遭難9日目
この日、無人島に来てから初めての雨が降った。
「雨ですねぇ」
「雨だねぇ」
二人は空を見上げながら呟きあった。
「いつかは降るだろうと思っていたけど、雨に降られると一気に行動が制限されてしまうよね」
「そうですね。だけど拠点があって本当に良かったです」
拠点の屋根はうまく雨を弾いており、床もただの地面だが雨水が来ないように少し小高くしているため二人は濡れていなかった。
「雨に濡れながら行動できないこともないけど、着替えもないこの状況だと服を乾かすのも大変だしなあ」
そう。二人には着替えもないのだ。幸い長旅に耐えられるよう二人とも生地が厚くて丈夫な服を着ていたため、森に入ったりした今でも全然ほつれ等はないが。
「提案があります」
「提案?」
「はい。この無人島に来てからその・・・体をしっかり洗っていないのでこの雨を利用して思う存分洗い流したいです」
「確かに・・・」
「はい。ですので今日は雨を受け入れて食料調達をしながら体を洗うというのはどうでしょうか。薪は数日分なら貯めてありますし戻ってきてから体は温められるでしょう」
「よし、そうしよう!恵みの雨ということだね。長い時間雨に打たれても体が冷えてしまうし短時間で食料調達を済ませよう」
「そうとなれば早速出発しましょう!」
そう言ったミーアは意を決したように服を脱ぎ始めた。
ミーアが服を脱ぎ始めて下着に手をかけたところで焦りながら待ったをかけるトーマ。
「ちょっと待った!」
「はい。なんでしょう?」
「し、下着は付けていこう。その・・・そうして欲しいです・・・」
「わ、わかりました。その・・・私はトーマさんの奴隷なので気を使わなくても大丈夫ですが」
「いや、その・・・ね?お願いします・・・」
「ご、ごめんなさい。お見苦しかったですか・・・」
「いやいや!そう言うわけじゃなくてほら!ね!?俺の理性のためにお願いします・・・」
ラッキースケベのチャンスを幾度となく理性でねじ伏せるトーマ。
この男、紳士なのか生粋のヘタレなのか・・・
「ま、まずは海で食料を調達して、拠点に運んでからその後沢に行って見張りを立てながら交互に体を洗うのはどう?」
「そ、そうですね。それが良いと思います」
二人はどぎまぎして顔を赤くしながら出発するのだった。
2時間程でいつもより少なめの食料を集め終えた二人は拠点に食料を置いて沢へ向い、沢の淵に大きい岩があって少し深めになっているところで体を洗うことにした。
「まずはミーアさんが先にどうぞ。俺は岩の裏で待機しているから。何かあったら大声を出して教えて欲しい。これはレディーファーストだから順番の異論は認めません」
「わかりました。ありがとうございます」
ミーアは素直に好意を受け入れて先に体を洗うことにした。
雨の音ではっきりとは聞こえないが、バシャッバシャッとかすかに音が聞こえてくる度によからぬ妄想をしてしまうトーマは悪いのだろうか?いや、悪くない。そうだろう男の諸君よ。
数分後、ミーアがさっぱりした顔をしながら沢から上がってきた。
「水は少し冷たいですが、すごい気持ちよかったです。お次はトーマさんがどうぞ!」
「じゃあ洗ってくるね。少しの間見張りを頼むよ」
トーマはミーアの下着姿を直視しないように気をつけながら沢へ向かった。
そうして体を洗い終えた二人は拠点に戻り焚き火で体を温め、乾かしながら昼食をとる。
「やっぱり少し冷えちゃったね」
「そうですね。あまり雨の頻度が多いと困ってしまいます」
「この島は俺の故郷からそんなに遠くないだろうからそんなに雨は多くないと思うんだ。年中比較的暖かいとも思うよ」
「そうなのですね。それなら安心しました。年間の気候についてあまり意識していませんでしたが年中暖かいと言うのはこの生活には非常にありがたいですね」
「うんうん。俺の故郷も過ごしやすい町でそれが理由で貴族の別荘なんかもあったんだ。順調に旅が進めば見せてあげられたんだけど・・・」
「まさか水竜に遭遇してしまうなんて思いもよりませんでしたね・・・」
「本当に思いもよらなかったよ・・・故郷に住んでいた頃は水竜の話なんて聞いたことがなかったからね」
「でも生きていて本当によかったです。トーマさんの前職の知識でこうしてなんとか人らしい生活をおくれているのもあって実は少し楽しんでいる自分がいます」
「本当?実は俺も少し楽しいんだ。なんかこう、少しでもここでの生活を良くしようと考えて行動して、拠点ができたり、気の訓練をしたりしていると生きているって実感が湧いてくるんだ」
「わかります!お風呂に入れないだとか、虫刺されが気になったりしますが拠点ができたときはワクワクしていました」
「女性のミーアさんにはこんな生活辛いだろうと思っていたけど、少しでもそう思ってくれているなら気が楽になるよ」
「今まで家のことばかりやってきていたので、新しいことができて楽しいのかもしれません」
「ふふっ。無人島生活が楽しいだなんてお互い変かもしれないねえ」
「そうかもしれませんね」
二人は和やかな雰囲気になり笑いあうのだった。
その日は雨でやることがないので、二人は気の訓練をして過ごした。
トーマは胸の奥に、わずかに暖かい何かを感じとることができるようになったような気がするレベルまで上達?することができた。
気の訓練は先が長くなりそうだ。




