CASE 030: 書かれなかった報告書
記録者
GIA本部特別記録監査官
アナスタシア・ヴェイル
基本情報
事件名: 書かれなかった報告書
発生日時: アイオス暦1515年5月18日 午後1時10分
通報者: GIA本部記録課 第七保管室職員 ユーン・マリアス
事件場所: GIA本部記録棟 第七保管室
事件状況: 解決
被害者:
名前:セドリック・ファロウ
年齢:45歳
職業:GIA記録課 第一調整官
住所:本部付属官舎E-03号室
死亡時刻:午後12時50分頃
死因:心肺停止(遅効性毒素「ディグマ・ゼロ」経口摂取)
事件概要
GIA本部の記録課にて、調整官セドリック・ファロウが死亡。
彼は事件直前まで報告書を一件分作成中であり、机上には下書きと思われる文書が残されていたが、
その報告書には事件名も被害者名も記されておらず、宛先も不明だった。
検死の結果、死亡は遅効性毒物の摂取によるものであり、事故や自然死ではないと判断された。
しかし、外部からの侵入の痕跡はなく、セドリック自身の端末には最後まで未送信の報告書草稿のみが残されていた。
調査の末、同僚であり後任候補とされていた**ヴァレン・ケイン(38歳)**が毒物の保管記録に関して不正を行っていたことが発覚し、事件関与が判明。
現場到着と検証
13:10 記録課職員ユーンより通報、GIA本部内警備班が先行対応
13:35 アナスタシア監査官が現場入り、被害者の端末および草稿を検証
13:50 保管記録から「ディグマ・ゼロ」微量欠損を確認
14:20 ケインの端末より、削除済みファイルの一部復元(セドリックに関する密告案)
14:55 被害者の机から、署名のない封筒とUSB媒体を発見
15:30 ヴァレン・ケイン拘束、尋問により供述開始
現場検証の結果
毒物は業務用カップに微量混入されていたが、摂取経路に明確な痕跡はなかった
被害者が作成していた“報告書”は、GIA内部での処理不正および記録改竄に関するものであった
草稿の内容は途中で途絶え、冒頭にはこう書かれていた:「これが記録されるなら、私はもういない」
ケインは監査対象になりかけていた自身の過去処分を、セドリックに再報告されることを恐れていた
犯人の特定と供述
ヴァレン・ケインは拘束後、自らの行為を認め、淡々と以下のように語った。
犯人の供述
彼は、“記録の原理主義者”だった。
どんなに小さな不正でも、彼の目には許されなかった。
でも、GIAに所属している人間が全員、完璧なわけがない。
俺もそうだった。昔、ほんの一度、処理を飛ばした。
だが彼は、それを許さなかった。
再報告書を作り始めた時点で、俺の未来は消えた。
だから俺は、それより先に彼の記録を止めた。
彼が最後に書いた草稿は、完成しなかった。
“記録にならなければ、存在しなかった”のと同じだ。
――だろ?
裁判結果
アイオス暦1515年10月4日、GIA本部管轄裁判所にて以下の主文が下された。
主文
被告人ヴァレン・ケインを、殺人および内部記録操作・職権乱用の罪により有罪とする。
記録機関の根幹を損なった罪の重さを鑑み、死刑を言い渡す。
所感
記録とは、存在を認めるための行為だ。
だがその記録が、他者の生を消し、正義を奪う手段になった時――
それは、記録の名を借りた“消去”でしかない。
彼の草稿は完成しなかった。だが、ここに“記録”された。
それこそが、GIAの矜持だと私は信じている。
アイオス暦1515年10月7日 GIA本部にて事件記録受理。




