CASE 025: 無窓の楽園
記録者
GIA西大陸第七支部
ジュリアン・マクレガー
基本情報
事件名: 無窓の楽園
発生日時: アイオス暦1512年8月22日 午後4時30分
通報者: 元施設職員 エンマ・ロイゼン
事件場所: グレヴァス自治区南部 山間部非公開施設「エルネア再生院」
事件状況: 解決
被害者:
名前:ラフィナ・コール
年齢:19歳
職業:元患者(保護観察下)
住所:施設内居住棟第3区画
死亡時刻:午後3時50分頃
死因:神経制御阻害による全身機能停止(高濃度セレトニン誘導剤の過剰投与)
事件概要
精神再構築を目的とした閉鎖型施設「エルネア再生院」にて、入所者の少女ラフィナ・コールが死亡。
施設は外部からの監視を拒み、“治療”と称して独自の再社会化プログラムを施していた。
遺体の様子、及び当日分の投薬記録に不審な点があり、元職員からGIAへ通報。
調査の結果、施設の主任医療技官**ナタン・エルロイ(52歳)**が、許可外の強制投薬により患者を操作していた事実が発覚。
その中で、ラフィナだけが投薬の「効果に抗った」存在であったとされる。
現場到着と検証
16:30 元職員エンマ・ロイゼンより通報
17:05 GIA西大陸第七支部調査官ジュリアン・マクレガー現地到着
17:20 ラフィナの遺体検視、身体拘束具の痕跡および過投薬反応を確認
17:45 投薬記録ログの一部が削除されていたことを確認
18:15 医療器具倉庫より非承認薬品「ニューロファクトS」複数を押収
19:00 ナタン・エルロイの執務室から“観察記録”と称する詳細な被験者メモを押収
19:45 拘束、尋問により自供開始
現場検証の結果
被害者は通常の投薬量の約6倍にあたる量を投与されていた
投与経路は自動滴下式制御装置、ログは後から書き換えられていた
被害者の脳神経活動は直前まで異常な活性状態を示しており、完全な投薬無効状態が発生していた
“観察記録”には、ラフィナを「沈まぬ意識」「処置不能な光」と記述していた
犯人の特定と供述
ナタン・エルロイは拘束後、捜査官に対し次のように供述した。
犯人の供述
彼女は、治らなかった。
すべての患者が薬で静かになり、素直になる中で、
ラフィナだけは、目を逸らさなかった。
何度も、私をまっすぐ見つめてきた。
あの目が、恐ろしかった。
私は医者だ。人間の精神は、薬で均されるべきだ。
痛みも、怒りも、喜びさえも、整えられてこそ平穏がある。
だが、彼女だけは違った。
感情がそのまま残っていた。薬の壁を突き破って。
彼女は、無窓の楽園に風を入れてしまった。
だから、私は……
彼女を静かにしたかった。それだけなんだ。
裁判結果
アイオス暦1513年4月3日、GIA西大陸管轄裁判所にて以下の主文が下された。
主文
被告人ナタン・エルロイを、殺人および違法投薬、人体実験の罪により有罪とする。
精神的再構築を名目とした操作を行い、生命の尊厳を踏みにじった点を重く見て、終身禁錮刑を言い渡す。
所感
支配とは、静けさではない。
従順さの裏に何があるのかを、我々は見極めなければならない。
彼女のように、“薬では沈まなかった魂”が確かに存在したことを記録する。
この記録が、いつか彼女を“取り戻す”誰かの手に届くことを願って。
アイオス暦1513年4月7日 GIA本部にて事件記録受理。




