解放
ミーアの奴隷解放について切り出したトーマ。
「うん。色々考えたんだけど、これからのことを考えたら解放した方がお互いのためを思うと良いんじゃないかと思って」
「お互いのためですか・・・?」
「そ、その、今はミーアさんと男女の関係になったでしょ?」
「は、はい」
トーマは数秒おいて、意を決したように話し出す。
「ミーアさんとは、男女の関係だけじゃなくて、その先の関係にもなれたらと思ってるんだ」
「その先の関係・・・」
ミーアが息を呑む。
「ミーアさんが俺のことを好きでいてくれるかとか、その先の関係になってくれるかとかは奴隷のままでもできないことではないと思うんだけど、でもやっぱり奴隷だから無理強いをさせているんじゃないかっていう考えも心の片隅にあるんだ・・・」
「奴隷だからとか、そんなことはないです!」
「そう言って貰えるとすごく嬉しい。でもこの先もし俺のことを嫌いになったり、奴隷のままじゃできないこと、例えば他に好きな人ができてその人と家庭を持って暮らしたいとか、この町で暮らさないで遠くの国に行ってやってみたいことができたとか、そんな選択肢がミーアさんにできた時に、奴隷のままだと必ずしがらみがあるでしょ?そんな状況になった時にミーアさんが奴隷のままそばにいる事はお互いにとって良くないことだと思う」
「トーマさんのことを嫌いになるなんてことは・・・」
「でも未来のことなんて誰にもわからないから、だからこそミーアさんの選択肢を増やしてあげたいし縛りつけたくない。対等な立場で接したいんだ」
「対等な立場・・・」
「そう。奴隷じゃなくて一人の独立した人間として、これからの人生を歩んで欲しい。俺の元を離れるのも、一緒にいてくれるのも自由だ。それをミーアさん自身に決めて欲しい」
「私自身が決める・・・」
ミーアは今までの人生を思い出す。
父親が酒に溺れてから家族関係が崩壊したこと、その流れで奴隷に身を落としたこと。大きくなってから今まで自分自身で決めてきたことなんて何もなかった。いや、決められることなんて何もなかったのだ。
しかし今の状況がどうかと言われれば幸せであると心から言える。
「私は・・・私は今まで自分自身で決めてきたことなんて何もありませんでした・・・。だからかもしれませんが今の、トーマさんの奴隷という立場が心地良いと感じています・・・」
「うん」
「とても失礼になってしまうのですが奴隷から解放されてしまえばトーマさんに捨てられてしまうのではないかという不安さえあります・・・」
「いきなり捨てるだなんてことは有り得ないよ。この町で一緒に過ごしてみて、お互いの気持ちややりたいことを再確認して、その結果その先も一緒にいられるならそれが一番良いかなって」
ミーアはしばらく黙り込み2人の間に沈黙が続く。
ミーアは決心して自分の気持ちを伝える。
「わかり・・・ました。トーマさんのお言葉に甘えて、私の人生は自分自身で決めたいと思います。決まるまでの間、私をお側においてください」
トーマに頭を下げるミーア。
「うん。これはとっても前向きな話だからね。気負うことなんて何もないよ」
トーマは奴隷契約書を出すために胸に手を当てて魔力を使い、出てきた契約書を読み返して奴隷の解放についての契約事項を再確認する。
・主人の意思によって奴隷契約は解除することができる。
・契約を解除する際は契約書に魔力を注いで契約解除を願いながら契約書を破る必要がある。
・契約書は主人の体に封印され、出す場合は魔力を少量消費する。
トーマは契約書を感慨深く見つめる。
この一枚の契約書からトーマとミーアの関係が始まったのだ。
初めはこんな関係になるなんて思いもしていなかった。ただ自分が苦手な家事をやってもらう人、あわよくば肉体的な関係にもなれたら良いななんていう下心程度だった。
今思えば自分に奴隷を持つことなんて全然向いていないことに気がつき苦笑いするトーマ。無責任に人の人生を背負える性格でもないことなんて少し考えればわかっただろうに、ギルドを辞めた勢いで買ってしまったのだ。
「じゃあ、破るね」
「は、はい」
緊張の面持ちで見守るミーア。
トーマは魔力を注ぎながら掴んでいる手に力を込めて契約書を破る。
ビリッと一思いに破ると2人を結んでいた契約書は儚く光りながらすうっと消えていった。
「これでミーアさんは奴隷じゃなくなった。これからは、君自身の人生だ」
「はい・・・。ありがとう・・・ござい、ます・・・」
契約書が破れたところを見届けた時、ミーアの今までの人生が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
あらゆる感情が胸の奥から湧き上がってきたミーアは自分でもよくわからずボロボロと涙を流す。
トーマはミーアをそっと抱きしめる。
「今まで縛られてきた人生だったかもしれないけど、これからは自由だよ。新しい関係を築いていこう」
「トーマさんに出会えてっ、買っていただけて、本当に、本当によかったですっ・・・」
しばらく2人はそのまま抱き合っていた。
ミーアの背中を優しく摩り、しばらく時間が経った頃、トーマのお腹がグゥっと鳴る。
「お、お腹が減ってきちゃった。ご飯食べに行かない?」
「ふふ。食べに行きましょう」
特に今までと変わらないが、しかし新しい関係になった2人は食堂へと向かった。
その日の夜
「ト、トーマさん。早速お願いがあるのですが」
「お、なんだい?」
「新しい関係を築いていくということで、私のことをその、ミーアと呼び捨てで呼んで欲しい・・・です」
顔を赤くしながらお願いをするミーア。
「呼び捨て!?で、できるかなぁ・・・」
「ふふ。最初のわがままです!」
「わ、わかったよ。・・・ミ、ミーア」
トーマは恥ずかしがりながらミーアの名前を呼ぶ。
「はい。ありがとうございます」
ミーアは喜びを噛み締めるように微笑む。そんなミーアを見てトーマはたまらずミーアを抱きしめる。
「きょ、今日はいい・・・かな?ミーア」
「もちろんです。トーマさん」
対等な立場になった2人の、熱い夜が始まった。




