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第60章:帝都の審問官と鉛の防壁

第60章:帝都の審問官と鉛の防壁


鉱山都市ガロニアから押し寄せていた二百人を超えるドワーフ職人たちが、冷房完備の三十階メガタワーで極楽の避暑を満喫し、奇跡の超合金「カロン・スチール」を共同開発して意気揚々と帰還してから数日が経過していた。

秋の気配が深まり、ライネス川の川面を渡る風は涼やかに澄み渡り、ルーセンの街は平穏と活気を取り戻していた。


だが、この平和な地方都市の地下深くには、帝国の屋台骨を揺るがしかねない「最大の爆弾」が埋もれていた。

そう――かつて帝都から傲慢に乗り込んできて駄女神メリスの神罰を喰らい、一瞬で「リアル等身大石像」へと変えられたメリス教総本部・大司教バルデス、ゲスハルト帝国大学総長マンハイム、そして帝都近衛騎兵たちの石像群である。


領主邸の執務室。

カロンの『キュアディジーズ』とエアコンによって重度の急性胃潰瘍から劇的な回復を遂げたハインリヒ侯爵は、かつてないほど血色の良い顔で公務に復帰していた。

しかし、その手元に届いた漆黒の封蝋が押された一通の親書を目にした瞬間、侯爵の顔色は再び土気色へと逆戻りした。


「カ、カロン殿を……大至急呼んでくれ……! 今すぐにだ!!」


セバスチャンが青ざめて駆け出し、半時間も経たぬうちに、大学タワーからカロンが領主邸の執務室へと駆け込んできた。


「侯爵閣下! いかがなさいましたか、また胃の痛みが――」


「胃ではない! いや、胃も激痛を訴え始めておるが、それどころではない大惨事の前兆だ!」

ハインリヒ侯爵は震える手で、デスクの親書をカロンへと差し出した。


「帝都の最高評議会、ならびにメリス教総本部の査察委員会から、極秘の急使が届いたのだ……。バルデス大司教、ならびにマンハイム総長が率いる使節団一行が消息を絶ってから、すでに一ヶ月以上。帝都の混乱がローゼン山の噴煙停止によって落ち着いた今――『消えた重鎮たちの行方を追う特別合同捜索査察隊』が、直々にこのルーセンへ乗り込んでくることになったのだ!」


カロンの眉がピクリと跳ね上がった。


「捜索隊……ついに中央が本格的に動き出しましたか」


「うむ! しかも送り込まれてくるのは、帝室特務監察官にして異端審問の辣腕として恐れられる男――特務主席審問官ギュンターだ! 奴は極めて鋭敏な高位の魔力感知能力を持ち、帝都の宮廷闘争や不正を幾つも暴いてきた『帝国の剃刀』と呼ばれておる! すでに街道を早馬で飛ばしており、今日の昼過ぎにはこのルーセンへ到達するとのことだ!」


ハインリヒ侯爵は頭を抱え、机に突っ伏した。


「終わりだ……! 我が領主邸の地下深くに、帝国の最高権力者二名と近衛兵二十名が石像になって並んでおるのだぞ!? ギュンターの魔力探査にかかれば、地下からの不自然な神聖石化の波動など、屋敷の敷地に足を踏み入れた瞬間に一発で感知されてしまうわ!!」


「だ〜いじょうぶよ! そんなの悩むことないじゃない!」


バターンッ!と扉が開き、能天気な明るい声とともに、大食堂のアップルパイを頬張った金髪の駄女神メリスが執務室へ侵入してきた。

最近では領主邸の警備兵もセバスチャンも、彼女を止めることの無意味さを悟り、半ば諦めて素通ししていた。


「め、メリス様……! 今は帝国の特務監察官が来るという領地存亡の危機なのですぞ!」

侯爵が悲鳴を上げると、メリスはパイのクズをパッパと払い、こともなげに人差し指を立てた。


「だからね! そのギュンターとかいう奴も、ルーセンに着いた瞬間に『パチンと指を鳴らして石像』にしちゃえばいいのよ! ついでに町中の記憶をもう一回吹き飛ばせば、だ〜れも気づかないわ! 地下のコレクションが一体増えるだけじゃない!」


「「絶対にダメだッッ!!!!」」


カロンとハインリヒ侯爵の、魂の底からの大絶叫が重なった。


カロンはメリスの前に仁王立ちし、厳しい視線を突きつけた。

「メリス様! 使節団が消えた直後に、その捜索官までこの町で行方不明になったら、帝都はルーセンを完全な反乱都市とみなして軍団レギオンを差し向けてきます! そうなれば全面戦争です。そんな短絡的な力技、絶対に許可できません!」


「え〜〜っ! せっかく手っ取り早い解決策を教えてあげたのに〜!」

頬を膨らませて不満を露わにする駄女神。


カロンはこめかみを押さえ、前世の中山教授としての工学的・物理学的思考を限界まで加速させた。


(敵は高位の魔力感知能力者。魔導の探査波は、電磁波や放射線と類似した波動特性を持つ……。ならば、魔法で対抗して新たな魔力干渉の痕跡を残すのは悪手だ。魔法ではなく――現代物理学と電磁シールド工学による『完全遮蔽』で欺くしかない!)


カロンは顔を上げ、侯爵へと力強く告げた。


「侯爵閣下。私に二時間の猶予をください。大学の工房とドワーフの留学生たちを総動員し、地下宝物庫を『物理的・魔導的に外界から完全に消失』させてみせます!」


「な……!? そ、そんなことが可能なのか、カロン殿!?」


「可能です。工学とは、見えざる波をコントロールする科学ですから。セバスチャンさん、地下宝物庫の鍵をお借りします! 急ぎましょう!」


カロンは銀色の電気自動車(EV)で大学タワーへと取って返し、地下工房で作業していたドワーフ留学生十二名を緊急招集した。


「緊急事態だ! ガロニアから納入されたばかりの高純度『なまりの圧延インゴット板』五十枚、および『カロン・スチール』の極薄鋼板、さらに銅メッシュワイヤーの全在庫を軽トラに積め! 大至急、領主邸の地下へ突入する!」


「「オーッス!!」」


留学生たちはカロンの鬼気迫る表情にただならぬ気配を察し、電光石火のスピードで資材を積み込んだ。


領主邸の地下最深部。かつて先代侯爵が秘蔵の財宝を収めていたという、頑丈な花崗岩で囲まれた地下宝物庫。

重厚な鉄扉を開けると、ひんやりとした冷気の中に、あの白布を被せられた二十体以上の石像群が、無言で整然と並んでいた。

布をめくると、大司教バルデスとマンハイム総長が、傲慢な表情で怒鳴り散らしているポーズのまま、カチカチの灰色の石となって静まり返っている。


メリスの神罰による石化は、今なお微弱ながらも極めて高純度な「神聖魔力の固有振動」を周囲の空間へと放ち続けていた。敏感な魔導探査者であれば、地上からでもコンパスが狂うように察知できてしまうレベルである。


「よし、作業手順を説明する!」

カロンはチョークで壁と床に素早く施工線を引いた。


「放射線や高周波魔導パルスを遮蔽する基本原理は『質量遮蔽マス・アテネーション』と『ファラデーケージ(電磁完全遮蔽)』だ!

第一層として、石像群の周囲の壁・床・天井の全内面を、厚さ五ミリの高純度鉛板で隙間なく二重に内張りする! 鉛の巨大な原子番号と高密度格子によって、神聖魔力線の透過を九十九・九パーセント減衰させる!

第二層として、その外側を銅メッシュシートで完全に覆い、アース線を地下水脈の岩盤へ深部接地! 外界からの魔力探査スキャン波をすべて地中へバイパス逃がし(アース)にする!

そして最外層には、先日完成した『カロン・スチール』の鋼板を張り巡らせ、表面に漆喰と防音塗料を吹き付けて、見た目をただの『古いワイン貯蔵庫の壁』に偽装するのだ!」


「「了解ッッ!!」」


ドワーフ留学生たちの職人魂が炸裂した。

電動インパクトドライバーが唸りを上げ、アンカーボルトが岩盤に打ち込まれ、重い鉛板がミリ単位の精度で継ぎ目なく溶接されていく。ハンダ付けの煙が立ち込め、銅メッシュが張り巡らされ、最後にカロン・スチールの防護壁が組み上がった。


施工完了まで、わずか一時間四十五分。


宝物庫の扉の内側には、外部からのあらゆる魔力探査波・霊視・熱源探知を完全にシャットアウトする、現代工学の粋を集めた『高密度・鉛複合ファラデーケージ(完全魔導遮蔽ルーム)』が完成したのである。


カロンが携帯型の高感度魔力テスターを壁の外側にかざす。

メーターの針は――ピクリとも動かず、完全な「ゼロ」を示していた。


「ふう……測定値クリア。内部からの神聖放射線リークはゼロ。外部からのアクティブ・ソナー的探査波も完全に吸収・反射されます。……これで勝てる!」


午後二時。

初秋の冷たい日差しが照らすルーセンの街に、蹄の鋭い音が響き渡った。


東門をくぐり抜けて領主邸へとやって来たのは、純黒の長毛馬に跨った十数名の騎馬集団であった。

先頭に立つ男は、黒鉄の胸当ての上に帝室の紋章が銀刺繍された漆黒の外套を羽織り、革手袋を嵌めた手で手綱を握っていた。

三十代半ばの痩身。剃刀のように鋭く尖った顎に、一切の感情を削ぎ落とした氷のような灰色の双眸。

彼こそが、帝都グランツより派遣された特務監察官――ギュンターであった。


「ルーセン領主邸だな。……行くぞ」


低く冷ややかな声とともに、ギュンター率いる査察隊が領主邸の門をくぐった。


領主邸の大広間。

出迎えたハインリヒ侯爵は、完璧に仕立て直した正装を身にまとい、ソファに腰掛けていた。その隣には、工科大学学長としての知的なローブをまとったカロンが、穏やかな笑みを浮かべて控えている。

(なお、暴走の危険がある駄女神メリスは、「学食の新作抹茶パフェ食べ放題」を条件に大学タワーの最上階に完全隔離されていた)


ギュンターは広間へ入るなり、儀礼的な挨拶もそこそこに、鋭い視線で室内をぐるりとスキャンした。


「……突然の無礼をお許しいただきたい、ハインリヒ侯爵。余計な世辞は省かせていただく。私は帝都最高評議会より全権を委任された、特務主席審問官ギュンターだ」


「ようこそおいで下さった、ギュンター殿。……行方不明となられたバルデス大司教閣下、ならびにマンハイム総長閣下の捜索の件ですな。当領としても、突然の凶報に心を痛めております」


侯爵は完璧な貴族のポーカーフェイスを崩さなかった。


ギュンターは冷徹な眼光をカロンへと向けた。

「そなたが噂のドワーフ……ルーセン工科大学の学長、カロン殿だな。……単刀直入に問う。大司教と総長率いる使節団は、先月、このルーセン領へ向けて帝都を出立した。しかし、予定期日を過ぎても帝都へ何の連絡もなく、消息が完全に途絶えた。……彼らは、この屋敷へ到着したのか?」


カロンは微塵も動じることなく、静かに首を横に振った。


「いいえ。使節団の方々は、このルーセンには一切到着しておりません」


「ほう……?」

ギュンターの細い眉がわずかに持ち上がった。

「だが、帝都の街道の目撃情報では、彼らは確実にルーセン領の境界付近まで進んでいたと記録されている。山賊の襲撃にしては、三十騎もの近衛兵が一網打尽にされ、馬車一台の残骸すら見つからんというのは不自然極まりない。……何かを隠してはおらんか?」


ギュンターは立ち上がり、懐から禍々しい青紫色の輝きを放つ、掌大の水晶体を取り出した。

古代の魔導工芸品――『真眼の魔水晶ディテクト・クリスタル』である。


「言葉による証言など、私は端から信用しておらん。この水晶は、半径三百メートル以内にある、あらゆる高密度魔力、神聖力、そして呪詛の残留痕跡を可視化する。……侯爵、この屋敷の地下を含め、徹底的な魔力捜索を行わせてもらう」


ハインリヒ侯爵の喉仏がゴクリと鳴ったが、カロンが穏やかに手先を差し出した。

「どうぞ、気の済むまでお調べください。やましいことなど何一つございませんから」


ギュンターは水晶を胸の前に掲げ、詠唱を口ずさんだ。


「深淵を暴く真眼よ、隠匿されし魔の脈動を白日の下に晒せ――『サイキック・ソナー・スキャン』!」


キィィィィィン……ッ!


水晶から放たれた不可視の魔力探査波が、同心円状のパルスとなって領主邸全体へと放射された。

壁を抜け、床を貫き、地下へと染み込んでいく魔力波。


ギュンターは目を閉じ、網膜上に展開される屋敷の魔力マッピングを読み取っていった。

一階の大広間……異常なし。二階の居住区……生活魔力のみ。そして、問題の地下空間――


(……む? 地下に広大な石造りの空間があるな。……そこへ探査波を撃ち込む……!)


ギュンターは眉間にシワを寄せ、魔力出力を一段階引き上げた。


波は地下の宝物庫へと到達する。

通常の石壁や鉄扉であれば、魔力波は内部を透過し、石像群が放つ神聖石化の波動と共鳴して水晶が真っ赤に発光するはずであった。


しかし――。


地下宝物庫の壁に到達した探査波は、表面に張り巡らされた銅メッシュの導電層に捉えられ、瞬時にアース線を通じて地下深奥の岩盤層へと綺麗さっぱり散逸バイパスされていった。

さらに漏れ出そうとする微弱な神聖放射線も、内側の分厚い高純度鉛板の電子殻に完全捕捉され、外部へ一粒子たりとも漏洩していなかった。


ギュンターの『真眼の魔水晶』には――

「そこには何の変哲もない、ただの分厚い自然の岩盤層と、僅かな古酒の有機反応が存在するだけ」という、完璧な偽装データ(無反応)しか返ってこなかったのである。


「……な、何だと……?」


ギュンターが目を開けた。水晶は青白い静寂を保ったまま、一ミリも変色していなかった。


「……馬鹿な。反応が……何もない……? 大司教ほどの強大な神聖魔力保持者がこの敷地内に足を踏み入れた痕跡すら、微塵も感知できん……!?」


狼狽するギュンターを見下ろし、カロンは内心で(よしっ! 計算通りの減衰率だ!)とガッツポーズを作ったが、顔には至極もっともな学者の表情を浮かべた。


「ギュンター殿。先ほども申し上げた通り、使節団の方々はこの町へは入っておられません。……もしや、ライネス川の上流か、途中の深い原生林の中で、未知の空間転移の罠か、あるいは凶悪な自然現象に巻き込まれたのではございませんか?」


「未知の自然現象だと……?」


「ええ。先日、帝都近郊のローゼン山が大噴火を起こしたばかりでしょう。大陸全体の地脈が激しく乱れており、局所的な魔力枯渇地帯マナ・ストームが発生していても何ら不思議ではありません」


カロンの理路整然とした地質学的・魔導物理学的な解説に、ギュンターは反論の糸口を完全に見失った。

証拠がない。痕跡もない。魔導探査も完全に空振り。

「帝国の剃刀」と呼ばれた男が、完全に手詰まりに追い込まれた瞬間であった。


数時間にわたる屋敷内外の再捜索もすべて徒労に終わり、日没の夕闇が領主邸を包み込んだ。


大広間に戻ってきたギュンターは、疲労の色を隠せないまま水晶を懐へと収め、悔しげに唇を噛み締めていた。


「……認めざるを得んようだ。ハインリヒ侯爵、カロン学長。……無礼な捜索を詫びる。このルーセン領内に、使節団が侵入した痕跡は一切存在しなかった」


「分かっていただければ結構です、ギュンター殿」

ハインリヒ侯爵が寛大に微笑む。その背中は冷や汗でびっしょりであったが。


ギュンターは外套を翻し、重い足取りで扉へ向かいかけたが、ふと立ち止まり、カロンを振り返った。


「……カロン学長。そなたの造ったこの街の『魔導エアコン』とやら、そして街灯の電灯網……実に見事なものだな。帝都大学の保守的な講義録などより、遥かに合理的で進んでいる。……総長マンハイムが、そなたの技術を欲しがって独断専行に走った理由が、少し分かった気がするよ」


「恐縮です。技術は人々の暮らしを豊かにしてこそ価値がありますから」

カロンが一礼すると、ギュンターは薄く苦笑し、大広間を去っていった。


パタン……と重厚な扉が閉まり、査察隊の馬蹄の音が遠ざかっていく。


静寂が戻った広間で――


「ふ、ふはぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」


ハインリヒ侯爵はソファから転がり落ち、絨毯の上に大の字になって息を吐き出した。


「た、助かった……! 生き残ったぞォォォッ!! カロン殿、君は本当に天才だ! 帝国の特務監察官を、魔法ではなくただの『鉛の板』で完全に煙に巻いてしまうとは……!!」


「ふふ、波の性質さえ理解していれば、魔導探査など恐るるに足りませんよ」

カロンも額の汗を拭い、ようやく肩の力を抜いた。


そこへ、地下の作業を終えたセバスチャンが、極上の冷えた白ワインをトレイに載せて歩み寄ってきた。

「閣下、学長様。地下宝物庫の封鎖、完璧に完了いたしました。これで向こう百年は、何者の探査にも引っかかることはございません」


「うむ、大儀であった、セバスチャン!」

侯爵はワイングラスを掲げ、カロンとグラスを打ち鳴らした。


チン……と澄んだ音が広間に響き渡る。

帝都の冷酷な査察の嵐を、知恵と工学の力で見事に乗り切った、至福の乾杯であった。


その夜。

大学タワーの学食で、カロンが約束の「特製メガ盛り抹茶パフェ」を運ぶと、メリスはスプーンを口いっぱいに咥えて上機嫌で頬を緩ませていた。


「ん〜〜っ! 美味しい〜〜っ! ねえカロン、結局あの偉そうな黒服のおじさん、何も気づかずに帰っちゃったんでしょ? つまんないの! 石像コレクションが増えなくて残念だわ〜!」


「残念ではありません! どれだけ肝を冷やしたと思っているのですか!」

カロンがツッコミを入れると、なぜか遊びに来ていたリアリスがクスクスと笑った。


「でも、これでひとまず『中央からの横槍』は完全に打ち止めね。帝都の最高評議会も、使節団は『街道の魔力嵐で行方不明』として公式に処理するしかないわ」


「ええ。ひとまずの憂いは去りました」


カロンは窓の外を見つめた。

夜空を突くようにそびえ立つ二十階と三十階の巨塔。

新工房区の街並みには、カロンが敷設した温かな街灯がどこまでも連なり、冷房の効いた快適な部屋の中で、人々が平和な眠りについている。


中央の権力闘争や宗教の利権など、この前進し続ける工学の都にとっては、ただの些細な風音に過ぎない。


(地下の石像たちは……まあ、メリス様の言う通り、千年ほど反省してもらうとしよう)


カロンは小さく苦笑し、温かいハーブティーを口に含んだ。

波乱に満ちた数々の危機を乗り越え、ルーセンの近代化は、いよいよ誰にも止められない確固たる軌道へと乗り始めていたのである。


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