CASE 026: 白紙の楽譜
記録者
GIA南中央支部
クレア・イヴリン
基本情報
事件名: 白紙の楽譜
発生日時: アイオス暦1514年3月30日 午後1時05分
通報者: 音楽アカデミー講師 ベレッタ・グライス
事件場所: フォリュン市立音楽アカデミー 第3練習棟 ピアノ演習室
事件状況: 解決
被害者:
名前:イルマ・セレスト
年齢:24歳
職業:音楽アカデミー特待生(作曲専攻)
住所:フォリュン市 学生寮北棟 207号室
死亡時刻:午後12時40分頃
死因:中枢神経破壊(可聴域外の連続音刺激による神経興奮)
事件概要
音楽アカデミーの演習室で、天才作曲学生イルマ・セレストが死亡。
遺体はピアノの前で発見され、彼女が書いていた譜面はすべて「白紙」であった。
現場には強い聴覚刺激を受けた形跡があり、耳内部の損傷と神経焼損が見られた。
調査の結果、被害者が“音に依存した作曲法”を使っていたこと、
そして彼女の恩師であり過去に破門された元作曲家**ティロン・ヴァース(58歳)**が、
音響誘導型の精神破壊装置を仕掛けていたことが判明。
現場到着と検証
13:05 通報受理、GIA南中央支部へ即時派遣
13:30 クレア調査官が現地到着
13:44 演習室内の録音機器に異常周波数の痕跡を確認
14:10 ピアノ内部に小型音響共鳴装置を発見、演奏に反応して高周波を放出する仕様
14:25 被害者の作曲資料から“音の幻視による作曲”に関する記録を回収
15:00 アカデミー旧職員記録より、ティロン・ヴァースの出入りと設置の痕跡を確認
15:45 ヴァースを市外の宿泊施設にて拘束
現場検証の結果
装置は鍵盤の打鍵に連動して稼働し、特定の音列に反応して神経を過刺激する設計だった
被害者は演奏中に異常を察知したが、既に神経への影響が進行していた
演奏は「ある音を鳴らすと破壊される」構成になっており、まさに彼女の最新作の楽譜に当たっていた
楽譜にはあえて一切の音符が記されていなかった――全てを“耳で書く”ためだった
犯人の特定と供述
ティロン・ヴァースは、かつて音楽アカデミーで「音の暴力性」を研究していた人物であり、拘束後も一貫して反省の態度を見せなかった。以下、供述の要約である。
犯人の供述
彼女は、俺の“完成形”だった。
俺が試した音、俺が恐れた音――それを、彼女は無意識に書いていた。
あれは芸術じゃない。
あれは、音が人を壊す“証明”だった。
俺が破門されたのは間違いだった。
だが、彼女の存在があの理論を現実にした。
だったら、俺の“仮説”は、正しかったということだろう?
この死は、犠牲じゃない。
証明だ。
芸術は人を救わない。
音は、人を殺す。
裁判結果
アイオス暦1514年10月10日、GIA南中央管轄裁判所にて以下の主文が下された。
主文
被告人ティロン・ヴァースを、殺人および音響兵器技術の不正使用の罪により有罪とする。
芸術と暴力の境界を意図的に曖昧にし、生命を実験材料とした点を重く見て、終身禁錮刑を言い渡す。
所感
音は、記憶を揺らし、心を動かし、ときに破壊する。
白紙の譜面に込められていたのは、音楽ではなく――沈黙だったのかもしれない。
その沈黙が、叫びであったことを、我々は記録しておく。
アイオス暦1514年10月15日 GIA本部にて事件記録受理。




