遭難59日目②
サーベルタイガーに襲われ左腕に重傷を負ってしまったトーマは水で傷を洗い流し、怪我に効く野草を煮沸消毒してから煎じて腕に塗りつけた。
ひどかった出血も次第に血が固まり治ってきたが、激しい動きなどをすると傷口が容易に開くであろうことは一目でわかるほどの大怪我だ。痛みも酷く出血でクラクラする。
しかしトーマはミーアが不安にならないようにと気丈に振る舞いゆっくりながらも普段の作業をしようとする。
「トーマさん!傷が落ち着くまでは私がお世話をします。絶対に安静にしてください」
「あ、はい・・・」
そんなトーマを見て普段穏やかなミーアが凄みをきかせて釘を刺す。
大人しく従うことにしたトーマは腕を抑えながら拠点内に横たわることにした。
ミーアがテキパキと放置していた魚の処理等をしていく。
「何にもしないっていうのもなんだか気が引けちゃうなあ・・・」
「ではサーベルタイガーの処理について教えて欲しいです。あのまま放置しておくのもよくないと思いますので」
「あぁ、そうだねえ。長い2本の牙は硬くて何かに使えるかもしれないから取っておきたいな。あと肉はあまり美味しくないらしいけど食べられないこともないから干し肉にする分と二人で食べられる分だけを取って・・・あとは虫が湧かないように埋めようか」
「わかりました。ちょっとやってきますね」
斧と短刀を持ってサーベルタイガーの亡骸へと向かったミーアを見つめながらトーマは思う。ミーアさん逞しすぎ。
トーマがサーベルタイガーの気を引いていたと言えあの巨体のサーベルタイガーを2撃で屠るなんて普通の20代の女の子にできるだろうか?できるはずがない。しかも獣の解体なんて普通の女の子なら嫌がってできないはずだ。
ミーアは冒険者の才能を秘めている子だったのかなあとトーマは思いに耽る。
トーマがそんなことを考えているとは知らず、ミーアも慣れない解体作業をしながら思いに耽る。
トーマさんは私を庇ったせいで大怪我をしてしまった・・・私がトーマさんを支えなきゃ・・・
でも庇ってくれて、今になってすごい嬉しさが込み上げてくるなあ・・・
気がトーマより上手に扱えるとはいえ、ミーアは戦闘の素人である。サーベルタイガーが駆けてきた時は体がこわばってしまっていたため避けることなんてできなかっただろう。首に噛みつかれて死んでいたに違いない。
そう考えるとトーマが庇ってくれたことに申し訳なさと嬉しさが込み上げてきたのだ。
一通り解体を終えてサーベルタイガーを土に埋めた頃にはすでに夕方になっていた。
拠点へ戻ったミーアはトーマに話しかける。
「体の調子はどうですか?」
「正直痛みがかなりひどいし、まだ少しクラクラしているけどだいぶ慣れてきたよ」
「何か私にできることはありますか?」
「十分やってくれているから大丈夫だよ。あ、今日腕に塗った野草を明日も集めて欲しいかな。怪我に効くことで有名なやつだから少なからず効果はあると思うんだ」
「わかりました・・・早くよくなると良いのですが・・・」
「よくなるまではお言葉に甘えて安静にさせてもらおうかなっ」
「はい。任せてください!」
二人は気持ちが沈まないように明るく話すことにつとめた。
その日の夜、二人が眠りについて少したってからだった。
「うぐっ・・・ぐうう・・・」
トーマが辛そうに唸る声が聞こえてきてミーアは目を覚ました。
「・・・?トーマさん?大丈夫ですか?」
「ごめん。だ、大丈夫・・・だと思う・・・」
大丈夫の言い方が全然大丈夫じゃないことにミーアは焦りを覚えて起き上がりトーマに近づく。
「っ!すごい汗じゃないですか!」
「う、腕と体がすごく熱くて・・・」
なんとか自分の状況を伝えるトーマ。
「熱いんですね!少し待っていてください!」
ミーアは自分のシャツを脱ぎ土器に貯めていた沢の水で濡らしてトーマの汗を拭き取る。
「すごい熱です・・・こんなことしかできませんが・・・」
「だ、だいぶ楽になったよ。ありがとう・・・」
「眠れそうですか?」
「あぁ・・・なんとか・・・うぅ・・・」
トーマは辛そうに目を瞑る。
「私がそばにいます。安心して寝てください」
そう言いながらミーアはトーマの頭を優しく撫でる。
その後もトーマはひどい熱にうなされ、ミーアが必死に看病をしたが眠りにつけたのは1時間以上経過した後だった。
翌朝になってもトーマの熱は下がらず、食料調達などは最小限に抑えてトーマの看病に専念するミーア。
幸い食料は干物や芋を確保していたためそれなりにあった。
トーマの意識は朦朧としていたが、なんとかミーアに意思を伝える。
「ミ、ミーアさんも・・・あまり眠れていないと思うから・・・無理は絶対にしないで・・・」
「私は大丈夫です。気にしないでください」
「と、共倒れだけは・・・絶対にだめだからね・・・約束して・・・」
「わかりました。約束します。約束しますから、早く良くなってください」
ミーアはそっとトーマの手を握る。その手は未だ熱かった。




