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(3)

 交通安全教室が終わると、今度は大講堂に移動して生活安全教室である。

 戸締まりなどの基本的な防犯対策や、手足の形状に合った防犯ブザーの選び方や使い方、何かあったときに派出所に逃げたり、派出所の公安職員さんに助けを求めることなども指導する。大事なお仕事なのだ。

 これはあまり人員が要らないので、お手伝い要員のコルジとサンリはこどもたちの後ろで待機している。コルジは真面目に職員たちの説明を聞いて、こどもたちといっしょに元気よくお返事したり挙手したりしている。コルジにとっても初めての生活安全教室なので、ちゃんと参加しているのだ。えらい。


「勉強になるなぁ! なあ、サンリ!」

「そっすねー」


 コルジはご満悦である。サンリもそれなりに真面目に聞いているが、これは大事な授業だな、としみじみ思う。また、ミヨシががんばって準備して練習していたのも知っているので、彼が頑張っている姿を見ているとなんだか感慨深い。先輩面である。


 こどもたちとコルジがしっかりお勉強して、生活安全教室も終わった。自分たちの教室に戻る前に、アンジュちゃんがコルジに飛びついて「おべんきょうたのしかったねー!」「うむー!」と仲良くしていたので、教師たちや他のこどもたちも寄ってきた。サコンも毎回の如く男児たちによじ登られている。嫉妬したミヨシがその近くをうろうろしている。


「……はい、じゃあまだ仕事あるから、帰りますよ先輩。アンジュちゃん、また後でね」

「うんー! あ、サンリお兄ちゃん、今日の夜ごはんはカレーだって!」

「お。嬉しいな〜! じゃあアンジュちゃんも、学校がんばってね」


 暫くは大目に見ていたが、そろそろ時間なのでサンリはコルジを回収した。今夜の献立情報も入手した。

 コルジは初めての初等科にまだ興奮冷めやらぬ様子だが、おとなしく手を引かれて公安への帰路に就く。


「なにもかも小さくてかわいかった! 椅子も机も水飲み場も!」

「そっすね、確かに。今見ると小さかったな〜」

「本来の姿なら、ちょうどよさそうだった! すごいな、こどものために施設自体が設計されている! 火災報知器や非常ブザーもちゃんと低い位置にあった!」

「よく見てるっすね」

「でも大講堂の消火器の保管庫は、古いタイプだったな。あれは手足の形状がヒューム寄りじゃないと開けにくいんだ。あとでサコンに話しておこう」

「……よく見てるっすね!?」


 時々不意打ちでお出しされるコルジの「ちゃんとしている部分」で殴られるサンリである。


「ふたりとも、お疲れさま! 帰ろう!」

「帰りましょう!」


 そこへ教材などを抱えたサコンとミヨシが合流した。


「お! 丁度いいところに。サコン、大講堂の消火器の……」

「ああ、確かに。今度学校側に……」


 コルジは早速情報を共有して、サコンとあれこれ話し合っている。その背中を、サンリとミヨシは見ながら歩いていく。先輩たちに学ぶべきことはまだまだ多いのだ。





「やあ、ふたりともおかえり。コルジくん、初等科はどうだった?」


 一課十二班に戻るとクラウデンとデルタが出迎えてくれた。


「はい! こどもたちが元気でかわいかったです! 学校も、すてきでした! 全部小さくて……」


 身振り手振りを活用したコルジのお話を、クラウデンとデルタは「うんうん」「えらいわねぇ」と穏やかに聞いてくれている。その横でサンリは今日の活動内容を記録しておく。


「……というわけで、俺もいつか初等科に通いたいです!」

「いや、就職してるひとがなに言ってんすか」


 記録しつつも、突っ込みは入れておく。


「うむ、そう言われれば。残念だが!」

「でもかわいいでしょうねぇ、初等科一年生になったちっちゃいコルジくん……おててを繋いで横断歩道を渡りたいわねぇ……参観日とかも……」


 デルタがうっとりと想像している。以前コルジの本来の姿を見てから、母性と言うか庇護欲が爆発してなにやらダメになってしまっている。


「……ええと。サンリくん、業務は滞り無かった? ふたりとも初めてだったろう?」


 クラウデンがそっと話題を変えた。


「あ、はい。俺も先輩も、問題なかったです。先輩は設備の懸念事項を見つけて五課と共有もしてましたね」

「うん、とてもよいことだ。君もコルジくんも、出来ることを増やしていこうね」

「そっすね……はい。がんばります」


 最近、クラウデンが様々な経験を自分たちに積ませようとしていることは、サンリもわかっている。お手伝い班として、ある意味、他のどの部署よりも色々なことが出来て恵まれているとすら思う。これなら一番手のかかる先輩がどこでなにをしでかしても、対処できるだろう……と思ってしまっている辺り、コルジの保護者としての立場が無自覚に染み付いているのだが、今更のことなのである。


「あ! 俺もがんばります! サンリ、いっしょにがんばろうな!」

「はいはい」


 手のかかる先輩も、その先輩に無邪気に信頼されている後輩も、がんばるのである。





「じゃあミヨシ、今日の業務でなにか気づいたこととかあるか?」

「やっぱりサコン兄ちゃんはかっこよかった!!」

「……どうも。他には?」

「えーと……カブトムシ蟲人は人気なんだなって!」

「……」


 ごちん、とサコンはミヨシの脳天に拳骨を落とした。五課五班。本日の交通安全教室と生活安全教室を終えての、反省会である。


「痛いよ兄ちゃん~!」

「ちゃんと仕事しろ! まったく!」

「サコン兄ちゃん見てたら、それだけで勉強になるから大丈夫だよ!」

「そんなこと言って、お前は道場でも技を中々覚えられなかったじゃないか!」

「だって兄ちゃんの剣術かっこいいんだもん!」

「だもんじゃない、だもんじゃ!」


 再び拳骨が落ちる。

 この一年生は、まだまだがんばらないといけないようだ。


(END)


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