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第75章:神罰のトンネルと共和国の夜明け

第75章:神罰のトンネルと共和国の夜明け


シルフの神聖な風の力『大気歪曲・天蓋隠蔽』によって、十トンのメガEVバスは光と音を完全に遮断されたまま、アストル神聖教国の首都「聖都ルミナス」の厳重な城門をすんなりと潜り抜けた。

外郭の巡回兵たちも、門前の検問詰所も、自らのすぐ脇を巨大な風の塊が通り抜けたことすら気づかなかったのである。


市街地に入った一行は、人目につかない教皇庁裏手の路地裏にバスを停め、カロンの空間収納アイテムストレージへと一時退避させた。

そこから、教国内で悪目立ちしないよう、全員がフード付きの巡礼者用マントを深く被り、教皇庁から五百メートルほど離れた旧市街の宿屋街へと足を進めた。


選んだのは、三階建ての古めかしいが頑丈な石造りの宿屋「白鳩亭」であった。

一行はカウンターで数日分の宿泊を申し込む。


部屋割りは全部で六室。

カロンと大地の神トーラが一部屋、バログ大親方と父ガイルら屈強なドワーフ親方衆十名が三人ずつに分かれて三部屋。

リアリスとエルフの少女の姿をしたシルフが一部屋。

そして残る一部屋に、東門警備隊長のガースと、駄女神メリスが入ることとなった。


旅慣れぬ二人を装うため、ガースとメリスは「敬虔な巡礼の商人夫婦」という設定で受付を通したのだが――

階段の手前で、ガース隊長はあからさまに引きつった顔をし、脂汗を滝のように流しながら後ずさっていた。


「あ、あの……学長。私、ロビーの長椅子で毛布を被って寝ますので、メリス様にお部屋をお使いいただいては……」


ガースの拒絶反応に、隣のメリスがむっと眉を釣り上げ、仁王立ちになって腰に手を当てた。


「ちょっとガース! 何よその態度は! この絶世の美女である私と同じ部屋に泊まれるっていうのに、何が不満なのよ!? 天界の男神たちなら、神殿の果物を百年分貢いででも土下座して頼み込んでくる栄誉なのよ!?」


「い、いえ、不満とかそういう次元ではなく……! 命が、精神の寿命が縮むと言いますか……!」


「なによそれ! 失礼ね! 私のどこが恐ろしいっていうのよ! ちょっと、ちゃんと説明しなさいよ!」


宿屋の廊下に響き渡るメリスの甲高い抗議の声と、平身低頭で弁明するガースの狼狽ぶり。

遠巻きに見守る宿の女将や他の宿泊客たちには、旅の疲労でヒステリーを起こした若い美貌の妻と、それにタジタジになっている気弱な夫による、どこにでもある「夫婦喧嘩」にしか見えなかった。


「……まあ、カモフラージュとしては満点だな」

カロンは苦笑いしながら肩をすくめ、自分とトーラの部屋へと向かった。


二人が割り当てられたのは、重厚な石壁に囲まれた一階の角部屋であった。

床には分厚い石板が敷き詰められ、窓からは教皇庁の巨大なドーム屋根と尖塔群が、夕暮れの空に黒々としたシルエットを刻んでいるのが見えていた。


部屋の鍵を閉めると、トーラ神は旅装のマントを脱ぎ捨て、屈強な腕をぐるりと回した。

その手には、いつも持ち歩いている土壌改良用の鉄スコップが握られている。


「さて、カロンよ。教皇庁の周囲には、邪悪な紫色の防衛結界が何重にも張り巡らされておる。正面から城門を破れば、警報の鐘が鳴り響き、敵に逃げられたり人質を取られたりするおそれがあるな」


「ええ、トーラ様。結界を突破し、教皇庁と宮殿の中枢へ一切の警報を鳴らさずに奇襲をかけるには、地下深くを通るしかありません。地上五百メートルの距離を、地下三十メートルの深さで迂回するトンネルが必要です」


「うむ。人の子の工学ならば数ヶ月かかる大工事であろうが……我の大地の権能にとってみれば、朝飯前の散歩道よ」


トーラ神はスコップを置き、部屋の隅の石畳へと静かに膝をついた。

両手の分厚い掌を床板に密着させ、目を閉じる。


ゴゴゴゴゴ……ッ!


部屋の中には微塵の振動も響かなかった。

しかし、床下の岩盤層の奥深くで、大地の原子結合がトーラ神の神意によって融解し、再配列されていく気配が伝わってきた。

土砂を掻き出す必要すらない。土と岩そのものが、神の意のままに圧縮され、内壁を滑らかで強固な鏡面岩盤へと硬化させながら、前へ前へと自発的にトンネルを掘り進めていく。


「掘削深度、三十五メートル。教皇庁の外郭結界の基底部を通過……宮殿の真下へ到達したぞ」


トーラ神が立ち上がった。

作業開始から、わずか三十分。

部屋の床板が一枚、音もなくスライドして退くと、そこには大人三人が横に並んで歩けるほどの、完璧な円筒形の地下道が、真っ直ぐに漆黒の闇の奥へと口を開けていた。


「よし……計画通りだ」

カロンは頷き、時計の針を確認した。


作戦決行は、深夜零時。

ブルネジ伯爵率いる改革派貴族の私兵軍が、密かに聖都の近郊に集結し、手筈通りに教皇庁周辺を包囲する予定の時刻であった。


深夜。静まり返った白鳩亭の一階角部屋に、全員が集結した。

カロン、トーラ、メリス、リアリス、シルフ、ガース隊長、そしてミスリル槌を構えたバログ大親方と十名のドワーフ親方衆。


「全員、足音を忍ばせろ。突入するぞ」


カロンの合図で、一行はトーラ神の掘った地下道へと滑り込んだ。

シルフの風の加護により、足音も吐息も完全に無音化されている。

緩やかな傾斜を描く乾いたトンネルを歩くこと数百メートル。やがて、前方に立ちはだかる灰色の石壁の前で、先頭を行くトーラ神が足を止めた。


「この壁の向こうが、教皇庁宮殿の最深部……地下空間だ」


トーラ神が分厚い拳で、石壁をトンと軽く叩いた。

魔力を込めた打撃により、壁の石材は粉塵一つ立てずにパズルのように崩れ落ち、内部へと続く通路が現れた。


一行が身を滑り込ませた瞬間――

鼻を突いたのは、濃厚な血と腐敗、そして排泄物が混ざり合った、地獄のような悪臭であった。


「……っ!? な、何だこの匂いは……!?」

ガース隊長が思わず口元を押さえる。


そこは、教皇庁の真下に広がる「秘密地下牢」であった。

薄暗い松明が照らす鉄格子の向こうには、ボロ布をまとわされ、鎖で壁に繋がれた数十名の人々が倒れ伏していた。

その中には、仕立ての良い衣服をズタズタに引き裂かれ、血塗れになって横たわる貴族風の男たちの姿もあった。


「あ、あれは……ブルネジ伯爵の同志である、改革派の有力貴族たちだ……!」

ガースが息を呑む。


さらに通路を進むと、そこには爪を剥がす拷問具、焼きごて、血溜まりがこびりついた石台が並ぶ「拷問室」、そして無残に処刑された者たちの遺骸が無造作に積み上げられた「死体処理所」が広がっていた。

神の慈悲を説くはずの聖都の地下深くに、このような凄惨極まる地獄が存在していたのである。


「ふぇ……っ、血の匂いが……いっぱいですぅ……っ」

シルフが怯えて震え出し、大粒の涙を浮かべた。


リアリスが瞬時にシルフの目を自らのマントで覆い、抱きかかえた。

「シルフ様、見ちゃ駄目! カロン、シルフ様をこの部屋から離すわ!」

「頼みます、リアリスさん! ドワーフの二人、彼女たちをトンネルの入り口まで護衛してくれ!」


そして――。

凄惨な拷問器具と積み重なる遺骸を見つめていた駄女神メリスの表情から、完全に感情が消失した。

黄金の髪が逆立ち、室内の空気が絶対零度まで凍りつく。


「……なるほどね。これが、偽物の神を掲げて権力を貪る奴らの『本当の顔』ってわけね……」


メリスの背後から、神聖なまでの殺気が黒紫色の雷光となって漏れ出した。


その時、壁の崩落音を聞きつけた教皇庁の警備兵十数名が、槍を構えて雪崩れ込んできた。

「何奴だ! 地下牢へ侵入する者は――」


パチン。


澄んだ指鳴らしの音。

叫んでいた警備兵全員が、白目を剥いて同時に石畳の上へ崩れ落ちた。


メリスは振り返りもせず、大理石の階段を指差した。

「上へ行くわよ。この建屋に巣食うネズミども……一匹残らず意識を刈り取ってやるわ」


地下牢から地上フロア、そして教皇庁宮殿の最上階へと至る進軍は、もはや「戦闘」と呼べるようなものではなかった。


カロンは運転席ならぬ歩行の先頭で、自らの瞳の奥に『アナライズ・ダーク』を展開していた。

視界に映る宮殿内の生体反応。

巡回する聖堂騎士、呪術を唱えようとする高位司祭、迎撃のために駆け下りてくる親衛隊。


「二階の回廊、右から八名接近!」

カロンが告げる。


「はいはい、おやすみなさい☆」


パチン。


壁越しにメリスの神聖パルスが炸裂し、回廊を走っていた八名がドサドサと将棋倒しになって気絶する。

アナライズ・ダークの波形を見ても、脳内の魔導神経が完璧に安全に遮断され、心拍数だけが安定した深い昏睡状態へと移行しているのが確認できた。


「三階大広間、三十名集結しています!」

「まとめて寝てなさい!」


パチン。


広間の扉を開けると、三十名の完全武装の騎士たちが、綺麗に床に整列するようにして眠りこけていた。

カロンの精密な索敵と、メリスの広範囲かつ無制限の即死――ならぬ「即座昏睡」のコンビネーション。

いかなる精鋭部隊も、神の理不尽な権能の前には赤子同然であった。


階段を駆け上がること数分。

一行は、教皇庁宮殿の最上階、純金と白銀で装飾された巨大な両開きの扉の前に到達した。

扉の前の警護兵、ならびにアストル教の最高意思決定機関である「十二枢機卿」の幹部十二名が、すでに廊下に敷かれた絨毯の上で全員泡を吹いて転がっていた。


「ここが、親玉の部屋ね」

メリスが容赦なく、白銀の扉を蹴破った。


バターンッ!!


豪奢な扉の向こうに広がっていたのは、まさに「贅の極み」を体現したような大広間であった。

床には魔獣の極上毛皮が敷き詰められ、棚には溢れんばかりの金塊や宝石の山。

部屋の隅には、怯えた表情の薄衣をまとった数名の美女たちが侍り、中央の天蓋付き巨大ベッドの上には、豪奢な純金の法衣をまとった肥満体の老人が腰掛けていた。


アストル神聖教国の頂点に君臨する男――教皇であった。


「な、何奴だ貴様ら――! 無礼者め、聖なる教皇の御前であるぞ! 出会え、出会えェ――」


パチン。


「うるさいわね、ブタ」


メリスが面倒くさそうに指を鳴らした瞬間、教皇は叫びの途中で「ぶふっ」と間の抜けた声を上げ、そのまま白目を剥いて天蓋ベッドの上へドスンと仰向けに倒れ伏した。


「………………………………」


ガース隊長も、バログ大親方も、部屋の美女たちも、口をあんぐりと開けて固まった。

帝国全土を揺るがし、クーデターを裏から操った国際的巨悪の幕引きは、あまりにも呆気なく、一瞬で完了したのであった。


その時、教皇庁の窓の外から、けたたましい軍靴の地鳴りが響き渡ってきた。


カロンがバルコニーから見下ろすと、教皇庁前広場の正門を押し破り、整然と隊列を組んだ数千の軍勢が雪崩れ込んできたところであった。

掲げられているのは、アストル教の三叉の旗ではなく、青地に銀の百合をあしらったブルネジ伯爵家の紋章旗。

手筈通り、ブルネジ伯軍が聖都の掌握のために突入してきたのである。


カロンはアイテムストレージから拡声器を取り出し、階下へ向けて呼びかけた。

「ブルネジ伯爵! 宮殿の制圧は完了しました! 無血開城です、中へお入りください!」


数分後、鎧を着込んだブルネジ伯爵が、側近たちを連れて息を切らしながら最上階へと駆け上がってきた。

部屋の惨状――金塊の山と、ベッドの上で泡を吹いて倒れている教皇の姿を目にし、伯爵は息を呑んだ。


「カロン殿……! 本当に、宮殿守備隊と教皇を、一人の血も流さずに無力化したというのか……!?」


「はい。教皇も十二枢機卿も、全員三日間は絶対に目を覚ましません。……ですが、伯爵。喜ぶ前に、まず地下牢へ来てください。至急、救護班が必要です」


カロンの重い言葉に、ブルネジ伯爵の表情が引き締まった。


地下牢へ案内されたブルネジ伯爵は、鉄格子の奥に横たわる凄惨な光景を目にした瞬間、その場に崩れ落ちそうになった。

「あ……ああ……! フェルナンデス子爵! モロー男爵……!」


そこには、過酷な拷問によって手足を砕かれ、瀕死の重傷を負った改革派貴族たちの姿があった。さらに奥の死体安置所には、すでに息絶えていたかつての同志たちの変わり果てた骸が転がっていた。


「おのれ……! おのれ、教皇庁の狂信者どもめ……!!」

ブルネジ伯爵は拳から血が滲むほど固く握りしめ、慟哭のような怒りに震えた。


「信仰を盾に取り、意に沿わぬ者をこれほどまでに無残にいたぶり殺していたとは……! 断じて許せん! この悪行を白日の下に晒さずして、何が神の国かッ!!」


カロンが伯爵の肩に手を置いた。

「伯爵。生き残った方々は、私が今から高位の治癒魔導で全員治療します。……教皇と幹部たちの身柄は、貴方に預けます。彼らの罪は、感情的な私刑ではなく、法と正義に基づいた公平な裁判によって裁いてください」


ブルネジ伯爵は深々と頭を下げ、涙を拭った。

「……感謝いたします、カロン殿。貴方の言葉、決して忘れぬ。この国は、血の復讐ではなく、真なる正義によって生まれ変わらねばならぬのだ」


カロンの放った『キュアディジーズ』と広域治癒魔法により、地下牢の負傷者たちは瞬く間に完治し、失われた命への哀悼とともに、旧体制の崩壊と新政権への移行が、平和的な形で動き出したのである。


東の空が白み始め、朝の光が聖都の白亜の街並みを照らし出した。


激動の夜を乗り切ったカロンたちは、宿屋「白鳩亭」へと戻り、午前中いっぱい泥のように眠って休息を取った。

そして午後、改めて教皇庁へと向かった一行の目に飛び込んできたのは、劇的に変貌を遂げた街の姿であった。


教皇庁前の大広場には、何万人もの聖都市民たちが詰めかけていた。

演壇の上に立ったブルネジ伯爵は、地下牢で発見された凄惨な拷問具の数々や、不当に処刑された人々の名簿、そして教皇の寝室から押収された天文学的な金塊の山を、市民たちの目の前に白日の下に晒していた。


「聖都の市民諸君! 我らが信じ込まされてきた『アストル神』の正体は、特権階級が私利私欲を肥やし、異分子を拷問・虐殺するための虚構の鎖であった! 教皇ならびに十二枢機卿は、反逆と弾圧の罪により、公平なる法廷にて裁かれる!」


広場を埋め尽くした市民たちから、怒号と歓声、そして解放の涙が波のように押し寄せた。

地方都市に潜む神権統治派の残党も、各地の改革派貴族たちが一斉に蜂起して鎮圧に乗り出しており、教国の旧体制は瞬く間に瓦解していった。


そして、その後の一週間。

カロンたち遠征組は聖都に留まり、新国家体制の樹立を見届けることとなった。


腐敗した神権政治の廃止。

信仰の自由の保障。

身分制の撤廃と、法治主義に基づく新憲法の制定。


教皇庁の宮殿は「国民議事堂」へと改修され、アストル神聖教国は解体。

新たな国家――『ルミナス共和国』の建国が、全世界へ向けて高らかに宣言されたのである。


そして、その初代大統領に選出されたのは、他ならぬブルネジその人であった。


この一週間の間、ブルネジ大統領は自らの私邸でカロンたちを国賓として手厚くもてなした。

毎晩のようにテーブルに並ぶ教国の至高の山海の幸。

駄女神メリスは「ん〜! 美味しい! やっぱり新しい大統領さんは話が分かるわね!」と、毎晩腹がはち切れるほど平らげて上機嫌であった。


出発の前夜、大統領執務室において、ブルネジ大統領はカロンへ一通の親書を託した。

金箔で縁取られた、ルミナス共和国の国璽が押された親書。


「カロン殿。これは、ゲスハルト帝国国王セルセデス3世陛下への親書です。我が共和国は、帝都のクーデターに対する教皇庁の関与を正式に謝罪し、帝国との恒久的な不可侵条約、ならびに自由通商条約の締結を希望いたします」


ブルネジ大統領はカロンの両手を固く握りしめ、涙ぐんだ。


「カロン殿、そして神々の皆様……。私の命、妻の命を救っていただいただけでなく、この国を闇の底から引き上げ、光ある未来へと導いてくださったこと……国民一同、生涯決して忘れません」


「いいえ、大統領。これからは帝国と共和国、隣国同士として手を取り合い、共に豊かな世界を創っていきましょう」

カロンが微笑んで握り返すと、後ろに控えていたバログ大親方やトーラ神、ガース隊長も力強く頷いた。


翌朝。

抜けるような青空の下、旧聖都――新しき自由都市ルミナスの大広場には、ブルネジ大統領夫妻をはじめ、新政府の閣僚たち、そして大勢の市民たちが見送りに集まっていた。


「全員、乗車完了したぞ!」

バログ大親方の野太い声が響く。


青と白のメガEVバスの運転席に座るカロン。

助手席には、故郷の村を救い、任務を完璧にやり遂げて自信に満ちた笑顔を浮かべるガース隊長。

客席には、大満足の笑顔を浮かべるメリス、シルフ、トーラ、リアリス、そしてドワーフ親方衆。


プシューーーッ!


エアブレーキが解除され、四輪のインホイールモーターが美しい高周波の唸りを上げた。

手を振る大統領と市民たちの歓声の中、バスは滑らかに発進し、ルミナスの城門をくぐり抜けた。


教国の平坦な街道を、時速八十キロで疾走するバス。

昼前には天蓋山脈の国境砦「白亜の関」へと到達した。

先週あれほど強固に閉ざされていた白銀の主門は、今や両国を繋ぐ平和の象徴として左右に大きく開放されており、共和国の警備兵たちがバスに向かって敬礼を捧げていた。

すんなりと国境を通過し、五百メートルの緩衝地帯を越えて帝国領内へ。


そこからは、シルフの追い風をフルに受けた、凱旋の高速クルーズであった。


「シルフちゃん、一気に飛ばすわよ!」

「は、はいっ! 風さん、みんなを帝都へ連れていってください!」


ヒュオオオオオォォォッ!!


風の神の神風に背を押され、メガEVバスは西部幹線街道を矢のように滑走した。

車窓を流れる緑の平野、歓声を上げる街道筋の旅人たち。


そして――。

朝にルミナスを出発してから、わずか数時間後の夕暮れ時。


夕陽を浴びて黄金色に輝く帝都グランツの巨大な外郭城壁が、前方の地平線に姿を現したのである。


「見えたぞ……帝都だ!」

ガース隊長が叫ぶ。


クーデターの危機を乗り越え、隣国の邪教を打ち砕き、平和の親書を携えて帰還した青白き鉄の巨獣。

西門の跳ね橋を轟音とともに渡り、メガEVバスは、待望の祝宴と大公の待つ帝都グランツへと、堂々たる凱旋を果たしたのであった。

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