に直々に伝えてくださった方が、アンダ様も喜びます。それでは」
オーラさんは軽く挨拶をすると、カートを押してその場から退散していった。
キラナは「またねー!」と言いながらオーラさんに手を振り、改めて私に顔を向けた。
「オーラさんって基本はクールだけど、好きな事に向ける情熱はあるって感じがするよね!」
「そうだね〜」
物事を冷静に、かつ事務的にこなす真面目なオーラさんだけど、大切な人のこととなると暴走するきらいがある……って感じ?
「さて、後は何を買おうか……あ、晩御飯のこと忘れてた」
「ねえシロボシ! 折角だから、今日は鍋パもしようよ! オーラさんも誘ってさ!」
「いいね〜! 私も久々にお鍋食べたくなってきた……じゃあ、後でオーラさんにも声掛けないとね」
「楽しそうですね」
私達が晩御飯の話で盛り上がっていると、棚の方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
声のした方を向くとそこには、三角巾とエプロンを身につけたシリウス先生の姿があった。
「シリウス先生だ! こんにちは!」
「シリウス先生、それって店員の格好だよね? ここでバイト始めたの?」
「ギルの修行の一環です」
シリウス先生は優しい笑顔のまま話を続ける。
「はっきり言って彼は社会経験が乏しいので、ここでアルバイトをさせて、少しでも社会経験を積ませようと思いまして……」
「あ、そっか! ギルさんはドラゴンの群れから追い出されて、自分より立場の低い人間に威張って生活してたんだったね! 確かに社会経験は必要かも!」
キラナ……本当のことだけど、もっと言い方って物があるでしょ……
「そっか、社会ってものを教えるためにアルバイトの修行してる感じなんだね」
「そうです。あ、いらっしゃいませー」
遅いよ。
「じゃあギルさんもどっかでアルバイトしてるんだね」
「みたいだね。ねえシロボシ、晩御飯の材料を追加しに行こっか!」
「うん!」
シリウス先生から別れた後、私達は食品が並ぶコーナーで鍋の材料を追加して、レジへと移動した。
「さてと……あっ」
「シロボシ、どうしたの?」
「あれ、あの2番目のレジ」
「ん……? あっ! ギルくん!」
なんと、2番のレジにギルさんが立っていた。
「あっ……」
向こうもこっちに気付いて声を上げる。私達との遭遇に、ギルさんはどこか気まずい様子だね。
まあそれでも、最初の頃と比べたらギルさんとはだいぶ話ができるようにはなった。
ギルさんに対してかわいこぶるのをやめて、普通に接することにしてから、ギルさんの私に対する態度は少し軟化したんだよね。
「ギルさんはレジ担当になったんだね。アルバイトは初めてだろうし、ここはギルさんのためにも別のレジに並んであげよっか」
「そうだね! カゴいっぱいに買い物しちゃったし、ここは邪魔しないように……」
「おい待て」
私達がギルさんのいる2番以外のレジに並ぼうとしたその時、レジ担当のギルさんから唐突に声を掛けられた。
「ん?」
「いくら精霊だからといって、俺を馬鹿にし過ぎだ。その程度の荷物くらい平気だ、寄越せ」
私達の会話がギルさんの耳に入ったみたい。ギルさんは不機嫌そうにしながら、私達を自分のレジへと誘導しようとしている。
「でも、カゴいっぱいあるよ?」
「平気だって言ってるだろ」
「そう? なら、お願いしようかな?」
ギルさんがそこまで言うなら、お願いしよう。
「じゃ、お願いしまーす!」
キラナはカートから商品が積まれたカゴを持ち出して、カウンターに2つ置いた。
「よし……」
「あと、これで全部ね!」
「は?」
キラナは後ろにもうひとつあったカートをギルさんに見せた。もうひとつのカートにもカゴは2つ、これで合計4カゴってことだね。
「……?」
「カゴ4つ、お願いね!」
「4……」
ギルさんは商品が山盛り積まれたカゴに呆然としてる。どうやらカゴは2つだけって勘違いしてたみたい。大丈夫かな……
『うわぁ、すごい荷物! ギルさん大丈夫?』
ギルさんが呆然としていると、スーパーの店員らしきタコ型精霊が可愛い声で介入してきた。
『ボクも応援に入るよ〜! 2人でこのカゴ捌いちゃおう!』
「あ、大丈夫……っす」
ギルさんは我に返ると、店員のサポートを拒否してしまった。
『いや、流石に沢山のカゴを1人にやらせるのは……』
「いえ、俺がやるって言ったんす。言った手前、ここは俺がやらないと……」
『いやいやいや、お客様も長く待つことになるし……ねっ?』
「俺1人でも平気なんで、介入しないでください」
『そっかぁ……えっと……』
「分かったらとっとと別の場所行ってください。本当に平気なんで」
『平気とかそういう話じゃない』
「……!?」
意地を張って1人でレジ打ちしようとしていたギルさんに対して、精霊が野太い声で返事をした。
『アンタ1人の問題じゃない、店の問題なんだ。仕事ならお客様をずっと待たせるのも悪いし、レジが混むのも避けたいんだ。分かるか?』
「あ……はい……」
魔法使って、声が周りに聞こえないようにしてるみたいだけど、大精霊の私にははっきり聞こえている。
隣のキラナは、ギルさんの態度の変化を不思議そうにながめている。
『店に雇われてる以上は店の意向に従ってくれ。あと、ここではそんな無駄なプライドは捨てた方がいい』
「わ、分かりました……」
精霊の低い声に耐性が無いのか、ギルさんは大人しく引き下がった。
「えっと、あの……」
『真の強者に、勝てない勝負に無策で挑むような無謀な奴は存在しない。いざという時は素直に助けを求めるんだ』
「あ、はい…………応援、お願いします……」
『任せて! 一緒にレジ頑張ろうね!』
「はい……」
再び可愛らしい声に戻った精霊と共に、レジで商品の精算を始めた。ギルさん頑張れ!




