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第30章:赤玉ブドウと至高の醸造所

第30章:赤玉ブドウと至高の醸造所


町の目抜き通りをコトコトと心地よい走行音を立てて駆け抜ける路面電車の鐘の音が、夕暮れの空に響き渡っていた。開業から数日が経ち、すっかり町民の生活の足として定着した路面電車を眺めながら、カロンは自身がオーナーとなったアパートへと戻ってきた。


一階の食堂に入ると、今日も香ばしい料理の匂いと、常連客たちの陽気な笑い声が出迎えてくれた。


カロンは、強力な魔法を操り、前世の近代工学の知識で様々な魔導機械を生み出す「規格外のドワーフ」として知られている。しかし、そんなカロンには、この異世界においてもう一つ、ドワーフとしては極めて特異で珍しい特徴があった。


それは――「お酒がまったく飲めない(下戸)」という点であった。


ドワーフといえば、朝起きてから夜眠るまで樽から直接エールをあおり、度数の高い蒸留酒を水代わりに飲むのが当たり前の種族である。前世の中山教授の時代からアルコールにはめっぽう弱かったカロンは、ドワーフの屈強な肉体に転生した今でも、どうにもアルコール特有の苦味や酔いの感覚が得意ではなかったのだ。日頃食堂で口をつけていたのも、女将さんが気を使って出してくれたごく低アルコールの薄い麦汁か、冷えた果実水がほとんどだった。


カロンがいつものカウンター席に座り、夕食のシチューを味わっていた時、隣のテーブルでジョッキを傾けていた見知らぬ中年の冒険者が、赤ら顔で声をかけてきた。


「よう、あんた! 噂の大家さんで、東門の英雄のカロンの旦那だろ? どうだい、俺の奢りだ、この町の極上の一杯を一緒に飲まないか!」


男が差し出してきたのは、深いルビー色に輝く艶やかなワインのグラスだった。芳醇な果実の香りがふわりと漂う。

しかし、カロンは苦笑いを浮かべ、穏やかに手を横に振って辞退した。


「お誘いはありがたいのですが、お気持ちだけいただきます。私はどうにもお酒が苦手でしてね」


その瞬間――男は目を限界まで見開き、持っていたジョッキを取り落としそうになりながら絶叫した。


「な、なんだってえええっ!? ド、ドワーフの旦那が……酒を拒絶しただとぉ!?」


食堂内の視線が一斉に集まる。男は頭を抱え、信じられないものを見る目でカロンを凝視した。


「あり得ねえ……! 太陽が西から昇るよりあり得ねえぞ! ドワーフが酒嫌いなんて話、生まれてこの方聞いたことがねえ! しかもよ、この町の名物はあの至高の『赤玉ブドウ』で、それを使った赤ワインは王都の貴族ですら涎を垂らす絶品なんだぜ!? それを飲まねえなんて、人生の半分をドブに捨ててるようなもんだぞ!」


「赤玉ブドウ……?」


初めて耳にする単語に、カロンは首を傾げた。

発電所の建設や町中の電化、路面電車の敷設にかかりきりだったため、この町がワインの名産地であり、その原料となる特殊な果実が存在することなど露知らずにいたのだ。


「へえ、そんなに有名な果物があるのかい」

「あるのかい、どころじゃねえよ! まあ……酒が飲めねえドワーフなんざ前代未聞だが、あのワインの美味さだけは覚えておきな!」


男は呆れ半分、感嘆半分といった様子でグラスを干した。

お酒そのものには興味が湧かないカロンだったが、その特異な農作物と、それを加工する「醸造プロセス」という工学的な技術体系には、俄然として知的好奇心が刺激されるのを感じていた。


その「赤玉ブドウ」をカロンが直接目にする機会は、思いがけず翌日の昼下がりに訪れた。


冒険者ギルドから、Bランク冒険者兼職人であるカロンを名指しで一本の緊急依頼が舞い込んできたのだ。内容は、町外れを流れる川の下流――発電所からさらに数百メートル下った地点にある、中州へと渡る木製連絡橋の補修工事であった。


現場に到着すると、そこは豊かな水量を誇る本流と支流に挟まれた、広大な中州の入り口だった。

中州へ渡るための頑丈な木橋は、先日の大雨と長年の荷馬車の往来によって主桁が歪み、敷板の半分が抜け落ちて完全に通行不能になっていた。橋の袂には、収穫用の木箱を山積みにした荷車と、困り果てた表情の農夫たちが立ち往生していた。


「カロン殿、来てくださったか! この橋が渡れないと、中州の果樹園から収穫した作物を町へ運び出せなくて困り果てておったのだ!」


「事情は分かりました。すぐに渡れるようにしましょう」


カロンは作業着の袖をまくり上げ、前世の橋梁工学の知識と土木魔法を起動した。


「『ウッド・リジェネレーション』――『ストーン・アバットメント』!」


カロンが手をかざすと、腐食していた木製の主桁が一瞬で鋼鉄以上の強度を持つ強化木材へと分子結合を再生し、川底の橋脚は頑丈な花崗岩のアーチ構造へと瞬時に強化された。新しい敷板が隙間なく組み合わさり、わずか三十分足らずで、大型の荷馬車が三台同時に渡ってもビクともしない堅牢な橋へと生まれ変わった。


「す、すげえ……! あんなボロボロだった橋が、新品どころか城の跳ね橋より頑丈になっちまった!」

農夫たちが歓声を上げ、荷車を押して中州へと渡っていく。


橋の安全点検を終え、心地よい汗を拭いながら休憩を取ろうと中州の奥へ足を踏み入れたカロンは、視界に飛び込んできた光景に思わず足を止め、目を疑った。


「……な、なんだこれは……!?」


そこには、見渡す限りの広大な果樹棚が広がっていた。

しかし、棚から無数に垂れ下がっている「それ」は、カロンの知るブドウの常識を完全に破壊していた。


棚からぶら下がっている一房一房には、鮮やかな深紅に輝く丸い果実が実っていた。そして何より異様なのはその「サイズ」だった。

一粒の直径が優に五センチ以上――大人の握り拳ほどもあり、表面は滑らかでピカピカと光を反射している。


(ど、どう見てもこれは……完熟した大玉トマトではないか……!?)


前世の日本のスーパーで並んでいた最高級の完熟トマトが、なぜかブドウのように房になって木からぶら下がっている。あまりのカルチャーショックに、カロンは口をあんぐりと開けて立ち尽くしてしまった。


「おや、橋を直してくれたドワーフの親方じゃないか!」


呆然とするカロンに、麦わら帽子を被り、ハサミを手にした日焼けした農夫が気さくに声をかけてきた。


「あんたのおかげで無事に収穫した実を運び出せるよ。本当に助かった! ……どうだい、うち自慢の『赤玉ブドウ』に見惚れてたのかい?」


「あ、ああ……これが昨晩噂に聞いた赤玉ブドウですか。……失礼ながら、あまりに巨大で、私の知るブドウとは似ても似つかない姿をしていたので驚いてしまいましてね」


農夫はカラカラと快活に笑った。

「ハハハ! 他所から来た連中はみんなそう言って腰を抜かすよ! 見た目は確かにトマトみてえだが、中身は正真正銘、この町が誇る最高級のブドウさ。……ほら、喉が渇いてるだろ? 獲れたてを一粒食ってみな!」


農夫は棚から、ずっしりと重みのある深紅の果実を一粒もぎ取り、カロンへと手渡してくれた。


両手で受け取ると、皮は薄く、中にたっぷりと果汁が詰まっているのが手のひら越しに伝わってくる。カロンは恐る恐る、その巨大な赤い果実に歯を立てた。


パリッ……!


小気味よい皮の弾ける音とともに、洪水のような果汁が口いっぱいに溢れ出した。


「――っ!?」


カロンは目を見張った。

見た目は完全にトマトなのに、口の中に広がったのは濃厚極まりない甘みと、爽やかな酸味、そして高貴なマスカットのような華やかな芳香だった。


(美味い……! 食感とジューシーさは極上の大粒巨峰そのものだ! 酸味と糖度のバランスが信じられないほど高い次元で完成されている!)


「どうだい、美味いだろ?」

農夫が得意げに胸を張る。


「素晴らしい味です……! 果物としてこれほど完成されているとは。……お酒が飲めない私でも、この果汁から一体どのようにしてあの名高いワインが造られるのか、工学者として非常に興味が湧きますね」


カロンが率直な感想を伝えると、農夫は目を丸くし、嬉しそうに提案してきた。


「へえ、ワイン造りに興味があるのかい? それなら明日、俺の兄貴がやってる町の醸造所を見に来るといい! この赤玉ブドウがどうやって極上の酒に化けるか、全部見せてやるよ!」


「本当ですか? ぜひ見学させてください!」


こうしてカロンは、翌日、未知のワイン醸造所を訪れる約束を取り付けたのだった。


翌朝、カロンは町の北側、川沿いに立ち並ぶ石造りの倉庫街へと足を運んだ。

指定された重厚な木造の扉を開けると、そこにはひんやりとした冷気とともに、甘酸っぱい果実の香りと、ツンと鼻腔をくすぐるアルコールの発酵臭が立ち込めていた。


「おお、いらっしゃい! 弟から話は聞いてるよ、橋を直してくれた恩人のカロンさんだな!」


出迎えてくれたのは、昨日の農夫とよく似た顔立ちの、がっしりとした体躯の男――醸造責任者の兄、トマスであった。トマスは薄暗い醸造所の中へとカロンを快く案内してくれた。


「うちの醸造所は、代々この町で百五十年以上続いてる古い工房さ。赤玉ブドウを使ったワイン造りの工程を最初から見せてやるよ」


トマスの案内で奥へ進むと、そこでは数十人の職人たちが汗を流しながら、驚くべき光景を繰り広げていた。


「まずここが『除梗じょこう』の作業場だ」


広間の中央には、昨日中州から運び込まれたばかりの大量の赤玉ブドウが山積みにされていた。職人たちが数人がかりで、巨大な果実の房から、手作業で一本一本、丁寧にていねいに枝(果梗)を取り除いていた。


「赤玉ブドウは実がデカくて皮が薄いから、機械で乱暴に扱うと皮が破れて雑味が出ちまう。だから、こうして人の手で一粒ずつ選別しながら枝を外していくのさ」


続いて案内されたのは、人の背丈ほどもある巨大な樫の木の桶が数十個も並ぶ発酵室だった。


「選別した実を、皮と種ごとこの大桶に放り込む。そして、職人が清潔な木靴を履いて上から踏み潰し、果皮についている天然の酵母とともにじっくり発酵させるんだ」


大桶の中を覗き込むと、深紅の果皮と果汁がブツブツと音を立てて発酵し、鮮烈なルビー色の泡を立ち上らせていた。


「発酵が進んで果汁が抽出されたら、次は圧搾して果汁だけを取り出す。それを地下の冷暗所にあるオーク樽へ移し、おりを沈殿させて何度も上澄みを移し替える『澱引き』と『濾過』を繰り返すんだ。そして最後にガラス瓶に詰めて、地下の石室で数年間じっくり熟成させるのさ」


カロンは腕を組み、職人たちの流れるような作業を食い入るように見つめた。

選別、除梗、破砕、一次発酵、圧搾、清澄、樽貯蔵、瓶詰め、熟成――すべての工程が、職人の研ぎ澄まされた感覚と、気の遠くなるような手作業の積み重ねによって支えられていた。


前世の近代的なオートメーション化されたワイン工場とは異なり、ここにあるのは純粋な伝統と情熱の結晶であった。


見学を終え、地下の広大なワインセラーへと案内されたカロンは、壁一面に整然と寝かせられた何千本ものワインボトルを眺めながら、ふと気になったことを尋ねた。


「トマスさん、これだけ膨大な数のワインを熟成させているとなると、出荷先も相当な規模なのでしょうね。やはり王都の貴族や大都市がメインなのですか?」


すると、トマスは豪快に笑いながら首を横に振った。


「いやいや! もちろん王都や他領の貴族からも高値で買い取りの手が伸びるがね……実は、ここで造られる赤玉ワインの『三分の一』は、ある一つの都市へ丸ごと出荷されてるんだよ」


「ほう、三分の一も? いったいどこの大都市ですか?」


「カロンさんの故郷さ――ドワーフの鉱山都市『ガロニア』だよ!」


「……えっ!?」


カロンは思わず素っ頓狂な声を上げた。


「ガ、ガロニアへ三分の一も……!? しかしトマスさん、ガロニアは山あいの鉱山都市で、人口――いや、ドワーフの数で言えば人間の大都市の数分の一程度しかありませんよ? その規模の町が、この工房全体の三分の一ものワインを消費しているというのですか!?」


「そうなんだよ!」

トマスは面白そうに手を叩いた。


「あいつら……いや、ドワーフの旦那たちの酒の飲みっぷりは本当に化け物じみてるからな! 『仕事終わりの赤玉ワインは命の水だ!』とか言って、毎月毎月、商隊の荷馬車何十台分もの樽を空っぽにして買い占めていくんだ。ガロニアからの買い付け代金のおかげで、うちの醸造所も中州の果樹園も潤ってるようなもんさ!」


カロンは額に手を当て、深い深い溜息をついた。

脳裏に浮かぶのは、父・ガイルやバログ大親方、そして親方団の面々の豪快な笑顔である。

(……あの頑固親父どもめ。鉄を叩いて汗を流した後は、この高級ワインを樽ごとガブガブと水のように飲み干していたのか……。どれだけ底なしの胃袋と肝臓をしているんだ……)


ドワーフという種族の恐るべきアルコール許容量を再認識し、カロンは戦慄を覚えずにはいられなかった。


醸造所の見学を一通り終え、一階の作業場へと戻ってきた時、カロンの鋭い工学の観察眼が、部屋の隅に放置されたいくつかの木製機材に留まった。


そこには、手動のスクリュー式圧搾機(プレス機)と、果汁を移送するための木製手押しポンプ、そして巨大な貯蔵樽の側板が、破損した状態で無造作に転がされていた。


「トマスさん、あの機材はどうしたのですか?」


カロンが指差すと、トマスは困り果てたように眉を下げた。


「ああ、あれかい……。圧搾機の主軸の鉄ネジが長年の過負荷でバカになっちまってな。ポンプの木製ピストンも割れて水密が効かなくなっちまったんだ。修理しようにも、鍛冶ギルドの腕利きはみんな忙しくて何週間も待たされるし、新しい樽を組む職人も人手不足でね……。今期の仕込みに間に合わないんじゃないかと頭を抱えてたところさ」


その言葉を聞いた瞬間、カロンの職人魂が静かに燃え上がった。

美味しい赤玉ブドウを味見させてもらい、貴重な伝統の醸造工程を惜しみなく見せてもらった恩義がある。何より、壊れた機械を目の前にして放置することなど、元工学教授としてのプライドが許さなかった。


「トマスさん。素晴らしい見学のお礼に、私がそれらの機材を今すぐ直して差し上げましょう」


「えっ!? カロンさんが? しかし、鍛冶仕事と木工の専門技術が必要だぞ……?」


「ふふ、ドワーフのクラフト技術と工学を舐めてもらっては困りますよ。少し下がっていてください」


カロンは作業着の袖をまくり上げ、破損した機材の前に立ち、両手をかざした。


「『マテリアル・アナリシス』――『トランスミュート・フォージ&リペア』!」


カロンの手から放たれた眩い青白の魔導光が、鉄のスクリュー軸と木製機材を包み込んだ。


ガタガタと悲鳴を上げていた圧搾機の鉄ネジは、分子配列が再結晶化され、摩耗したネジ山が寸分の狂いもなく新品以上の滑らかさと超高剛性を取り戻していく。

割れていた手押しポンプの木製ピストンは、耐水・耐酸コーティングを施された強化木材へと瞬時に再生し、シリンダーとの隙間を完全に塞ぐ精密ゴムパッキンが魔法で生成・装着された。

さらに、バラバラになりかけていた巨大な貯蔵樽の側板は、隙間なくピタリと噛み合い、真鍮製の頑丈なタガがガッチリと締め直された。


作業開始からわずか十五分。

粗大ゴミ同然だった機材の数々が、まるで高級工房の店頭に並ぶ特注品のようにピカピカに生まれ変わっていた。


「よ、よし……修理完了です。試してみてください」


カロンが声をかけると、トマスと周囲の職人たちは口をあんぐりと開けたまま固まっていた。

トマスは恐る恐る歩み寄り、圧搾機のハンドルに手をかけて回してみた。


スルスルスル……!


「な……なんという軽さだ……! 片手で回るぞ!? 以前より遥かに滑らかで、ビクともしねえ!」


さらに手押しポンプのレバーを上下させると、シュポシュポと完璧な気密の音を立てて強烈な吸引力が発揮された。


「す、すげえええっ……! 新品以上だ! これなら今年の仕込みも過去最高の効率で回せるぞ!」


トマスは感極まり、カロンの両手を強く握りしめて何度も何度も頭を下げた。


「カロンさん……! あんたは神様だ! 橋を直してくれただけでなく、うちの醸造所の命まで救ってくれるとは……! 本当に、本当にありがとう!」


「喜んでいただけて何よりです。素晴らしいワインをこれからも造り続けてくださいね」


職人たちの割れんばかりの拍手と歓声に見送られ、カロンは温かい達成感を胸に醸造所を後にした。


醸造所を出る頃には、空は柔らかな夕暮れの茜色に染まり始めていた。

中央通りの軌道の上を、ガタゴトと軽快な音を立てて路面電車が走り抜けていく。車内から手を振る町民たちに軽く手を振り返しながら、カロンは西区のメリス教会へと向かった。


白亜の教会の新教室では、今日もカイとミミル、孤児たち、そして貧困区の子供たちが待っていた。

カロンは教壇に立ち、いつものように算術と文字の講義を行い、子供たちの笑顔と知的好奇心に触れて心を和ませた。


授業を終え、夜の帳が下りた町を歩いてアパートへと戻る。

一階の食堂に入ると、女将さんが満面の笑顔で出迎えてくれた。


「おかえりなさい、大家さん! 今日も一日お疲れ様!」


カウンター席に腰を下ろし、冷たい果実水で喉を潤す。運ばれてきたのは、リノベーションされたかまどでじっくり焼き上げられた香ばしいチキンソテーと、温かい野菜スープだった。


お酒は飲めずとも、美味しい料理と清らかな水、そして温かい人々の笑顔があれば、それだけで人生は十分に満ち足りている。


(……赤玉ブドウのワインか。自分は飲めないが、ガロニアの親父たちがあれほど愛している理由が、あの素晴らしいブドウと職人たちの手仕事を見て少し分かった気がするな)


カロンは静かに微笑みながら、絶品の夕食を綺麗に平らげた。


二階の自室へ戻り、蛇口を捻って自慢の電気温水器から完璧な四十一・五度のお湯を湯船に張る。

湯気に包まれながら肩まで浸かると、今日一日の心地よい疲れがじんわりとお湯の中に溶けていった。


未知の作物の発見、伝統の職人技との出会い、そして工学による恩返し。

充実した一日の余韻に浸りながら、カロンは至福のため息を漏らし、穏やかな夜の静寂の中へと深く沈んでいった。

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