↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/46

第十八話 魔法使いの倒し方

 ほんの一瞬だけ、焦げ臭い匂いがした。


「――その石碑を読んだのか?」


 そう声をかけられ振り返ってみれば、私から少し離れたところに人影が一つ。

 若い男の人だ。動きやすそうな服装で――その姿にどこか既視感がある。


『もう忘れたのかや?』


 呆れ返ったようにアーニャは肩をすくめた。


『さっきのドラゴン大好き女の馬を操っていた御者じゃ』


 言われてみれば、たしかにそうだ。既視感があるのも頷ける。

 盗賊に囲まれてあわあわとしていた御者さんだ。そこまでまじまじと顔を見ていなかったからすぐに気が付かなかった。これがドレイクさんならまた違っただろう。

 しかし、どうして彼がこんなところに?

 不思議に思って付近を見渡しても、リリアーヌさんの馬車はどこにもない。どうやら彼だけが一人でここにやって来たようである。

 ますます意味が分からなくなる。まさか私を追いかけて?


『馬鹿なことを言うでない』


 冗談だというのにアーニャに一蹴されてしまった。ちょっとひどくない?

 私の訴えに、しかし彼女は気にも留めない。その表情は固く、どこか身構えてさえいる。


『気を付けるのじゃ。あの者、漂う雰囲気が普通でない』


 それってどういう――

 アーニャに言葉の真意を聞くよりも先に御者が私に向かって言葉を投げる。


「もう一度訊く。貴女、その碑文が読めるのか?」


 意識的に声のトーンを押さえたような話し方である。無理やり冷静沈着を装ったようなそんな感じ。

 まっすぐな御者の視線が突き刺さり、居心地が悪い。そんな真剣な表情で読めるのかと聞かれてもちょっと困る。


「読めるとゆーか……読んでもらったとゆーか……」


 馬鹿正直にアーニャのことは言えないので、微妙にはぐらかすような言い方になってしまう。

 とゆーか、この人はさっきまでの私とアーニャの会話をずっと聞いていたのか⁉

 私の返事に御者は納得したかのように一人でうなずくと、


「なら話が早い。その文字を読める者は――生かしておけん!」

「いやなぜそうなる⁉」


 御者は何かしらを複雑な手ぶりをし始め、ぶつぶつとつぶやき始めた。

 ちょっと待てぇい!これってまさか――


「灼熱烈火(バーンフレア)!」


 御者を起点とし、高温により閃光にも似た火炎の波が私に向かって放たれた。


「うどぅわああああああぁっ!」


 悲鳴を上げて私は石碑の裏へと慌てて飛び込んだ。

 一拍遅れて攻撃魔法がさっきまで私が立っていた場所へ直撃する。真っ赤な業火が石碑によって二つに分かれ、地面を焼く。


『あやつ!いきなり攻撃魔法を撃って来よったぞ!』

「わかってる!だから驚いてんのよ!最上位の火炎魔法を人に向かって撃つ奴がいるかって!」


 さすがのアーニャも焦ったように声を上げ、さらにそれを上回って私が叫ぶ。


 はっきり言って異常事態だ。意味不明な理由で魔法攻撃を受けたのもさることながら、どうしてただの御者が攻撃魔法の使い手なんだとゆー話だ。

 しかも、ミノタウロスですら消し炭に変えてしまう攻撃魔法を。

 たしかに御者が魔法使いであってはならないなんて法律はないけれど、それでも使い手が限られる最上位の火炎魔法をぶっ放してくるなんて違和感がありすぎる!


「ああもう!どうなってんのよ!」


 隠れているだけでは事態は好転しない。少し危険だけど御者の様子を窺うべく石碑から顔を出そうとし、


「火炎球(ファイアボール)!」


 鼻先を出した瞬間に火炎魔法をぶち込んでくる御者。

 掠めた火の粉が編み笠を黒く焦がす。


「ひ、ひええええ……!」


 アークデーモンと遭遇しても出さなかったような情けない声が口から漏れる。

 慌てて顔を引っ込めたおかげで直撃はしなかったものの、呪文詠唱から攻撃までが早すぎる。

 再び石碑に身を隠す私の代わりに、アーニャは少しだけ顔を出し御者の様子を窺う。彼女の姿は御者には見えないため、偵察としてはこれ以上もなく優秀だ。


『レティ、顔を出さん方が良いぞ。あやつ火の玉をあと二つ宙に漂わせておる。おそらくオートで撃ってくるぞ』


 ――どうする?


 石碑にぴったりと背中をくっつけて私は自問する。

 攻撃魔法の使い手に対し、この距離では手出しができない。ストームブリンカーを使えるならまだ勝機はあるのだが、あいにく今はお昼過ぎ。

 それに、交戦距離の差から正攻法では戦士は魔法使いには勝てないのが相場だ。剣や槍が届く距離まで近づくか、弓でぷすぷすと射るしか手がない。


『どうするんじゃ?』

「今考えてる!」


 とは言ったものの考えるまでもない。

 対魔法使いで私が取れる手段は一つだけ。


 私は腰のベルトからメイスを外し地面に置く。同じように左腕の盾も、被っていた編笠も置いた。

 それから背負ったままのバックパックを下ろし、中から水袋を一つ取り出す。


『ちょっと待たんか!おぬし、武器も盾も置いてどうするつもりじゃ⁉しかもその水袋は……』


 不安そうなアーニャに対し、私は不敵な笑みを浮かべる。


「もちろん策あってのことよ。なるべく身軽にしたいの」


 いきなり攻撃魔法を撃ってくるような失礼な輩に、ちょっと過激かもしれないけど神殿騎士の戦い方を見せてあげよう!

 私は御者から見て右の方の草原を指差し、


「今からあっちに飛び出るから。援護よろしくね!」

『援護って、馬鹿なことを――おい!待たんか!』


 アーニャの制止を無視して私は左へ、さっき拾った礫を投げる。瞬間、狙いすましたかのように火炎球(ファイアボール)が撃ち込まれた。

 爆発の衝撃と熱波で髪が揺れる。同時に御者が舌打ちする音が聞こえた。

 思った通り、動く物に対して自動で撃ち込むようになっているらしい。

 さらに礫を一つ、同じ方向へ投げると私は意を決して飛び出した。背中から火炎球(ファイアボール)の着弾音が響く。


『ええい、馬鹿者め!走れ!走らんと真っ黒こげじゃぞ!』


 御者の動きを注視するため、私の頭上よりさらに高く上がったアーニャが発破をかける。言われなくても走ってるっての!


 御者の呪文詠唱が聞こえ、


『レティ!』


 アーニャの声に合わせてとっさにダイブ!


 御者が放った火炎系の魔法が着弾!


 私は土と草をえぐりながら前へと一回転する。

 ぱらぱらと降って来る土埃の中をさらに駆け、周囲を見渡す。


 ――ここなら大丈夫。

 態勢を整えるとその場で立ち止まり、水袋の中身をなるべく広範囲に広がるようにぶちまけた。


 私の行動に御者が訝しげな顔をするが、構わず呪文詠唱を続ける。


「――火炎の魔法なんか使っていいの?」


 口の端に笑みすら浮かべて、私は水袋を放り投げた。びちゃっと音を立てて御者の足元に水袋が落ちる。口からこぼれた液体が虹色の油膜を見せていた。


「地獄の業火をもって――」

「油が燃え移ってここら辺一帯が焼け野原になるよ。もちろんあなたのボスが大事にしているドラゴンの骨もね」

「すべてを焼き――ぐぅっ……!」


 ようやく気が付いたようだ。御者が呻き、呪文詠唱が中断される。

 狙い通りである。一瞬だけでも、呪文さえ封じてしまえば魔法使いなど容易い相手だ。


 勝機。


 すかさず私は懐から必殺の武器を取り出した。

 左手には最後の礫。

 右手には布製のスリング。

 御者が慌てて別の呪文を唱え始めるが、もう遅い。


 礫を装填し、

 一回転。

 二回転。

 三回転。


「これでちょっとは大人しくしろッ!」


 放つ!


 渾身の一投だった。


 風を切る礫は真っすぐ御者へと飛んでいき――


「んぐぁ!」


 物凄く痛そうな激突音と共に、狙い違わず御者の額を叩き割ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。