9話 モネの情報提供
「情報提供しようと声をかけてくれたんだな? ありがとう」
「別にサリュ王子を案じてるわけじゃないわよ。シトエン妃の安全が脅かされるのがいやなの」
……こいつ、なんでそんな「やめてよ、気持ち悪い」って顔をするんだろう……。
ほんと、シトエン第一主義なんだな……。俺なんてシトエンを守るコマのひとつぐらいにしか思ってねぇ。まあ、それだからこそ、安心してシトエンを預けられるんだが。
「シトエンがなぜ狙われているのかについてなんだが。それは、竜紋がかかわっているのか?」
「竜紋?」
珍しくモネが目をまたたかせた。ラウルも見逃さない。ちらりと俺に視線を送ってくるから、うなずいた。
「違うのか?」
「いえ、そういう意味じゃなくて。私たちは確かにシトエン妃にまつわることを請け負ったけど……。理由なんて知らないのよ。知らされない」
モネの言動に嘘はないように見えた。それはラウルも同じなのだろう。
「ほかにもいろいろ聞きたいんだけど」
そう切り出した。
「ルミナス王国が清掃人の拠点なのかい?」
「拠点らしきものなら各国にひとつはある。私たちはタニア王国での活動が拠点だったわ」
あ、そうか。
この姉妹もタニア人なんだった。
そう思って、俺は驚く。
「ん? じゃあ、ひょっとしてティドロスにもあるってことか?」
「あるでしょうね。だけど私はどこにあるのかは知らない。基本的には私たちは国を出ないし」
なるほど、だから違和感ないわけか。
タニア王国にいるタニア人が暗殺者なんだもんなぁ。
そういえば頭なんて、多国籍的な顔してたよな。どこの国の人間だって言ってもなんとなく納得できるような……。
「お前たちの頭は貿易商を装っていたが……。そうやって各国を回っているってことか?」
ラウルが尋ねる。モネは頷いた。
「そうやって商品と一緒に情報も売っていると聞くわ」
「情報……」
ラウルと顔を見合わせる。
ということは、その中で竜紋に関する知識を得たということもありうる。
「どうやらティドロスに入り込んだらしい。ルミナス王国から連絡が来た」
白い便箋を指でつまんでひらひらさせると、モネはわずかに口の端を下げた。
「……やっぱりシトエン妃をあきらめないのね」
「清掃人が得意にしているのはなんだ? なんでもいい。教えてくれ」
俺が尋ねると、モネは腕を組んで片足に重心をかけた。
「清掃人によるとしか言えない。閨房術を使って情報を得る者もいれば、ふたつの短剣をつかって暗殺をするものもいるし……。王侯貴族の護衛のために騎士に変装するものもいるしね」
「多様なんだなぁ」
思わず感心したらラウルに咳払いされた。
「シトエン妃を狙うとしたら、やはり外に出たときか?」
ラウルが尋ねると、モネは首を横に振った。
「本気になればどこにだって入っていくわ。実際、王城内にも入り込んだでしょう? どこも一緒よ」
それもそうなんだよなぁ……。
「一番安全なのは、見知らぬ人間を近づけないこと、じゃない? 侍女もメイドも執事も料理人も。古くから付き合いのある人間がいいでしょうね。ま、それでも」
モネは肩をすくめた。
「カネになびく人間というのは一定数いるわ。それでも揺れないなら、揺れるように人質とるとか、ね」
「……やり方汚ねぇな」
「だって暗殺者集団だし」
しれっとモネが言い、それから俺に問うた。
「頭を覚えている?」
「まあ……なんとなく」
思い浮かぶのはあの白煙の中に消えた男。俺に大けがを負わせた男だ。
ただ、本当に印象に残らない顔……なんだよなぁ。
「サリュ王子のように筋肉隆々というわけではないし、目立つ容姿もしていない。だけど強い。頭が格闘戦で負けたところを見たことはないわ」
「君たちのようなナイフ技が得意なのかい?」
ラウルが尋ねる。モネは少し考えを巡らせるように天井を見た。
「ナイフも使うけど……。基本、その場にあるものならなんでも。枯れ枝で目を刺すとか、紐で頸動脈を止めるとか。濡れた布袋で窒息、とか」
「こわ……」
「頭が来たら、とにかく手が届く範囲は近づかないこと。多勢で押すこと、ぐらいかしら」
「なるほど、ありがとう」
礼を言うと、また嫌な顔をされた。なんでだ!
「何度だって言うけど、サリュ王子のためじゃないわ。私たちを救ってくださったシトエン妃のためよ」
「そうかい」
「帰るわ。時間をとってくれてありがとう」
あっさりした態度でモネが言った。
「もしなにかほかにも思い出したことがあればよろしく頼む」
モネは軽く頷き、退室するそぶりをみせたものの、足を止めてくるりと振り返った。
「………それと。ひとつ、お願いがあるんだけど」
「珍しい。なんだ」
ラウルも俺と似たような顔でモネを見ている。
モネは言いにくそうにちょっと口の端を震わせたけど、意を決したように口を開いた。
「シトエン妃の誕生日の一か月後に、ロゼの……妹の誕生日があるの」
「へぇ、意外だな。いやあ、なんか真夏に生まれた感じがする」
「それ言うなら、団長もですよ。団長は春の朗らかな時に生まれてるんですから」
いいじゃないか。冬眠あけみたいで。
「その……私がプレゼントを用意するから、王子からということであの子に渡してもらえないかしら」
「ん? いや、別にモネが用意しなくても。俺がなんか選んでロゼに渡すよ。世話になってるから……」
「だめです、団長!!!!!!!」
うわっ、びっくりした!!!! 急にラウルが怒鳴りだすからめっちゃ驚いた!
「な、なんでだよ。シトエンが世話になってるしさ」
「あの小娘がなんか勘違いしたらどうするですか! あんた、不釣り合いな嫁をもらっているっていう自覚ありますか⁉」
「ラウルが俺にひどいこと言った!!!!!」
「余計な火種を作っているんじゃありません!」
なんで俺、叱られた上にひどいこと言われなくちゃならんのだ⁉
「モネ! 君も妹のことを思うんなら甘やかすだけじゃなくて、びしぃっと引導渡すときは渡せよ!」
「うるさいわね、わかっているわよ」
モネは舌打ちし、俺をちらりと見る。
「忘れて。じゃあね」
そう言って退室した。
あとには。
悪態つくラウルと。
悲しい気持ちになった俺だけが残された……。




