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隣国で婚約破棄された娘をもらったのだが、可愛すぎてどうしよう  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)
4章

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6話 王妃のお茶会、おそるべし

 そうやっていざ、母上が準備したお茶会会場にやってきてみたら。


 拍子抜けした。

 王妃用の執務棟の一室で、母上と王太子妃、シトエンがボードゲームをしながらキャッキャと笑い声を立てていたのだから。


「あら、早かったのね、あなたたち」


 母上は扇子をパタパタ扇ぎながら、入室してきた俺たちを見た。

 室内には侍従官と、母上、王太子妃、シトエンだけ。それぞれの侍女たちは別室に控えさせられているらしい。


 ただ、バルコニーの向こうから気配を感じる。たぶんモネロゼだ。いいぞ、あいつら、ちゃんと警備をしているな。


「で? 結論は出たの?」

 母上の質問に、長兄がうなずく。


「ええ、結論は出ました。……なんだ? ボードゲームか?」

「あら、あなた。ええ、そうなの、私はここ」


 長兄は王太子妃であるユリアの椅子に近づき、手元をのぞきこんだ。

 俺もシトエンの側についた。ラウルはというと、扉のそばで待機するつもりらしい。


「サリュ王子、すごいんです! もう王妃さまはゴールなさったんですよ!」

「おほほほほほ」


 シトエンがキラキラした目でそんなことを言う。母上の高笑いを聞きながら、俺はテーブルの上に広げられたボードゲームを見た。


 至って普通のものだ。

 ダイスを振って、出た目の数だけ自分のコマを進ませる。止まったマス目にはときどき指示が書いてあり、その通りにしなくてはならないらしい。


 あがりの位置には、チェスの駒であるクイーンが置かれていた。たぶんこれが母上のコマなんだろう。


 もうすぐあがり間近な位置には、銀色の指ぬきが置かれていて、開始位置ちかくには花びらをかたどったピンバッチが置かれている。このふたつもコマなんだろう。


「君はどれなんだ?」


 長兄が尋ねると、王太子妃が指ぬきを示す。

 ということは、ピンバッチがシトエンか。


「王妃さまがダイスを振ったら、全部6なんです!」

「おほほほほほほ」


 シトエンが力説する。また母上が高笑いした。

 ……まあ、母上に限ってズルはしない気がする。ただものすごい強運なだけ。


「それに比べて、わたしったら、ずっと1とか2で……」


 シトエンが恥ずかし気に顔を覆うと、王太子妃と母上が「あらあら」と声をかけてきた。


「そんな日もあるわよ、シトエン」

「そうですわ。それにシトエン様はうまーく指示のあるマス目を避けておられるじゃありませんの。私なんてさっきから当たりっぱなしで。ねぇ、お義母様」

「ユリアったら狙っているのかしらと思うぐらいで……」


「なにが当たったんだ! なにをしたんだ!」


 母上のセリフを食い気味に長兄が盤上をにらみつける。対して王太子妃はのんびりしたものだ。


「『二マス戻る』とか、『秘密を教える』とか」

「秘密⁉ なにを言った!」


 くわっと目を見開く長兄。

 王太子妃はしれっとした顔で立ち上がり、そんな長兄の耳元で何事が囁いた。

 途端に膝から頽れ、床にうつぶせに倒れる長兄。


「あ、王太子あにうえ⁉」

「大丈夫ですか、王太子殿下!」


 慌てて俺とラウルが駆け寄るが、長兄は床に突っ伏したままだ。


「あら、言ってはいけなかったかしら」

「問題ないわ、ユリア。それにそんなことすでに承知」

「わたしは初めてお聞きしましたが、ほっこりいたしました!」


 王太子妃は小首をかしげ、母上は扇で口元を隠して思わせぶりな顔をし、シトエンは相変わらずキラキラした目をしている。


 が、長兄は再起不能だ。


「珍しさから言えば、お義母さまの『三回まわってワン』が素晴らしかったわぁ。ねぇ、シトエン妃」

「はい、華麗でした!」

「おほほほほほほほ」


 素晴らしく華麗な三回まわってワンってなんだ⁉

 混乱しながらも、俺とラウルで必死に長兄を助け起こし、部屋の隅の椅子に座らせる。いかん……。燃え尽きている、長兄が……。


 やはり母上主催のお茶会……ではなくボードゲーム大会。あなどりがたし……! 一国の王太子の秘密を握った上に、おのれの美を誇るとは……。


 王妃たるもの、やはりこうでなくてはならないのだろう……!


「さ。次はユリアよ」


 母上が促し、王太子妃がおっとりとダイスを振る。「どうなった⁉」。壁の方から声が上がる。がばりと長兄が椅子から跳ね上がって俺に問うている。


「なんか文字のあるマス目に止まりました!」

 俺が現状報告をすると、長兄が息を呑む。


「『歌を歌う』ですって」


 のんびりとユリアが言う。途端に長兄は脱力して椅子にもたれかかった。

 ……だけど。

 マス目に書かれた文字を正確に読むと『歌を歌って愛を届けよう』だ。


「では、歌劇『ラシアン・フラン』の一節、ジュードとリエンの歌から。あなた」

「あ? ……ああ」


 長兄は「ん?」という顔をしたものの、椅子に座りなおした。ちゃんと座って頂戴、とでも言われたのだと思ったのかもしれない。


 実際は、愛を届けるために歌を聞かされるのだが。


 そしてユリアはきれいなソプラノで歌い始める。

 俺も知っている曲だ。お姫様が仮面舞踏会で出会った王子様に歌う曲。


 ……で、これ。

 かけあいの曲なんだよな。

 長兄もそれに気づいたらしい。ちょっとだけ眉根を寄せたけど、男性パートになったらきっちりと歌った。


 最後には夫婦で声をそろえて歌いだす。

 へぇ、と俺は素直にびっくりした。


 長兄が歌うのをはじめて聞いたし、ユリアのソプラノも素晴らしい。

 そういえばこのふたり、ダンスもうまいんだよなぁ。やっぱり教養というか、なんかあったとき、さらっとこう披露できるものって必要だな。俺なんて演武ぐらいか?


 そんなことを考えていたら、歌は終了したらしい。


 感動したシトエンがパチパチと両手を打ち鳴らしている。

 ユリアは優雅に一礼し、椅子に座ったまま歌っていた長兄は、はあ、と息を漏らして再び背もたれに身体を預けた。


「じゃあ、次はシトエン妃」


 ユリアからシトエンがダイスを受け取る。

 シトエンは両手を丸くして中にダイスを入れ、必死な顔で揺する。


 かわいい……。

 え、なんでこんなダイスを揺すっているだけで可愛いんだよ。

 もう必死になってコロコロコロコロしているのがさあ!

 可愛いんだよ!!!!!


 そう思っているのは俺だけじゃない。母上も王太子妃もそんなシトエンを愛でている。「あらぁ♡」「頑張ってシトエン妃♡」って感じで見守っている。


 わかる!!!!

 わかるぞ、みんな!!!!

 シトエンって庇護欲をかきたてるんだよ!!!!

 一生懸命やっている姿に応援したくなる!!!


「行きます!」


 決然と宣言し、シトエンはようやくダイスを放った。

 テーブルを転がるダイス。


 なんとなく俺まで固唾をのんで見守る。

 女子会だったはずなのに、いつの間にか配偶者まで巻き込まれているが……まあ、いい。


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