遭難60日目〜
トーマが怪我を負って発熱してから三日目の夜。
トーマは本調子ではないが熱はかなり下がり食事もまともに取れるようになっていた。
「大分楽になったよ。看病してくれてありがとうね」
「本当によかったです。一時はどうなるかと思いました・・・」
「正直俺ももうダメかと思ったよ。ははは」
「もう!笑い事じゃないんですからねっ!」
「ごめんごめん。でも生きてて本当によかったあ。ミーアさんが看病してくれたおかげだよ」
「・・・・グスッ」
ミーアから鼻を啜る音が聞こえてくる。
「えっ!?泣いてるの!?」
「な、泣いてないです・・・」
「ご、ごめんてば!」
「トーマさんが謝ることなんて、ひぐっ、何も、ありません。ただ・・・生きていてくれて、良かったです」
ミーアは今まで張り詰めていた緊張の糸が切れ、涙が溢れてきてしまったのだ。
ミーアは嗚咽を漏らしながら話しを続ける。
「トーマさんがっ、死んでしまったらと、看病している間に考えてしまいました。・・・この島に漂着してから、ずっと一緒に支え合ってきた人が、いなくなってしまうなんて・・・私には耐えられません。うぅ・・・ぐすっ」
この島にいる人間はトーマとミーアだけである。トーマが死んでしまえばミーアはこの島に一人取り残されることになることは想像に容易かった。
もしこの島に漂着した時に一人だけだったらまだ話しは違ったかもしれない。しかし今まで二人で協力しながら乗り越えてきたのだ。その相棒が死んでいなくなってしまうなんて耐えられるはずがない。しかも自分を庇った時の怪我が原因ならなおさらだ。
「ごめん・・・」
トーマの語彙力ではただ謝ることしかできなかった。
「ううぅ・・・うわあああああああん!」
ついにミーアは大声で泣き始めてしまった。
困り果てたトーマはミーアに近づきそっと抱きしめる。
「ごめん。一人にはしないから。今回も助かったしさ、一緒に脱出できるようにこれからも二人で頑張っていこう・・・」
「ぜ、絶対に、死なないでください。一人に、しないでくださいっ」
「うん。約束するから。ね?」
トーマは優しくミーアに囁く。
「す、すみませんっ。怪我をしているのはトーマさんなのにっ」
「この島に一人だなんて、俺でもおかしくなっちゃうよ。ミーアさんの気持ちはよくわかるさ」
それからトーマはミーアの背中を優しくさすりながら、落ち着くまで慰めるのだった。
しばらくするとミーアは落ち着きを取り戻し顔を真っ赤にして俯いていた。
トーマはなんとか場を盛り上げようと話しをふる。
「ま、まさかこの島にあんなでかいサーベルタイガーがいたなんてねえ。二か月くらいこの島で生活してきたけど、そんな気配はなかったよね・・・」
「は、はい。縄張りが森の奥だったのでしょうか。たまたま出会わなかったということもあり得ますが」
ぎこちなくだが会話を始める二人。
「サーベルタイガーの生息地は基本的に森だからね、砂浜近くまで来ることは稀なんだと思う。しかし一体いたということは間違いなく他にもいるよね・・・」
「そう・・・ですねよね・・・」
「またあんなのに襲われたんじゃたまらないよなあ」
「そ、それについてなんですが。サーベルタイガーと戦ってからすぐ後に体から力が湧いてくるような感覚があって、それどころじゃなかったので気にしないでおいたのですが・・・その、今ならなんとかあれを撃退できるんじゃないかなっていう感覚があるんですが・・・なぜでしょうか・・・」
「えっ!ほんと!?それは超越体験だよきっと!」
「超越体験・・・ですか?」
「うん!冒険者が稀になると言われているんだけど、自分より格上の魔物を倒したり、何か自分が大きく成長するような体験をすると魂の格っていうのが上がって、身体能力や気が大きく向上するんだ。超一流冒険者になった人は最低1回は超越体験しているって言われていて、逆に言えば超越体験をしていないと一流の冒険者にはなれないっていうすごい体験なんだよ!」
トーマは興奮気味に超越体験について説明する。
「なるほど・・・納得が行きました。あれを超越体験というのですね。どのぐらい能力が向上しているかはまだわからないのですが、あのサーベルタイガーであれば今ならあしらうことができるという自信が、どこからともなく湧いてきています・・・」
「それは頼もしい限りだよ!正直男の俺が守ってあげるよって言いたいんだけど超越体験をしたミーアさんの方が断然戦力が上だね・・・」
「もしサーベルタイガーがきた時には次は私がトーマさんを守ります!」
拳をぐっと握りながら誓うミーア。
「な、なんだかすごい複雑な気持ちだよ・・・嬉しいことなんだけどさ・・・でも油断は禁物だよ。超越体験をしたとはいえ命を落とす冒険者も数多くいるんだから・・・」
「はい。もちろんもしもの時はっていう話しです。ですがこれからはサーベルタイガーに出会っても対処できるように気をさらに鍛えようと思います」
「うん。お、俺も微力ながら戦えるように頑張るよ・・・」
「ふふっ。お互い頑張りましょう。二人で協力して!」
ミーアはこれからも2人でいられることに嬉しくなり、トーアに笑いかけるのだった。




