エピローグ
ミーアを奴隷から解放した翌日。トーマの幼馴染であるジョージの仕事が終わる時間を見計らって家を訪ねた。
「おおトーマ。意思は固まったか?」
「あぁ。是非お前が働いている船で働かせて欲しい」
「そうかそうか!よしわかった!親方には今日答えを聞いて明日伝えるって言ってあるから、今より少し早い時間に港に来てくれるか?親方に紹介するからよ」
「あぁ。ありがとうなジョージ」
その日はそれだけで解散し、その翌日予定通り港にやってきたトーマ。
「トーマこっちこっち!」
大きめの船にいるジョージに呼ばれて近づいていく。
「親方!こいつがトーマです!」
ジョージが親方を呼ぶと、体がガッチリした髭が濃い40代後半程の男がトーマに話しかける。
「君がジョージの幼馴染のトーマ君か話は聞いているぞ!」
「トーマです。お世話になります」
「あぁ。こちらこそよろしくなトーマ!」
男気が溢れ出す親方とがっちり握手をするトーマ。
「ところで住む家も決まっていないそうじゃないか。ジョージから聞いていると思うが俺の元実家が空いているんだがどうする?」
「それについてもお世話になろうと思っています。何から何までありがとうございます」
「じゃあ早速案内するぜ!置いてある家具は好きに使ってくれ。鍵を渡すから住むのは明日からでもいいし好きな時でいいぞ」
親方に案内された家は親方の元実家だけあって結構古かったが手入れは行き届いており、ほとんど掃除をしなくても住めそうな家だった。
「あの、家賃はどのくらいでしょうか?」
大事なことを聞いていなかったトーマ。
「あぁ、船で働いてくれている間は家賃はなしでいいぞ。手入れをするのがかなり手間だったし古いから壊そうか迷ってたんだ」
「た、ただなんて・・・」
「なあに気にするな!逆に住んでくれてありがとうって感じだぜ!」
はっはっはと笑う親方の偉大さに圧倒されるトーマであった。
「ありがとうざいます!早速なんですが明日から入らせていただいても良いでしょうか?」
「おうよ!あと働き始めるのは7日後からでどうだ?色々揃えたりしないといけないものとか役場での手続きとかもあるだろうからよ」
「はい。7日後からでお願いします」
「よし!じゃあ決まりだな!何か困ったことがあれば俺の家がすぐそこにあるから訪ねてくれ!」
親方は数件先の家を指差して言った。
「ありがとうございます。これからお世話になります!」
「おう!これから一緒に働く仲間になるんだ。そんなにかしこまらなくても大丈夫だぜ!じゃあな!」
トーマは鍵を受け取り親方と別れてミーアが待つ宿へ帰り、今日決まった内容を早速ミーアに報告する。
「明日から家を借りられるそうだよ。働くのは7日後からになったからそれまで買い出しとかをしよっか」
「明日からですか!?わかりました。こういった話はもう少し時間がかかるものだと思っていたのですが早いですねぇ。まずは布団や食器、調理器具などが最低限欲しいですね」
「そうだね。明日から忙しくなるぞぉ!」
次の日から2人は新居に移り新生活に向けて順調に準備を進め、トーマは予定通り7日後から親方の船で働き出した。
それから約半年が経ち、2人の生活も軌道に乗り、ミーアもこの町に馴染んできた頃。
「ただいま〜」
「おかえりなさい。今日もお疲れ様でした。お風呂はもう湧いてますので先にどうぞ」
台所で料理をしている手を止めて仕事から帰ってきたトーマを労うミーア。
「あぁ、いつもありがとう」
2人の関係は変わらずに続いていた。
その日の夜。風呂上がりに出来立ての夕飯を食べながらエールを飲んでトーマが気持ちよくなっていたとき。
「トーマさん。お話しがあるのですが」
「ん?なに?」
「トーマさんが私を奴隷から解放してくれて約半年が経ちました。この町の生活に馴染むこともできて、これから先の自分の人生について願望というか、こうなりたいというものが芽生えてきたのです」
「うんうん」
「結論から言います。私、トーマさんの子供が欲しいです」
トーマは驚きのあまり飲んでいたエールを勢いよく噴き出す。
「こ、子供!?」
「はい。トーマさんの子供が欲しいです」
真剣な顔で顔を赤らめながらトーマを見つめるミーア。
「そ、それはつまりその、夫婦になるってことで良いんだよね?」
「そうです。そうなりたいです」
「・・・うん。ミーアがそう望んでくれるなら俺はとっても嬉しいよ」
ミーアは目を瞑って微笑みながらトーマに感謝を伝える。
「ありがとうございます。トーマさん」
ミーアの『ありがとう』にはいろんな意味が込められていた。奴隷だった自分を買ってくれたこと。物のように扱わないでいてくれたこと。水竜と遭遇した時に結果として助けてくれたこと。無人島でめげずに前向きに生活してくれたこと。サーベルタイガーから守ってくれたこと。奴隷から解放して1人の人間として尊重してくれたこと。奴隷から解放された後も考える時間を与えてくれて変わらずにいてくれたこと。それに日常のことを入れたらキリがなかった。
長い年月を一緒にいたわけではないのにこんなにもありがとうが出てくる。
たまたま2人の境遇がそうさせただけかもしれない。しかしこの沢山のありがとうを言わせてくれたのはトーマだからに違いなかった。
トーマは座っている椅子から立ち上がってミーアの側に寄り、手を握る。
「結婚しようミーア」
「はい。よろしくお願いします」
2人はそっと口付けを交わした。
以上で完結になります。ここまで読んでくれた読者の皆様、本当にありがとうございました!
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