表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣国で婚約破棄された娘をもらったのだが、可愛すぎてどうしよう  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)
4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/161

4話 王太子の執務室

 そのあとシトエンとは回廊で別れた。

 シトエンをしっかり守るようにとモネロゼにきつく言い渡すと、「うるさい」とだけ言われてにらまれた。「これっ、モネさん、ロゼさん!」とイートンが叱ってくれたのがせめてもののことだ。


 まったく、あいつらはと、ぷんすかしながら別れようとしたら、モネだけが戻ってきた。


「どうした」

「あとで話があるの。少し時間をもらえないかしら」


 俺とラウルは顔を見合わせたあと、うなずく。モネはそれだけ確認してシトエンたちのあとを追った。


「なんだ? あいつ」

「さあ。あんまりいい予感はしませんけどね」


 ラウルは警戒を怠らない。相変わらずだなぁと苦笑いをしながら、ふたりで王太子である長兄の執務室に入った。


「忙しいところすまんな」


 長兄は侍従官にサインした文書を手渡したところだったようだ。

 いつもたくさんの書類が乗せられた執務机だが、今日は珍しく一通の封筒が乗せられているだけ。


 長兄自身もそれを確認し、筆記用具を机の引き出しにしまい始める。


「いえ、リハビリしてたところなので」

 目礼して退出する侍従官に、俺も目礼を返してラウルと共に執務机に近づいた。


「傷はどうだ?」

「もう全然。シトエンもよくしてくれているし、ラウルが事務全般を請け負ってくれているので本当にゆっくりさせてもらっています」


 ぺこりと頭を下げてから、「あ」と慌ててぐいんと顔を起こした。


「見舞いの品、ありがとうございました! 王太子妃にもその……よろしくお伝えください」


 言いながら顔がどんどん赤くなる。

 ユリアからもらったのはボディクリーム。

 あれを使ってシトエンとお互いにマッサージしあいっこしたのだ。


「そうなのか? ではユリアに伝えておく。……この部屋、暑いか? 窓を開けようか?」

「いやあの、大丈夫です、ええ!」


 慌てて制する。ラウルからは冷たい視線を感じ、俺はゴホンと咳払いした。


「で、本日のお召しの件ですが……」

「その前に、ルミナス王国のアリオス王太子からお前宛に封書だ。使者は『サリュ王子にまずはご確認いただきたい』との旨を伝えてきた」


 長兄が机の上から封筒を手に取り、俺に差し出すから狼狽えた。


「え? ですが……まずは王太子がご確認ください」


 外交関係は俺の対象外だ。

 だいたい、使者がそう言ったとしても礼儀上のことかもしれんし。


「たぶんシトエン関係のことではないのか? わたしへの報告はあとでいい。まずはサリュが確認しろ」

「……わかり、ました」


 受け取ったものの、いま開封すべきかどうかちょっと迷う。

 どうしようかな、と思っていたら長兄が口を開いた。


「それと、黄金のバックルと翡翠のペンダントの件について尋ねたい」


 俺もラウルも背筋が伸びる。封筒は、いったん軍服の内ポケットにしまった。


 黄金のバックルと翡翠のペンダント。

 それはもともとモネとロゼが身に着けていたものだ。


 同時に、モネとロゼにシトエン暗殺を命じた頭領が執着しているものでもある。

 シトエンをつけ狙う彼らがどこにいるのかを調べるために、「姉妹は拷問死した」という噂と共に市場に放ち、持ち主の元に戻るのを見守っていたのだ。


「シーン伯爵領のヴァンデル卿がその件で来ていただろう。もう帰ったのか?」

「ええ、ようやく帰りました。ようやく!」


 なんか力を込めて言ってしまう。隣ではラウルも深い息を吐いていた。


 あいつ、本当に迷惑だった……。

 療養真っ最中のときはベッドにもぐりこんでくるし、ちょっと良くなって事務仕事してたら「だーれだ♡」って後ろから目隠ししやがるし……!


 そういえば俺の屋敷の使用人の誰かがヴァンデルに情報を流していたんだったな! いったい誰なんだ!


「ヴァンデル卿はバックルとペンダントの行方を追っていたのだな? 襲撃してきた犯人は割れたのか。というか、どこまで犯人たちを追うつもりなのだ?」


 俺に目くばせをし、ラウルが口を開く。


「ルミナス王国からの調査報告書によれば、今回の襲撃事件はルミナス王国の宰相が主犯。子飼いの暗殺集団を使ってシトエン妃の命を狙った、というものでした」

「そうだな」


 長兄もうなずく。

 ルミナス王国は鉱物資源の大半をタニア王国に依存している。


 もっと強い結びつきが欲しくてシトエンとの婚姻を望んだのに、あろうことか王太子のアリオスが婚約を破棄。「好機到来」とばかりにうちの母上が名乗りを上げて、シトエンは俺の結婚相手になった。


 結果、ティドロス王国(うち)とシトエンの母国タニア王国は鉱物資源に関する独自の契約を結んだり、その輸送ルートもルミナス王国を避けた形で決まったりで……。まあ、踏んだり蹴ったりなわけだ。


『これ以上、両国を結びつけるのは危険』と踏んだルミナス王国宰相が独断でシトエン暗殺を計画、実行した。


 というのが公式見解だ。


「なので、主犯である宰相が死んだ今、暗殺計画は破綻。一件落着、ではないのか?」

「念には念をいれたいのです、王太子」


 俺は一歩前に出る。


「本当に宰相だけの独断計画ならいいのですが……。俺はそう思えない。襲撃犯たちも共犯の気がするのです」


 長兄はじっと俺の顔を見つめ、それからラウルに瞳を移動させた。


「バックルとペンダントの行方は?」

 ラウルがちらりと俺に視線を向けるので、話すようにうなずく。


「最終的にルミナスのいち貿易商が手にしたことがわかりました。かの国の協力も得て、ヴァンデル卿配下の騎士とうちの団員数名がその貿易商の家に乗り込んだのですが、すでにもぬけの殻で……。足取りを追うと、名前を変えてティドロス王国に入り込んだ形跡がありました。現在、国境を抜けてどこに移動しているのか調査中です」


「なるほど」

 長兄は吐息交じりに言葉を吐いた。


「お前たちは、まだシトエンが狙われると思っているのだな?」

 俺は力強く頷いた。


「さっきも言いましたが、暗殺集団は宰相と共犯関係ではないかと思っています」

「ルミナス王国はもう火消しに回りたいのではないか? 下手をするとむこうの公式発表にケチをつけることになるぞ。サリュ、お前がそこまでこだわるのはどうしてだ」

「この暗殺事件。真相は竜紋にかかわることではないか、と思っています」


 さすがに長兄も息を呑む。

 竜紋。

 タニア王国の一部王族にのみ施された刺青。


 『見たこともさえも口にしてはならぬ。形さえ口にしてはならぬ。竜紋とは存在そのものが高貴であり、尊い』と言われ、秘された風習。


 いままでは古豪国の風習と思われていたが……。

 どうやら、竜紋を授けられたものというのは前世の知識があり、それを使って生涯タニア王国発展のために活かす人物のようなのだ。


 シトエンも前世の知識があり、そして彼女の場合さらに特殊能力が付加されている。


 というのも、彼女の竜紋にくちづけると、彼女が持つ前世の記憶にふれることができるのだ。


「……詳しくは王太子あにうえにもお伝えすることはできないのですが、その秘密を宰相も暗殺集団も知っており、それでシトエンを狙っているのではないかと俺は思っています」


 長兄は顎をつまんでしばらく黙考したものの、腕を解いてつい、と俺を見た。


「わかった。だがことがことだ。あまり表立って動くな」

「ありがとうございます!!!!!!!」

「報告は逐次わたしに。ラウル、わかったな」

「委細承知いたしました」


 ラウルも深々と頭を下げてくれた。俺は勢い込んで続ける。


「なので。この前からお願いしている通り、冬の辺境警備を今年は別の騎士団でお願いしたいのです!」


 俺は切り出した。

 うちの団が行っている業務のひとつ。ちなみにここでの俺のふるまいが元となり、『ティドロスの冬熊』という威名をとった。


 現在シトエンは竜紋にまつわる件で命を狙われている。


 いつもにまして警備を強化した王城で囲っているものの、俺の手元においておかないと心配で仕方ない。


 冬の辺境警備にもシトエンを同行させようかとも考えたのだけど、そもそも厳冬期に国境が危うくなるから行くのだ。危険地帯。そんなところにシトエンなんて連れていけない。


 だからといって王城内に残して行くにしても、気がかりは気がかり。任務遂行がおろそかになったら元も子もない。


「シトエンのことがあるからな……」


 長兄は立ち上がり、ラックに近づいた。上着をつかみ、羽織る。

 侍従がいないのでラウルがさりげなく近づいて、その手伝いをした。


「そうなんです。どう……でしょうか。ほかの騎士団にお願いするということは可能ですか?」

「今年だけ、というのなら可能ではあるだろう。少し動いてみよう。ああ、ラウル、助かった。ありがとう」


 上着を着、びしりと襟を伸ばした後で長兄がラウルに礼を言う。ラウルは目礼をして静かに下がり、俺の隣に戻ってきた。


「よかったですね、めどが立ちそうで」

 俺にそう言ってくれるが、複雑は複雑だ。


「……だがなぁ、冬の辺境警備はうちの業務であるし」


 そもそもが、あの辺境。俺の公爵領なのだ。

 年に一度ぐらいしか顔を出さず、管財人と代理人に任せっぱなしになってしまっている。


 そんな状態なのに「今年は辺境警備もなし!」というのは無責任すぎやしないだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ