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20話 星の大精霊、若い冒険者と遭遇する

「ん……?」


 太陽が真上に昇った頃。荒野の中で寝転がっていた冒険者達3人は、ゆっくりと目を覚ました。


「ここは……」


 冒険者グループのリーダーらしき男性はその場で起き上がり、片手剣を構えながら辺りを見渡す。


「……外?」

「だな……荒野のど真ん中だ……」


 リーダーの言葉に、弓を背負った大人しそうな男性が反応する。


「そうだ、確か……新しく生まれた大精霊に会いに行くために、荒野を歩いて……」

「道中で人と遭遇して、そこから記憶が無い……」

「今は……誰もいないよな……」


 2人の男性冒険者はお互いに顔を見合わせ、状況を整理する。


「……はっ!」


 最後の1人、魔法使いの女性はその場から飛び起き、辺りをしきりに見回した。


「さっき目の前に突如として現れたイケメンは!? 何処!?」

「もう誰もいないぞ」

「もういなくなってるの……そんな……イケメン……」

「いや、アイツはどう考えても怪しいだろ」


 残念そうに俯く女性に対し、大人しい男性射手は冷静に咎めた。


「こんな荒野で武器も防具も無し。それ以前に、まともな荷物すら持ってなかったんだぞ」

「この辺に住んでたんじゃないの?」

「だとしても、荷物無しはまずありえないだろ。アイツは何しに外に出ていたんだ」

「散歩でしょ」

「見た目がいいからといって、そこまで擁護する意味が分からん。アイツは明らかに人じゃない」

「そんなことないもん」


 冷静に語る男性射手に対し、女性魔法使いは苦しい反論を述べる。


「マリン、希望的観測で物を語るな」

「何よ! レオンより顔が良かったからって拗ねることないでしょ!」

「拗ねていない。そもそも、奴が現れた瞬間に意識を失ったんだ」

「でも何もされてない! あの人はきっと、私達を助けてくれたんだよ!」

「だから希望的観測で物を語るな」


 お互いの名を呼び合いながら意見を飛ばし合う2人の間に、険悪なムードが漂う。


「まあまあ! その辺にしとけって!」


 空気が悪くなりそうな中、リーダーはすかさず2人を止めにはいった。


「マリン! その人のことを信じたいのは分かる! けれど、まだその人のことは何も分かっていないのに、大丈夫だと判定するのは危ないと思うぞ!」

「それはそうかもだけど……」


「レオン、確かに正論は大事だ! だけど、そんな冷たく論したら反発もされるぞ! もう少し、優しく論してあげてくれ!」

「すまない……」


 リーダーの言葉に、2人はなんとか落ち着いたらしい。



 ……なんというか、全体的に幼い冒険者だね。見た目も若いし、なんか未熟な感じするし。



 とりあえず、向こうはひと段落ついたみたいだから、このへんでそろそろ顔合わせといきますか。


 異世界の人間との初遭遇! 気を引き締めていこう!


「おーい!」


 私は冒険者グループに向かって元気よく声を掛けた。 


「!」


 冒険者達は、何処からともなく聞こえてくる声に驚いて辺りを見回した。


「こっちこっち!」


 冒険者達が困惑する中、私は両手を振りながら荒野の向こうから現れて、冒険者達に向かって移動を始めた。


 小さな足で懸命に駆けつけるこの姿、加護欲がそそられないわけがない。人間はたちまちのうちに虜になるに違いない。


 小さくてコンパクトな全身を使って懸命に走る私。猫のようなとんがり耳と、金平糖のような尻尾がぴょこぴょこ揺れる。


 どこから見ても愛らしい私は、冒険者達の前まで駆け足で移動すると、冒険者達に向かって元気よく挨拶をした。


「こんにちは!」


 猫型マスコットの姿をした私の挨拶に、冒険者の皆んなは目を丸くしている。


「あのね、友達がね、人間が地面に倒れてるって私に教えてくれたの」


「あ、えっと……そうなんだ……」

「えっと……君は……」


 冒険者さんは、こういう可愛い生き物を見るのは初めてなのかな? すごく戸惑ってるみたい。


「あっ、自己紹介がまだだったね!」


 私はその場でくるりと一回転して、可愛く自己紹介を始めた。


「私は星の大精霊シロボシ! 美味しい物が大好きな精霊だよ!」


 大きな頭を傾けて、両手を広げて元気よく自己紹介。これは可愛い。


「……」

「人間さん、よろしくね!」


 人間をさん付けする上位存在、可愛いでしょ? 冒険者諸君、私を手厚く保護してくれてもいいんだよ?



 なんて思った、その次の瞬間。


 右側にいた女性魔法使いが突然、私に向かって両手を伸ばしてきた。


「すっっごくかわいいっ!」


「ぐえっ!?」


 女性魔法使いマリンは私を全力で抱きしめ……いや、馬鹿力で抱き潰してきた。


 全身を柔らかくしていた私の全身は、マリンの両腕によってペシャンコになった。


「待って! ちょっと止まって!」

「やだ! 離さない!」


 私の待ったを全く聞かず、マリンはとにかく力任せに私を抱き締めて振り回す。


「こら、やめないか」

「やだ!」


 弓使いのレオンに指摘されてもなお、マリンは私を離さない。


 マリンは思うがままに私を愛でている。私の全身を、これでもかというくらいに揉みくちゃにして……てかこの子、力強っ!


「こらマリン! それは一応は精霊だぞ! そんなにしたら怒られるだろ!」


 冒険者リーダー、私のことを「それ」って言った?


「大丈夫だよ! この子、全然怖くないよ!」

「あっ、こら!」


 マリンは私の両頬を掴んで伸ばした。そんなマリンに対して、リーダーはすぐさま怒鳴りこんだ。


「違う! そんな事して精霊を傷つけたら、後で研究所から文句言われるだろ!」


 えっ? 怒られるって、私からじゃなくて研究所から? 私の怒りは怖くないの? 私、大精霊だよ?


「リーダーの言う通りだ。もし後で研究所が報酬を減額したら、後でマリンの分け前を減らすからな」

「えーっ!」

「当然だろ。掴むならまだしも、そこまで力強く握りしめて何もないわけがない」


 掴むならまだしも???


 初対面を相手に掴むのはオッケーなの?  というか、さっきから私のことを精霊って呼んでる?


「力任せに掴んだら、いくら頑丈な大精霊だろうと価値が下がるだろ」


 価値が下がるから乱暴に扱うなってのは違くない? そもそも、それを本人の前で言うのはどうなの?


「マリン」

「ああもう! 分かったってば! レオンはすぐそうやって嫌な事言うんだから!」


 レオンの忠告を聞いたマリンは、ようやく私を手放した……かなり乱暴に。


「あだっ!?」


 唐突に解放された私は、地面に頭をぶつけた。痛くはないけど、つい口に出してしまう。


「あたた……」


 酷い目に遭った。なんでこんな酷いことを……私、こんなに可愛いのに……


「ごめんな大精霊! ここはリーダーの俺に免じて許してやってくれ!」

「なんか、私の扱い酷くない……?」

「まあまあ、そう言ってやるなって! マリンも悪気は無いんだからさ!」


 悪気が無かったら何してもいいの?


「それにさ、そんな怒ってもいいことないぜ?」

「別に怒ってないよ……」

「そっか! ありがとな!」


 いや、今のは怒りを収めたってわけじゃなくって……まあいいや。

 それ以前に君達、大精霊ってすごい存在だってことを忘れてない?


 ……いや、そんなことでへこたれちゃダメだね。


 相手は若者、悪気があってやってるわけじゃない。うん。


「……大精霊、と言ったか。お前……」

「ん?」


 なんてことを自分に言い聞かせていると、唐突にレオンさんが話しかけてきた。


「人間さん、どうしたの?」


「嘘をついてもいいことないぞ。お前、ただの精霊だろ」


 ちょっとだけ泣いていい?


「ねえ人間さん……なんで私に対して、そんなに当たりが強いの……?」

「責めてない。ひとつ指摘しただけだろ」


 さっきまでのやり取りもう忘れたの?


「そもそも……シロボシ? って、全然強そうじゃないよ? どう見ても力の弱い精霊だよ?」

「まあそうだな……大精霊はもっと壮大な見た目をしてるはずだよな。わざわざ弱く見せる意味なんてないよな……」

「精霊。嘘をつくにしても、もっと上手くつくんだな」


 なんかすごく馬鹿にされてる……


「いや、私は本当に大精霊……」

「はいはい、シロボシちゃんは強いでちゅね〜」


 マリンは私を強く掴んで、頭をグリグリと撫で回してきた。


 ここで私は思った。



 可愛いマスコット人生って、想像以上に難しい……と。



 上手く立ち回らないと、鼻で笑われて見下されて、雑に扱われる。



 馬鹿にされるし、雑魚だと思われるし……もう散々。可愛いって、すごく難しい。



 そりゃ初対面のギルさんも、私に対してあんな態度を取るわけだ。


 現に、現在進行形で人間から舐められてる。


 それはもう、これでもかってくらいベロンベロンに舐め回されてる。



 ……この冒険者3人には、後で絶対に仕返ししよう。



 頭をグリグリ撫で回される私は、「可愛い」がいかに難しいかを身をもって思い知ったのと同時に、冒険者には軽い復讐をすると決意したのだった。

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