幕間 新入職員たちの昼休み
公安本部食堂。
有翼種が羽(翅)を広げても快適に過ごせるように、天井も高く広々と設計されているその場所に、わいわいと集まる集団がいた。
彼らはまだ制服に着られている感満載の、新入職員たちである。今期の新入職員たちは、研修期間から仲が良い。昼休みにこうやって集まって、情報交換という名のおしゃべりをしたり、愚痴を言い合ったり相談したりもするのだ。
「で、で、副班長のガ-ドナー先輩、超かっこいいの!! こないだなんて……」
「いいなー! でもうちのシマヅ先輩もかっこいいし、めっちゃ優しいしおやついっぱいくれる!! それも手作り!! 先週は大福と……」
「僕のトコのキャロライン班長はとても美人で知的なんだけど、更にすごい酒豪で……」
「ノーマーシー班長は頼りになるオヤジって感じで、かっこいいな~。今度いっしょに初めての制圧に参加する予定なんだ!」
今日は各部署の先輩自慢のようだ。そんな中、黙っていられない男が。
「サコン兄ちゃんはピカイチかっこいい!!」
「あー、はいはい」
ミヨシ・ミクリヤである。仲の良い別部署の同期に、いつものようにあしらわれている。
「こないだ初等科の安全教室に行ったんだけど、やっぱり大人気でぇ」
「お前ホントにササハラ先輩大好きだよな」
同期はコウモリの獣人と馬の獣人のハーフだ。名前はエルメ・エルルージュ。所属は二課十班だ。美味しそうに果物を齧りながら、ミヨシの話に付き合ってやっている。
「うん! 小さいころから俺のヒーローだよ!」
見た目の蟲性の弱さに反して、食性はだいぶ蟲性が強いミヨシは、手にした樹液ゼリーのパックをぐっと握りしめた。ちょっと溢れている。
「角かっこいいし剣術も強くて優しくて……」
「何度も聞いたよ」
「でへへ! 何度話してもいいものはいい! あ、エルんとこの先輩たちはどんな感じ?」
「あー、俺、通信要員であちこち呼び出されることが多いから、そっちでよくいっしょになる先輩がいるんだわ。二課一班のニコラス先輩」
「あ! あの落ち着いた大人って感じの! かっこいいよね!」
「そうそう! コウモリ系職員少ないから、ほぼマンツーマンで通信のあれこれ教えてもらってるんだけどさ、なんか寡黙な出来る大人って感じでマジかっこいい」
結局エルメも語彙が「かっこいい」に収束していく。新入職員たちが先輩たちを語るときは、皆こうなってしまうのだ。
「そういえばこの前、一課十二班の先輩たちともいっしょにお仕事したんだよね。さっき言った安全教室だけど」
「え」
パックから樹液をちゅーちゅーしているミヨシが何の気なしに言うが、エルメは一瞬固まる。
「それってあの……エンジェリアの……」
「うん、コルジさんもいっしょ! コルジさんはサコン兄ちゃんの同期なんだって。いいなあ!」
「何がどういいのかわからんけど……その、どんなひと?」
エルメは交流会でコルジと話していない。そのため、御伽噺のような神聖種で、あれこれ注意事項のあるひととしか認識していない。
「すっごい綺麗で、翼がいいにおいして、いいひと! なんてったってサコン兄ちゃんのかっこよさをわかってるし!」
「基準」
「あと無邪気で素直で、元気!」
「……こども?」
「でもやっぱり流石先輩っていうか、仕事はしっかりできるんだよな~。俺も見習わなきゃ」
「そ、そうなんだ……?」
更にイメージが固まらなくなってきたエルメである。
「うん! あと、コルジさんといっしょにいたサンリさんは、素手格闘術のプロらしくて……あ、そういえば俺、今度八課と制圧任務に当たる予定なんだけど、エルは?」
「あー、お前制圧術の成績いいもんな……俺も一応、通信官見習いってことで行く予定」
ミヨシはサコンと同じ道場で剣術を修めている(サコンに憧れて入門した)上に、背中の翅が硬く自前の鎧のようになっていて混戦にも向いているので、八課から制圧の手伝いに声が掛かっている。
「そっか! お互い怪我無くがんばろうな! で、そのサンリさんは制圧でサコン兄ちゃんとよくいっしょになるらしくて……そういえば同じ寮生だって言ってたな……名前も『サ』で始まるし……ずるい!!」
「ずるくねぇよ???」
話があちこちに飛ぶ(けれどサコンに収束する)ミヨシだ。サンリは知らぬ間になんだか嫉妬されている。
その後もふたりはサコン自慢や自主勉強会の情報やサコン自慢やどの研修に参加するかやサコン自慢などを話して、昼休みを過ごすのであった。
ちなみに、制圧中のミヨシの様子については、いろいろな意味で「流石サコンと同郷」という感想があちこちから出ることになるのだが、それは後の話。
(END)




