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第72章:帝都、クーデターが起こる(後編)

第72章:帝都、クーデターが起こる(後編)


帝都全域を揺るがした電撃クーデターの鎮圧作戦が名実ともに完了したのは、夜の静寂がとっぷりと都を覆い尽くした深夜のことであった。


メリス大聖堂、ゲスハルト帝国大学、そしてクロイツァー侯爵をはじめとする反乱貴族たちの豪邸。数千人規模の反乱軍兵士やアストル教の暗殺者、過激派の学生たちが、駄女神メリスの神聖麻痺パルスによって一瞬にして「三日間の完全昏睡」へと叩き落とされた。

しかし、彼らを捕縛し、手錠をかけ、市街地各所の地下牢や即席の収容所へと移送する作業は、まさに人海戦術の極みであった。


「全兵、休むな! 昏倒している反逆者どもを縄で縛り上げろ! 武器をすべて回収せよ!」

ハミル第一王子自らが抜き身の剣を帯び、松明の赤々とした光の下で近衛兵たちに怒号のような指示を飛ばす。


カロンたちルーセン遠征組は、激動の一日を終え、国王セルセデス3世の強い勧めによって王城本館の貴賓室へと宿泊することとなった。

王城の最高級ベッドに倒れ込んだカロンは、前世の中山教授時代にも経験したことのないほどの精神的疲労を感じていた。五百キロメートルの不眠不休バス運転、神々の暴走の制御、そして市街地の高速疾走。


「……ふう。とりあえず、王族が無事で何よりだったが……」

カロンは天井の豪奢なシャンデリアを見上げながら、深く息を吐き出した。隣の部屋からは、王宮の夜食をつまみ食いして上機嫌になったメリスの鼻歌が微かに聞こえてくる。

不条理な現実に苦笑しつつ、カロンは泥のような眠りへと落ちていった。


翌朝。

東の地平線から昇った眩い朝陽が、硝煙の消え去った帝都の街並みを照らし出した。


王宮の近衛兵、憲兵隊、そして忠誠を誓う地方貴族の駐留軍が夜を徹して捕縛作業を行った結果、朝食の鐘が鳴る頃には、帝都内に潜んでいた反乱分子の実に九割九分が完全に拘束され、牢獄へと収監されていた。街頭のバリケードは撤去され、逃げ惑っていた市民たちも恐る恐る家から顔を出し始めていた。


午前九時。

王城の円卓会議室において、国王セルセデス3世、ハミル王子、ハインリヒ大公、カロン、マルクス、マリアベル、そして三柱の神々が一堂に会し、クーデターの本格的な事後処理会議が召集された。


会議の冒頭、憲兵司令官が青ざめた顔で進み出て、一枚の羊皮紙と、禍々しい紫紺の蝋で封印された親書を円卓の中央へと提示した。

反乱貴族の筆頭格、クロイツァー侯爵邸の地下隠し金庫から発見された機密文書であった。


「……国王陛下。クロイツァー侯爵邸の家宅捜索により、動かぬ証拠が発見されました。今回のクーデター軍に流れていた巨額の活動資金、ならびに最新鋭の呪導兵器……それらすべては、隣国『アストル神聖教国』からの直接支援によるものでした」


憲兵司令官の声が、会議室に重く響く。


「さらに……この計画書です。大司教バルデスとマンハイム総長が失踪した機を捉え、帝国を内側から崩壊させて傀儡政権を樹立せよという具体的なクーデター計画……その発信元は、アストル教国の最高指導者たる『教皇』の直筆署名でございました」


「……やはりそうであったか」

セルセデス3世の表情が、かつてないほど険しく引き締まった。眉間に深い苦渋の皺が刻まれる。


隣国アストル教国。

大陸西方に位置し、唯一絶対の神「アストル」を奉じる宗教国家。かつてよりメリス教を「怠惰で軟弱な偽りの信仰」と見下し、ゲスハルト帝国の豊かな穀倉地帯と工業力を虎視眈々と狙っていた国家であった。


その時、円卓の端でクロワッサンにイチゴジャムを山盛りに塗っていた駄女神メリスが、フォークをガシャンと置いた。

黄金の髪を逆立たせ、冷え切った碧眼をギラリと光らせる。


「な〜んだ、やっぱりあのネズミども、隣の国から湧いて出てきてたのね! 話は簡単じゃないの! そんな国、まるごと私が木っ端微塵にぶっ潰してあげるわよ!!」


「め、メリス様、物騒なことを仰らないでください!」

カロンが即座にツッコミを入れる。


国王セルセデス3世も、脂汗を拭いながら深々と首を横に振った。

「メリス様のお怒りはごもっともにございます。しかし……一国と一国の全面戦争は、何としても避けねばなりませぬ。国家間の大戦となれば、国境地帯の数十万の民草が飢えと戦火に晒され、帝国の国力も疲弊しきってしまいます」


「ちぇっ、相変わらず人間は面倒くさいことばかり気にするのね」

メリスは頬を膨らませ、不満げに腕を組んだ。しかし、すぐにニヤリと悪魔的な笑みを浮かべ、人差し指をピンと立てた。


「じゃあさ、こういう名目はどうかしら? そもそもアストル教の『アストル』なんて神様、天界の神籍台帳のどこを探したって存在しないのよ! あんなの、昔のあくどい権力者が民衆を脅して税金を巻き上げるために勝手にでっち上げた『架空の偽神』よ!」


「「「な、何ですと……!?」」」

会議室にいた人間全員が息を呑んだ。一国の国教の根本神が、天界には存在しない架空の産物だったという衝撃の暴露。


メリスは得意満面に胸を張った。

「だからね! 『天界に実在もしない神を勝手に騙り、罪なき人民を間違った狂信へと誘導した不敬に対する、真なる神々の怒り――神罰の執行』! これなら国と国の戦争じゃなくて、純然たる『天災と天罰』でしょ!? 誰も文句言えないじゃない!」


「ぐ……っ」

セルセデス3世は顎に手を当て、深く考え込んでしまった。


「……神罰、か。確かに、神々の御業であれば、帝国軍の正規出兵という形は取らずに済む。……実はな、アストル教国の内情については、我が国の諜報部からも報告が入っておるのだ」


国王は身を乗り出し、声を潜めた。


「教国内部も一枚岩ではない。教皇を中心とする狂信的な神権統治派が暴走する一方で、過度な宗教統制や他国への侵略政策を激しく嫌い、健全な世俗統治と交易の再開を望む『改革派の貴族勢力』が水面下で蠢動しておるのだ。もし……教皇の首謀する狂信派の首脳陣を排除し、その改革派貴族たちに政権を委ねることができれば、大戦を引き起こすことなく、教国の政策を親帝国的な平和路線へと劇的に転換させることができるやもしれん」


それを聞いたメリスが、パンと手を叩いた。


「ほらね! 私の言った通りじゃない! じゃあ、決定ね! アストル教国へ直接乗り込んで、その教皇とやらをパチンと気絶させて、話の分かる貴族に国をすげ替えてやるわ!!」


「け、決定ですか……!?」

カロンは天を仰いだ。またしても駄女神の鶴の一声で、国際政治のパワーバランスを力尽くで塗り替える超弩級の遠征計画が確定してしまったのである。


しかし、すぐに出発するわけにはいかなかった。

傷ついた帝都グランツの機能を正常化し、治安とインフラを完全に立て直すため、カロンたちルーセン遠征組は、その後の一週間を帝都に滞在し、全力で復興支援に当たる密約を交わしたのである。


その一週間の間に、帝都の統治構造は劇的な進化を遂げていった。


【第一の改革:ゲスハルト帝国大学の再生】

学問の府を巻き込んだ反乱の責任を追及するため、強硬派の教授陣やアストル教に毒されていた幹部教員数十名が全員解任・逮捕された。

崩壊寸前となった帝国大学の建て直しを託されたのは、かつて研究室に立てこもって信念を貫いたあの老学者――クリフ教授であった。


「クリフ教授。本日付で、貴殿をゲスハルト帝国大学の『新総長』に任命する」

国王直々の勅令が下り、温厚で実直な学究の徒が学府のトップへと据えられた。


そして、教国遠征へと向かうカロンたちに代わり、前世の弟子であるマルクスが帝都に一時残留することを申し出た。

「クリフ先生。カロン学長たちが戻られるまでの間、私が総長補佐として、組織改革とカリキュラムの刷新、そして工科大学との連携協定の締結をお手伝いいたします」

「おお、マルクス君! 心強いよ。君のルーセンでのバイオ研究の成果も、ぜひ帝都の若い学生たちに講義してやってくれ!」

二人の学者は固く握手を交わし、古臭い権威主義にまみれていた帝国大学は、真理と実学を重んじるクリーンな学府へと生まれ変わり始めた。


【第二の改革:メリス教総本部の浄化】

アストル教の暗殺者たちに乗っ取られていたメリス大聖堂。

昏睡から目覚めた信徒や修道士たちの前に、他ならぬ本物の主神メリスが神々しい神聖光を全身から放ちながら降臨した。


「いいこと、アンタたち! 神様への信仰ってのはね、権力を振りかざしたり、他国を侵略したりするための道具じゃないのよ! 美味しいご飯を感謝して食べて、困ってる人を助けて、毎日楽しく生きる! それが私の教えよ!!」


本物の女神による直接の説教と神威を目の当たりにした修道士たちは、涙を流して懺悔し、地に平伏した。

メリス自身の直接指導により、アストル教の残存教義や異端の魔導具はすべて焼却処分され、総本部は「純度百パーセントの真なるメリス教派」として、清廉潔白な組織へと完全再編されたのである。


【第三の改革:市街地の修復と商業の躍進】

戦闘によって破壊された中央通りの石畳、破損した商店街の建物、そして崩落した外壁の修復工事。

これを一手に引き受けたのが、メガEVバスの最後尾に乗って随行してきたゲオル商会の会頭、マリアベルであった。


「職人の手配、セメントやガラスの資材調達、すべてゲオル商会にお任せください! カロン学長直伝の早強ポルトランドセメントと耐火レンガをルーセンからピストン輸送させれば、一週間で元通り以上の美しい街並みに修復してみせますわ!」


マリアベルは敏腕商人としての手腕を遺憾なく発揮し、帝都の建設ギルドを取りまとめ、驚異的なスピードで復旧工事を完遂させた。

作業を見つめながら、マリアベルはカロンに悪戯っぽく微笑みかけた。

「ふふ、学長殿。王室御用達の看板も手に入りましたし、これからゲオル商会の帝都支店は、目の回るような忙しさになりますわね!」


そして――反乱に加担したクロイツァー侯爵をはじめとする貴族派の面々は、帝国反逆罪により例外なく爵位剥奪・全財産没収という厳罰に処された。

彼らが私利私欲のために蓄え込んでいた広大な所領のうち、ルーセン自治領に隣接する肥沃な旧侯爵領地は、すべてルーセンの管轄地として編入されることが決定したのである。


帝都滞在の最終日前夜。

王城の玉座の間において、帝国の歴史を塗り替える叙任の儀が執り行われた。


玉座の前に敷かれた真紅の絨毯の上に、ハインリヒ大公が静かに跪いていた。

国王セルセデス3世が立ち上がり、帝国の最高権力を象徴する黄金のしゃくを大公の肩へと当てた。


「ハインリヒ大公。そなたは、帝国が最も暗き危機に瀕したその時、電光石火の如き速さで馳せ参じ、至高の神々を率いて国家の屋台骨を救い出した。その忠節、その功績、もはや筆舌に尽くしがたい。……よって余は、空席となっておったゲスハルト帝国の最高官職――『帝国宰相プライム・ミニスター』の地位を、そなたに授けるものとする!」


玉座の間に、居並ぶ近衛兵や忠臣たちから、どよめきと嵐のような拍手が巻き起こった。

皇族に準ずる「大公」であり、同時に国政の全権を統括する「宰相」。

名実ともに、ゲスハルト帝国のナンバー2への大抜擢であった。


「……ただし、ハインリヒよ」

国王は威厳に満ちた声から一転、少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「そなたの主な役目は、神々とカロン学長が住まうルーセンの発展を維持することにある。ゆえに、普段はルーセンにいて構わん。……だが、帝都に万一の異変が生じた際は、あの『鉄のバス』を飛ばし、その日のうちに帝都へ駆けつけること。これを宰相就任の絶対条件とするぞ!」


「は……ははぁっ……!!」


ハインリヒ大公は、床の絨毯に額を擦り付けた。

その両目から、大粒の涙が滝のようにボロボロと溢れ出し、床の絹織物を濡らしていく。


「あ……ありがたき仕合わせ……! 我が一族の過分なる誉れ……! 身命を賭して、陛下と帝国に尽くし奉りまする……!!」


大公の脳裏を過っていたのは、かつて胃潰瘍で血を吐き、神々の気まぐれに脅え、ドワーフの大群に圧倒され、卒倒を繰り返していたあの壮絶な苦難の日々であった。


(報われた……! 余の胃痛は……あの地獄のような心労と胃酸過多の日々は、すべてこの栄光へと繋がっていたのだ……!!)


儀式を終え、廊下へ出てきた新宰相ハインリヒ大公は、出迎えたカロンの両手をガシッと万力のような力で握りしめた。

鼻水をすすり、真っ赤に腫らした目でカロンを見つめる。


「カロン殿……! 余は……余はついに、帝国の宰相にまで登り詰めたぞ……! これもすべて、君がいてくれたからだ……! ああ、早く……早くルーセンに残してきた妻と子供たちに、余が国のナンバー2になったと伝えてやりたい……! 家族の喜ぶ顔が見たいぞォォッ!」


「おめでとうございます、ハインリヒ閣下。いえ、宰相閣下」

カロンは温かく微笑み、大公の手を握り返した。


「閣下がどんな理不尽な状況でも私を信じ、矢面に立ち続けてくださったからこそ、今日の勝利があります。胸を張って、ご家族に報告なさってください」


二人は固く頷き合い、帝都の夜空に美しく輝く星々を見上げたのであった。


こうして、クーデター発生から一週間。

帝都の秩序は完全に回復し、事後処理の第一段階は見事な決着を迎えた。


そして迎えた、運命の出発の朝。


王城の中庭には、整備と急速充電を完璧に終え、車体をピカピカに磨き上げられた「第一号試作型メガEVバス」が静かにアイドリングしていた。

今回の任務は、クーデターの真の黒幕たる『アストル神聖教国』への電撃潜入・教皇無力化作戦である。


ここで、帝都に残留する組と、教国へ向かう遠征組の選別が行われた。


帝都の再建と政治的安定を固めるため、新宰相となったハインリヒ大公、帝国大学の改革を支えるマルクス、商業復興を取り仕切るマリアベル、そしてギルドの連絡役としてギルバートが帝都に残ることとなった。


一方、アストル教国へと乗り込む精鋭メンバーとして、バスへ乗り込んだのは以下の顔ぶれであった。


運転・工学指揮:カロン学長


神罰・主戦力:駄女神メリス


近接戦闘・斥候:リアリス


風の索敵・加護:風の神シルフ


大地の防護・質量戦:大地の神トーラ


工兵・突入部隊:バログ大親方、父ガイル、精鋭ドワーフ親方衆十名


道案内・現地警備:東門警備隊長ガース


「……ところで、ガース隊長」

運転席のカロンが、助手席に座った東門警備隊長を見つめて尋ねた。

「今回の教国遠征、あなたが真っ先に道案内役に志願してくれたと聞きましたが……」


ガース隊長は、引き締まった表情で頷き、胸元の革鎧をポンと叩いた。


「ええ、学長。実は私……生まれも育ちもルーセンではなく、ゲスハルト帝国とアストル教国の国境沿いにある『クロル村』の出身なのです」


「クロル村……国境の山岳地帯ですね」


「はい。クロル村は、アストル教国の交易商や巡礼者が頻繁に行き交う要衝でした。私は若い頃、国境警備の傭兵として教国内部の関所や裏街道、険しい山岳ルートを隅々まで歩き回っていたのです。教国の首都『聖都ルミナス』へ至る最短の抜け道も、教皇庁の防衛結界の配置も、すべてこの頭に入っております!」


「なんと頼もしい……! まさに最高のナビゲーターですね!」

カロンが相好を崩すと、後部座席からバログ大親方が豪快に笑った。


「ガハハハッ! ガースの小僧、普段は東門で神様相手に悲鳴を上げているだけかと思ったら、なかなか骨のある男ではないか! 道案内は任せたぞ!」

「お、大親方、悲鳴を上げているだけとは人聞きの悪い……!」

ガースが苦笑いを浮かべ、車内には和やかな笑いが広がった。


出発の刻限。

王城の中庭には、国王セルセデス3世、イザベラ王妃、ハミル王子、セレスティア王女、そして新宰相ハインリヒ大公、マルクス、マリアベル、クリフ新総長らが見送りに整列していた。


セルセデス3世が進み出て、運転席のカロン、そして窓から顔を出す神々へ向けて深々と頭を下げた。


「至高の三神の皆様、そしてカロン学長。……重ね重ね、我が帝国を救っていただいた大恩、生涯忘れませぬ。アストル教国への遠征、国家としては公式の兵を出せぬ不甲斐なさをお許しいただきたい。……どうか、皆様ご無事で」


「王様、堅苦しい挨拶はナシよ!」

メリスがニヤリと八重歯を覗かせた。


「言っておくけどね、私が帰ってきたら、今度こそ約束の『超特大ケーキ』と『王室秘蔵フルコース』を食べさせてもらうんだからね! 厨房のシェフたちに、腕を磨いて待っておくように言っておきなさいよ!」


「ははは! 承知いたしました! 首を長くして、最高の祝宴を準備して待っておりますぞ!」

国王が豪快に笑い返す。


ハインリヒ大公も、涙を拭った誇らしげな顔で右手を挙げた。

「カロン殿! 帝都の留守は余……いや、儂が命に代えても守り抜く! 道中、どうか気をつけてな!」


「はい、宰相閣下! 行ってまいります!」


カロンがメインスイッチをオンにした。


ピピッ――♪


床下の「雷氷複合魔石バッテリー」が静かに励磁し、四輪のインホイールモーターが力強くトルクを立ち上げる。


「全員、発車するぞ! 掴まっていろ!」


プシューーーッ!


エアブレーキが解除され、カロンがアクセルペダルを踏み込んだ。


キィィィィィン……ッ!


美しいモーターの高周波音とともに、十トンのメガEVバスが滑るように中庭を前進し、開け放たれた王城の巨大な正門をくぐり抜けた。


沿道には、クーデターを鎮圧してくれた「奇跡の青い鉄車」を見送るため、何万人もの帝都市民たちが詰めかけていた。

「救国の鉄馬車だ!」「神々の加護あれーっ!」

割れんばかりの歓声と色とりどりの花吹雪が舞う中、バスは帝都の中央大通りを堂々とパレードのように駆け抜けていく。


西門の跳ね橋を越え、舗装された西部幹線街道へ。


助手席のガース隊長が、膝の上の古びた地図を指差した。

「カロン学長! ここから西へ三百キロ、まずは国境の険しき霊峰『天蓋山脈』を目指します! 我が故郷クロル村を抜ければ、アストル教国の懐へと一気に突入できます!」


「了解した! シルフ様、追い風をお願いします!」


「は、はいっ! 風さん……みんなを、西のお山へ運んでください……!」

シルフが両手を掲げると、清らかな春の神風がバスの巨体を包み込み、車体はふわりと浮き上がるかのように加速した。


速度計の針が、時速八十キロ、百キロへと跳ね上がる。


見渡す限りの広大な西の地平線。

その遥か彼方にそびえる白銀の山脈と、邪教の暗雲が垂れ込めるアストル神聖教国へ向けて――


三柱の神々と屈強なるドワーフたち、そして近代工学の結晶を乗せたメガEVバスは、朝陽を浴びて青白く輝きながら、力強い疾走を開始したのであった。

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