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21話 人間と下手に関わると……

 荒野のど真ん中にて。


 星の大精霊である私は今現在、若い冒険者に「これでもか」ってくらいに舐められていた。

 大精霊だと言っても信じてくれないし、それどころか嘘つき扱いされるし……


「シロボシかわい〜!」

「あ、あの……それやめて……」


 女性魔法使いのマリンは私を強く掴んで、頭を力強く撫で回している。やめてって言ってもやめてくれない。


 私、大精霊だよ? 仮に私がただの精霊だったとしても、人間がそんなことして本当に大丈夫なの?


「……あっ、そうだ!」


 そんな中、若い冒険者リーダーは唐突に話を切り出した。


「さっき、君と同じ力を持った精霊を保護したんだ!」

「えっ? 仲間?」

「これ! この道具の中にいるんだけど……」


 冒険者リーダーは腰にさげていたカンテラのような道具を手に取ると、蓋を開けて私に差し出してきた。


「この中に君の仲間がいるんだ! ちょっと覗いてみてよ!」


 馬鹿にしすぎじゃない?


 それってどう考えても、その道具に私を押し込むつもりだよね? いくらなんでも大精霊を相手にその作戦はありえないよね?


 仮にもし私を捕まえる予定だったのなら、私に好意的に接しておいた方が良かったんじゃないの?


 なんというか……大精霊を相手にする冒険者にしては、かなり頼りないね。


 ずさんな作戦を展開する冒険者に困惑する私。対する冒険者達は、私を捕まえようと必死になっている。


「ほら、この中だよ! 分かる?」

「ここ、入れるんだよ! ね、ちょっと見てみない?」

「ここに穴があるんだ、分かるか?」


 入れ物の構造すらまともに理解してない精霊だと思われてる……馬鹿にしすぎ。


「ほら、怖くないよ!」


 そんな見え透いた罠にかかるわけないでしょ。


「可愛いシロボシちゃんにこの家、似合うと思うんだけどなぁ〜」


 まあ、とりあえず入ってあげるけども……


「その中に精霊がいるの?」

「そう! この道具、中は結構広いんだよ。もっと奥らへんに……」

「どこ?」

「もっと奥!」


 マリンから解放された私は、蓋の開いたカンテラに頭を入れて中を覗き込む。


 中は見た目より大きいみたい。私はカンテラの奥を覗き込む。


「そうそう、もっと奥に……それっ!」

「うわっ!?」


 私がカンテラの奥を覗き込んだその瞬間、リーダーは私の頭を強く押して、カンテラの奥へと押し込んでしまった。


「よし! 精霊ゲット!」


 私をカンテラのような道具に閉じ込めたリーダーは、上機嫌でカンテラの蓋を閉じた。


「随分と扱いやすい間抜け精霊だったな」

「へへ……例え頭のいい精霊だろうが、あの程度の嘘をつくようじゃまだまだだな! アホで助かった!」


 私を捕らえられたと勘違いした冒険者達は、大喜びでカンテラを見つめている。


 でも私はいつでもワープで逃げられるから、別に痛くも何ともない。冒険者さん、可哀想に……


「ねえねえ!」


 レオンとリーダーが私を小馬鹿にする中、マリンは嬉しそうにリーダーに話しかける。


「ねえリーダー! その精霊かわいいし、私にちょうだい!」

「マリン、欲しいなら金を出すんだ」

「えー! 1匹くらいならいいでしょ!? レオンのケチ!」


 若い冒険者3人組は、私を閉じ込めたカンテラを前に軽い小競り合いをしている。


「これで2匹目。研究所に持っていけば、結構な額になるな。さて、後は大精霊と遭遇できればいいが……」

「大精霊と遭遇したら、例の道具で動きを封じるんだよな?」


 例の道具?


「そうだ。チャンスは一度きり、あの道具は慎重に使うんだ」

「その道具が上手く動作すれば、大精霊も……! そしたら、一生遊んで暮らせるお金が手に入る! よし、絶対に成功させるぞ!」

「おう」


 レオンとリーダーは顔を合わせて確認し合う。


 アンダさんの言う通りだった。この3人は私を捕らえに、わざわざこんな荒野まで来たんだ。



 ……だとしても、おかしくない?



 大精霊を捕らえたいのなら、もっと口の上手い人とか、もっと力のある人を差し向けるべきじゃないの?


「大丈夫か」


 カンテラの中で考え事をしていた私の元に、アンダさんが姿を現した。


「あっ! アンダさん!」

「様子を見に来た。相手のことは何か分かったか?」

「はい。冒険者は精霊と大精霊が目当てってことがよーく分かりました」


 私と同じくらいの大きさになったアンダさんは、私の話に静かに耳を傾ける。


「でも、変ですよね。冒険者達は見るからに未熟な初心者って感じで……大精霊と対話するなら、もっと賢い人とか、ベテラン冒険者とかの方がいいはずですよね?」


「向こうは大精霊と話し合いをするつもりはない」


「えっ?」


「あの冒険者は生贄だ」


「生贄!?」


 あんな若い子を!? 何で!?


「エルフの国の差し金だ。失礼極まりない冒険者を大精霊に差し向ければ、大精霊は腹を立てて冒険者を傷つけるだろうと考えたんだ」


「……私が冒険者を傷つけたら、どうなるの?」


「人間側は大精霊を倒すための大義名分を得るために躍起になる。人を傷つける危険な大精霊だから討伐すべきだと……」


「大精霊のために、わざわざそんなことを……!? そんな、大袈裟な……」

「大袈裟ではない。ひとつ話をしよう」


 動揺する私を前に、アンダさんは無表情のまま話を切り出した。


「……古来より、この世界において大精霊は神に等しい存在として、人々から崇められてきた」


「そうだったんですか……?」


「ある土地では、ありとあらゆる自然の権化とされ、またある土地では、神の使い……世界の殆どの人々は、大精霊に畏敬の念を抱いていた」


「人間から大事にされてたんですね」


「だからこそだ。大精霊への攻撃は、世界中の殆ど全ての人々を敵に回す行為になる」


「それって、エルフの国……自然支配派がやろうとしてる大精霊の乗っ取りは……」


「この世界では異端だ」


「そっか……えーと、つまり……私がもし、素人冒険者に危害を加えたら……人間の大精霊への評価が下がって……」


「「下がる」と言うよりも「下げられる」と言った方が正しいだろうな。それか、シロボシのみが大精霊ではなく魔王と分類され、排除の対象となるかもしれない」


 アンダさんは無表情のまま、淡々と話を続ける。


「この地に蔓延る、自然支配派の連中はここぞとばかりに大精霊の批判を始める。大精霊は勇敢な冒険者を始末した悪魔だ、人間を害する化け物だと……とにかく話を誇張して拡散し、精霊の始末への足掛かりを作る」


「そんな……」


「だが、人間が騒いだところで全ての大精霊の排除へは踏み出せないだろう。しかし、人に危害を加えた大精霊は……」


「下手したら魔王に分類されて、処分されるんだね……」


「そうなるかもしれん」


 人間怖……私も元人間だけれども、これは流石に……


 冒険者にささやかな仕返しをしようと考えてたけど、やる気が完全に失せちゃったよ……


 まあ、今は冒険者達にどんな下手な真似しても大丈夫なんだけれども。


「じゃあ、大精霊自体の評判が下がったら……」


「もし大精霊への批判が強まれば、別大陸にいるエルフの国の者共は大喜びでこの大陸に現れ、対精霊兵器を用いて我々を仕留めにかかるだろうな」


「それだけは絶対に阻止しないと!」


 すごく軽い気持ちで人間と関わろうとしてたけど、この世界の人間との交流って物凄く難しいみたい。


 私が下手な真似したら、世界そのものに大きな影響を与えかねない。


「人間との接触って難しいんだね……人間に可愛がってもらおうと、この姿になったのに……」


「関わるのはやめた方がいい」


 そう言うとアンダさんは、私に両手をそっと伸ばして、やさしく持ち上げてくれた。


 ……アンダさんもしかして、私との交流のために「子育ての本」とか参考にしたりしてないよね……?


「人間の道具や知識は、人間と交流せずとも手に入る」


「今は関わらない方がいいのは分かったよ……だから、人間に大精霊だってバレないようにしながらこっそり交流するね……」


「交流はやめておけ」


「あっ! 私に似たぬいぐるみを遠くから操作して交流すれば……!」


「シロボシ、めっ」


 怒られた……


 これ以上駄々こねても、頑固なアンダさんを説得するのは無理そうだね。ここはひとまず諦めるしかない。


「分かったよ、今は諦めるよ……」


「人間とは金輪際関わるな、惨めな思いをするだけだ」


 アンダさんは強い言葉で私を止めるけど、私の頭を優しく撫でてくれた。


「街を作りたいのなら俺も手伝う。可愛がられたいのなら俺が可愛がる。街に人間が来れないよう細工しよう。シロボシ、人間とはもう関わらないでくれ」


 アンダさん、なんだか悲しそう……


 もしかして、人間と何かあったのかな……?




「ねえ君達。出会って間もないにも関わらず、やけに距離が近いんじゃないかな?」


「!?」

「えっ?」


 カンテラの中で2人きりの空間に、唐突に第三者の声が話しかけてきた。

 アンダさんは驚いて、私は声のした方を向いた。


「……!?」


 私達の視線の先にいたのは、ニコニコ笑顔の紳士。


「まあ無理もないか。アンダくんにとって、久しぶりの友達なのだからね」


 オシャレなスーツを着こなした白髪の紳士は、私達に笑顔で語りかける。


 見た目や仕草は人間臭いけど、感覚で分かる。この人は明らかに人間じゃない。


 それに、あのアンダさんがすごく警戒している。もしかして、この人って……


「それでも、少しは距離感を気にした方がいいと、私は思うね」


「あの、貴方は一体……」


「おっと! 自己紹介がまだだったね!」


 私の言葉に紳士はわざとらしく反応すると、私達の前で簡単な自己紹介を始めた。


「私の名前はゴール。世間では雷の大精霊とも呼ばれているよ!」

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