27 黒姫
「汝、その両手を震わせることなかれ、その両足もまた留まることないと知れ、加速!」
すっかりこのメンバーの切り込み隊長になったシリウスさんと姉さんが同時に飛び出し、それぞれ一体の笹蟹織女を潰した。
他の笹蟹織女が素早く包囲に掛かるとしたけど、姉さんは鮮やかに脱出、一方、
「おらおらおらおら!!!」
シリウスさんがハルバードを大きく旋回させ、遠心力を制御する戦技《乱壊嵐》を放った!
凶刃の暴風に巻き込まれ、笹蟹織女たちが刻まれ、弾き飛ばされた。
入れ替わりに地獄犬どもがが躍り出し、シリウスさんへブレスを放った。
だがソラリスさんの神術のお蔭で、シリウスさんは炎にまったく動じない、無傷で切り抜けた。
ブレスが効かないと知り、噛みつこうとした地獄犬だが、
「汝、空を覆い尽くす駆けめぐる閃光こそ神の怒りと知れ、極大稲妻の連鎖!」
「我が誓う、三千の光威を射するものなり大々と輝け、増幅灼熱の輪!」
三体のハーフドラゴン種を中心に、二人の広範囲呪文が戦場を蹂躙する。
地獄犬と笹蟹織女が続々と断末魔を上げてる内に、ハーフドラゴン種はまったく堪えてない様子で、緑色の一体がシリウスさんに襲い掛かり、黒姫ともう一体はこっちへと走り出した。
「姉さん戻って!」
「わかったわ!」
姉さんは緑色のハーフドラゴン種に追いつき、体の下に潜り込んで、思いっきり蹴り上げた!
屍僕強化が掛かってる強烈な蹴りによって、巨躯が軽く浮き上がった。
さらに《死配者の指輪》で俺とリンクした姉さんは、死霊魔術奪霊の牙でその生命力を奪い取った。
「ギギギィ――ギィ――ッ!?」
僅かだが生命力の流出に気づいたハーフドラゴン種は戸惑いながらも姉さんの脅威を無視できなくなり、その場に釘付けされた。
一方、俺とフォックスさんが残り一匹のハーフドラゴン種――黒姫の突進を迎え撃つ。
「ぬうううううう!」
十トン以上もあるだろうその質量を前にして、僅かとも恐れをなしていないフォックスさんが戦技《鋼要塞》を発動、その勢いを完全に防ぎ止めた。
一歩たりとも引かないフォックスさんマジ痺れる。
だが黒姫は蜘蛛の口を大きく開いた。
「フォックスさん、ブレスだ!」
「《守れ》!」
俺が言うまでもなく、フォックスさんも敵の動きに気づき、白い大盾を高く掲げた。
キーワードと共に、白い大盾が花弁のように展開して、俺と後衛陣を守る光の壁になってゆく。
そして、蜘蛛の口から稲妻の光束が放たれ、花弁の盾と激突したが、ついぞ破れなかった。
「雷だ、ソラリスさん!」
「わかりました!我が誓う、無垢なる羊を守る盾となり、対雷防壁!」
神術の力が全員の身体に降り注ぐ。
激怒した黒姫の足が二本、ソラリスさんを襲いかかるが、俺はフォックスさんの後ろから飛び出し、その足の関節を《強斬》で叩っ斬る!
ガンッ!
まるで金属の衝突音が鳴り響いて、龍鱗に覆われている関節がナタボウを弾いた。
だが軌道を逸らされた足はもう一本の足とぶつかって、ソラリスさんから外された。
やはりこのくらいじゃ傷もつかないか、だが、今はその攻撃を防ぐだけで十分!
「汝、為すすべもなく黒い沼の使者の生贄と成れ、黒い触手!」
「我が誓う、光威に仇成すものを束縛鎖となりて、天使の鎖!」
黒姫の足元から無数の黒い触手と光の鎖が現れ、その八本足をキツく縛りつけた。
「フォックスさん、下は任せた!」
「おう、いけ!」
俺は黒姫の足を踏み台にして、跳躍に跳躍を重ねてその巨体に登った。
下の蜘蛛に対して、女性部分のほうがいくらか斬りやすいかと思ったからのと、
「ここなら……やりやすい!」
大人しく縛られてわけもなく、激しく暴れている黒姫は足場として最悪だが、下手に一軒家よりデカいその巨躯は下から見られる心配もない。
俺は最大出力で奪霊領域を発動しながら、黒姫の女性部分に斬りかかる!
「ギィ――ッ!?」
傷一つないのに、生命力が止めどなく流出してるのを感じ、困惑の黒姫は両手の爪で剣を止めた。
通常の笹蟹織女では考えられないデカさの黒姫は、女性の上半身だけで二メートルも届く。
その爪もまた、一つ一つがまるで大剣のような、人間を両断するには十分すぎる。
鍔競り合いの距離で、ヤツが毒液を吐き出した。
毒対策はしているけど、さすが目に入ったらまずいから、頭を下げで、《闇夜のマント》の中から召喚しておいたスカルドラゴンが大口を開けて、黒姫に噛みつく。
スカルドラゴンは簡単に言うとスケルトン化されたワイバーンだ。
元が強力モンスターだけに、スケルトン化されて空を飛べなくなった代わりに、その力が一層強くになった。
《死配者の指輪》の機能で屍僕強化が掛かってるスカルドラゴンの牙が黒姫の首に喰らい付け、俺はその腹に剣を突き立てる!
「ぐっ!」
しかしさすがドラゴンの魔力を取り込んで進化したハーフドラゴンというのか、これでも黒い龍鱗の防御を破れない。
スカルドラゴンの牙は龍鱗に微かな傷を作ったが、それだけだ。
黒姫は爪を繰り出し、俺は必死で剣とスカルドラゴンの尻尾で防いで、止むを得ず飛びずさった。
「ギギギギィギギェェェェ―――!!!」
黒姫が触手と鎖を引き千切って、その場で跳躍!
さすがにこのままじゃまずいと身体の上から飛び降り、なんとか着地。
高く飛び上がった黒姫は蜘蛛の面目躍如、そのまま天井にしがみ付いた。
「無事か、坊主!」
フィリオさんが心配そうに声を掛けた、この人本当に戦闘に入ると言葉遣いが雑になる。
「大丈夫、ごめん傷つけなかった!」
「んなのはいい、足止めりゃ十分だ!」
見れば通常の笹蟹織女と地獄犬はすでに一掃され、呪猟犬の死体はないがどこかへ逃げたようだ。
一方、シリウスさんと姉さんが、それぞれ緑のハーフドラゴン種を圧倒している。
シリウスさんの一撃一撃が重い、ハーフドラゴン種が機敏に八本足を動かせ、あらゆる方向から襲い掛かるが、打ち合いごとにノックバックされて、大きなダメージは食らってないが攻めあぐねている・
姉さんは時にハーフドラゴン種の身体に飛び乗り、時に地上へ舞い戻り、変化自在の足さばきと《斬り丸》で縦横無尽に切り刻む、その一つ一つの傷口から生命力を刈り取っている。
ハーフドラゴン種の笹蟹織女は龍鱗の頑丈さと蜘蛛の敏捷を併せ持っているモンスターだが、この二人は静と動においてそれぞれ奴らを上回っている、その上でアダマンティウムの武器を持っているから相性がいい。
「カッッッ!!」
「させません!」
天井にしがみ付いてる黒姫が同時に三つの網をこっちと姉さんとシリウスさんの方向に噴き出した。
だがソラリスさんがすかさず白い杖を掲げ、数本の赤い光線でそれらを空中に燃やし尽くした。
詠唱がないから、恐らく何かの魔道具の効果だろう。
こっちは黒姫にダメージを与えないが、それは黒姫も同じだ。
この睨みあいの状況が継続すれば、やがて姉さんかシリウスさんが敵を仕留め加勢してくるでしょう。
そして仲間の苦戦に業を煮やしたか、黒姫が愚策に走った。
俺たちを置いといて、シリウスさんへと奔った。
勿論シリウスさんが二体に一遍相手できるはずがない。
だがフィリオさんさんは瞬時に決断を下した、シリウスさんに絶大の信頼を寄せて、
「汝、為すすべもなく黒い沼の使者の生贄と成れ、黒い触手!」
黒い触手が再び現れ、姉さんの相手のハーフドラゴン種を縛りつけた。
その隙を見逃すわけもなく、姉さんの回し蹴りが人型の上半身をまるごと斬り飛ばした。
そして二体のハーフドラゴン種に挟撃される寸前のシリウスさんは、ハルバードを地に刺せ、
「《解放》!」
重厚な鎧が無数の刃と化して、小規模な竜巻を巻き起こしながらハーフドラゴン種を弾き飛ばす!
膨大な魔力と共に放射された刃の暴風はわずか数秒しか保ってないが、十分すぎる。
「んんみゃあああああ――――!」
姉さんは息絶えたハーフドラゴン種を掴み、全身の回転を用いて、黒姫へとブン投げた。
予想外の攻撃を黒姫は跳んで避けたが、それを予測した姉さんは空へと飛び出し、黒姫の背に乗り、頭を踏み台にして《突進》でさらに飛び上がった。
「フィリオさん、強化!フォックスさん足止めお願い!」
姉さんの意図を読んで、俺は素早く行動に移した。
フォックスさんと異なる方向からそれぞれ《強斬》と《盾撃》で黒姫の足を強打、その場に釘付く。
「汝、湧き上がる力が羆のようにと知れ、羆の蛮力!」
天井まで飛びあげて、溢れんばかりの力を蓄えている姉さんは、全力の蹴りで天井を爆散して流星のように黒姫へと落下!
黒姫が姉さんに向けてまた網を吐いたが、姉さんは錬金術師の焔を取り出して自分ごと燃やしてた。
「熱つつつつつう――――!」
火を纏って、目にも留まらないスピードで何回も何回も宙転して、得意の踵落としで黒姫の上半身ごと、蜘蛛の口まで両断した!
「キ゛キ゛キ゛キ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛――――ッ」
断末魔を上げながら、黒姫の八本足が何度も痙攣して、やがて動けなくなった。
最後のハーフドラゴン種は逃走を図るが、後ろからシリウスさんの投げたハルバードに貫かれて、次の瞬間に追いつかれて、口の中に剣を突っ込まれて絶命した。
戦闘が終わって、まずやることは姉さんの火消しだ。
水で錬金術師の焔を流し、流せないところは服を剥いた。
ダメージがなくても服はボロボロで、アンデッドであることはバレないと思うけど、それでも姉さんの体を他の男に晒すわけにはいかない。
俺はローブで姉さんを包み、便利袋から着替えを取り出した。
「まったく、いくらダメージ喰らわなくても自分に火を点くヤツがいるか」
俺は呆れて溜息をついた。
「ふふふ、ごめんね」
どうやらさっきの技をかなり気に入ったようで、姉さんは反省の色が欠片もなく、上機嫌で俺に抱きついた。柔らかい。
「はいはい、まず服を着替えましょう」
「えへへ、ありがとうフィー君」
ローブの中にもそもそと着替え始めた姉さん。
「君たち、いつもそんな無茶な戦い方してるのかい」
フィリオさんも呆れてるように言った。
また素材集めをサボってるよこの人。
「いいえ、さすがにこんな相手は滅多に見れませんよ」
「そりゃハーフドラゴンでもこのくらいのはあんまりないが……」
「もっと身体を大事にしてくださいね?」
ソラリスさんが近づいて、治療の神術を掛けてくれた。
「ありがとうございます、他の人はもういいのですか?」
「シリウスとフォックスの治療は済んだ、俺は傷ついてない、そっちの嬢ちゃんは?」
「私も傷ついてないわ」
そもそも治癒の神術じゃダメージ喰らうしな。
《再死の首飾り》の効果で多少の傷ならすぐ回復するから治癒されなくて済んだ。
持っててよかった《再死の首飾り》。
「いくら神術が掛かっても限度がありますから、レンツィアさんも女性ですから、身体を大事にしませんと弟さんが悲しみますよ?」
「ああ、もっと言ってやってくださいソラリスさん」
「ううぅ、ごめんねフィー君、次は上手くやるから」
「やるな」
「ふふふ」
その後、俺たちは周りに散らばっているモンスターの死体から素材を回収した。
さすがにハーフドラゴン三体、それも黒姫みたいな大きさは便利袋でも収められないから、討伐証明の首、素材となる角と鱗を剥がして、そして何よりハーフドラゴン種が飲み込んだ《龍晶石》を回収して、他は燃やした。
それでも三つの便利袋でその場で山分けしてようやく収められた。
ちなみにフィリオさんまたシリウスさんに蹴り上げられた。
「よし帰るぞ、気を抜くなよ、都市に戻るまでが依頼なんだ」




