遭難59日目①
芋を手に入れてから約2週間、何事の問題もなく二人の生活は順調に続いていた。
しかしこの日は無人島に来てから最大の危機が訪れた。
それは朝方、罠から魚をとり拠点に戻ってきてすぐのことだった。
拠点の裏側にある森からガサガサと音が聞こえてくる。
「ん?なんか森にいるのか?」
「森・・・ですか?」
ミーアも作業している手を止めて森を見つめる。
トーマは念のため短刀と斧を手に取り、森を見つめること数十秒後、それは姿を現した。
「グルルルルル・・・」
2mは優に超える巨体。筋肉質な体躯。そして口から飛び出す鋭い2本の牙。
それは唸りながらゆっくりと森から出て近づいてくる。
現れた姿を見て声をあげるトーマ。
「っ!サーベルタイガーだっ!」
「っ!逃げますか!?」
「サーベルタイガーは素早くて有名だ!逃げてもすぐ追いつかれると思う!ここでやり過ごすしかない!」
「そんな!」
ミーアは焦りと絶望が入り混じった表情を浮かべる。
「ひ、ひとまず俺が応戦するから!もし戦いが始まったらミーアさんは隙を見て逃げて!」
トーマは恐怖に声を震わせながらなんとかミーアに指示を出す。
「トーマさんを置いて逃げるだなんて!」
「そんな話しをしている暇はないから言うことを聞いて!お願い!」
焦って早口でやりとりをする二人を睨みつけながらサーベルタイガーはさらに近づいてくる。
「くっ!あっちにいけ!」
持っていた斧を投げ捨てて足元にある石を投げつけるトーマ。
しかしサーベルタイガーは冷静にそれを避け、逃げる素振りなど見せずにさらに距離を詰めてくる。
「くそっ!どうしたら!」
トーマは手当たり次第目に付くものを投げつけるがサーベルタイガーは二人を完全に獲物か敵と認識しているようで怯まずに唸り声を上げて二人の周りをぐるぐると回り始める。
そして二人のどちらかがわからないが、ごくりと喉を鳴らした時だった。
「グルルルアアァ!!!!」
サーベルタイガーは雄叫びを上げながらとんでもないスピードでミーアへと一直線に飛びかかってきた。
「ミーアさん!うぐっ!」
トーマは咄嗟にミーアの前へ出る。
その時トーマは体を庇おうと前に出した左腕に噛みつかれてしまいサーベルタイガーともみくちゃになりながらミーアの横を通り過ぎる。
「トーマさん!!!」
「くっ!逃げて!」
トーマはサーベルタイガーともみくちゃになりながらもミーアに逃げるよう訴える。
サーベルタイガーはそんなことはお構い無しに、頭を左右に振りトーマの腕を噛みちぎろうとする。
「ぐわああ!このっ!」
体を腕ごと大きく揺さぶられながらトーマは右手に持っていた短刀で必死にサーベルタイガーを突いた。
それはただの偶然だった。トーマが突いた短刀は運よくサーベルタイガーの皮膚が薄くて柔らかい脇腹に突き刺さった。
「グルルルァ!!?」
サーベルタイガーは突然の痛みに悲鳴と唸り声が入り混じった声を上げ、トーマの腕から口を離して一瞬体を硬らせる。
その一連の流れを唖然と見ていたミーアはハッとした表情を浮かべ先ほどトーマが投げ捨て斧を手に取った。
「グルル・・・グルアアァ!」
サーベルタイガーがトーマに攻撃されたことに怒り狂って右前足を振り上げて鋭い爪でトーマ攻撃しようとしたそのとき。
「うわあああああーーーーー!」
ミーアは自分を奮い立たせるために大声を上げ、斧をサーベルタイガーに勢いよく振り下ろした。
サーベルタイガーはトーマに気を取られており背後が完全に無防備だった。
斧はサーベルタイガーの背中に命中し、ドンッと鈍い音を立て、その次にバキッバキッっとサーベルタイガーの肋骨を砕く感触が斧を握るミーアの手に伝わり、そして途中で止まる。
ミーアに渾身の一撃をくらったサーベルタイガーはあまりにも大きなダメージに一瞬硬直し、悲鳴を上げる。
ミーアはその隙を見逃さず、斧を強引に引き抜き、さらにもう一撃を首筋にくらわせた。
首筋に追撃をくらったサーベルタイガーは痙攣し、ずしんと地面に横たわる。
一瞬の出来事だった。一瞬にして二人と一匹は命のやりとりを行い、そして終わったのだ。
「やった・・・」
トーマはサーベルタイガーに押し倒された姿勢のまま唖然とした表情で呟く。
「トーマさん!大丈夫ですか!」
声をあげてトーマに駆け寄ろうとするミーア。
「待って!まだ、息をしてる!」
地面に横たわったサーベルタイガーに目をやると腹部が忙しなく上下している。ダメージを受け過ぎて呼吸をするのがやっとなんだろう。
立ち上がったトーマは手から離れていた短刀を手に取り、か細く唸りながら睨みつけてくるサーベルタイガーの喉を躊躇なく切り裂いた。
やがて息を引き取ったサーベルタイガーを見て二人はほっとため息をつく。
「トーマさん腕・・・」
トーマの左腕はサーベルタイガーの鋭い牙にズタズタにされ血だらけだった。おそらく傷は骨まで達してる箇所もあるだろう。
「かなりやられちゃったね・・・。でも助かったよミーアさん。俺たち生きてる。助けてくれて本当にありがとう」
「そんな・・・。私の方こそ、庇ってくれてありがとうございます・・・」
ミーアは俯きながら嬉しそうに、そして悔しそうに答える。
「今とってもいい雰囲気なんだけどさ・・・落ち着いてきたら腕が、ものすごく痛い。どうしよう・・・助けて・・・」
「ま、まずは止血しましょう!」
戦闘でアドレナリンが大量に出ていて痛みをあまり感じていなかったトーマだが、落ち着いてきて痛みと出血で顔を真っ青にしながらミーアに助けを求める。
ミーアもハッとしてトーマの手当を開始するのだった。
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