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第19章:小さな冒険者との出会い

第19章:小さな冒険者との出会い


朝の澄んだ空気の中、町外れに位置する水力発電所の建設現場へ足を運ぶと、資材の搬入や水路の基礎工事は驚くほど順調に進んでおり、これまでのカロンの作業による掘削と整地が、理由だった。


現場の様子を一通り見回し、今日の作業予定を確認しようとしたその時、不意に背後から視線を感じた。

振り返ると、資材置き場の影から二人の少年少女が、緊張と期待の入り混じった眼差しでこちらをじっと見つめていた。


一人は、体に合っていない簡易的な革鎧を身につけ、腰に小ぶりなショートソードを下げた茶髪の少年。もう一人は、丈の長い青みがかった薄手のローブを羽織り、小さな木製の杖を胸の前でぎゅっと握りしめた金髪の少女だった。どちらも十代前半、まだ幼さの残る顔立ちで、一目で駆け出しの冒険者だと分かる風貌をしている。


カロンが立ち止まって視線を向けると、少年が意を決したように駆け寄ってきた。


「あ、あの! 昨日のあの魔法、すっげーかっこよかった! あんな一瞬で地面を削って石を積み上げるなんて初めて見たよ! ……お願いだ、俺たちと仲間になってくれないか!?」


少年は勢い余って前のめりになりながら叫んだ。後ろから小走りでついてきた少女も、息を切らしながらぺこりと頭を下げる。


「突然すみません……。私、ミミルっていいます。こっちは兄のカイです」

「おう、カイだ! なああんた、ドワーフなのにあんなに魔法が使えるなんてすごいよ。頼むから俺たちと一緒に冒険に出て、ミミルに魔法を教えてやってくれないか?」


カイと名乗った少年は、必死な形相でカロンの手を握らんばかりに迫ってきた。

カロンは唐突な申し出に目を丸くしつつ、落ち着かせるように片手を軽く挙げた。


「ちょっと待ちなさい。魔法を教えてほしい、と言われてもな……。この世界じゃ、魔法ってのは人に手取り足取り教わって身につけるものじゃなくて、魔物と戦って経験を積み、レベルが上がった時に自然と体が覚えて使えるようになるものじゃないのか?」


カロンの指摘に、カイはあっけにとられたように目を瞬かせ、頭をポリポリと掻いた。


「あ……そっか。言われてみればギルドの受付のお姉さんもそんなこと言ってたっけ……。魔導士の本を読めばすぐ覚えられるわけじゃないんだよな……」


ミミルも申し訳なさそうに眉を下げ、「ごめんなさい、私たちが無知で……」と小さく縮こまる。しかし、カイはすぐに気を取り直したように瞳を輝かせ、再び食い下がってきた。


「じゃあさ、やっぱり仲間になってくれよ! 強いあんたが一緒にいてくれれば、安全にどんどん魔物を倒して、ミミルのレベルを早く上げられるだろ? 頼むよ、どうしても早くレベルを上げなきゃいけないんだ!」


少年の言葉には、単なる功名心や冒険への憧れだけではない、切羽詰まった響きがあった。

なぜそこまでして急いで魔法を覚えたいのか、疑問が頭をよぎる。しかし、現場の工事はカロンが付きっきりでなくても問題なく進行する段階に入っており、午前中から昼過ぎにかけては手が空く状態だった。何より、必死な眼差しで自分を見上げる幼い兄妹を無下にして追い払う気にはなれなかった。


「……分かった。現場の仕事も一段落しているし、昼過ぎまでなら付き合ってやろう。ただし、無茶は禁物だぞ」

「本当か!? やったー! ありがとう、おっちゃん……じゃなくて、えっと、カロンさん!」

「ありがとうございます、カロン様!」


パッと顔を明るくした二人に、カロンは苦笑しながら頷いた。

詳しく話を聞くと、カイは前衛の戦士、ミミルはまだ初級の『ヒール』しか使えない見習いの回復魔導士だという。二人だけで町を出て戦うにはあまりに心許ない戦力だった。


三人は装備を整え、町の東門を抜けた。

門の外に広がる草原を抜け、澄んだせせらぎの音を立てる川を浅瀬から渡ると、低ランク冒険者の狩場として知られる平野沿いの雑木林が見えてくる。緑豊かな木々が生い茂るこの森の浅い階層には、初心者向けの獲物であるゴブリンが群れを作って生息していた。


「よし、行くぞ! ミミル、俺の後ろから離れるなよ!」


カイは意気揚々と腰の小型剣を抜き、草むらをかき分けて進んでいく。

森に入ってすぐに、耳障りな甲高い鳴き声とともに、薄汚れた緑色の肌をしたゴブリンが姿を現した。


「ギギッ! ギャッ!」


カイは踏み込み、小柄な体を目一杯に使って剣を振るった。

粗削りながらも必死な太刀筋は的確にゴブリンの肩口を捉え、よろめいたところへ追撃の一撃を叩き込んで仕留める。


「ふぅ……一匹撃破! どうだカロンさん、俺だって結構やれるだろ!」


得意げに振り返るカイだったが、その油断を突くように、周囲の茂みが激しく揺れた。


ガサガサと音を立てて飛び出してきたのは、なんと五体ものゴブリンだった。一匹ずつなら初心者でも対処できるが、五体同時の包囲は駆け出しにとって致命的な危機である。さらに厄介なことに、後方に控える一体はボロボロのローブをまとい、先端に濁った魔石のついた粗末な杖を握りしめていた。


「ギギャギャッ!」


ローブを着たゴブリンの魔導士が杖を掲げると、その先端に揺らめく火の玉が灯った。狙いは前衛のカイを飛び越え、無防備な後方に立つミミルへと向けられている。


「えっ……嘘……!?」


恐怖に足をすくませ、動けなくなるミミル。


「ミミル、逃げろッ!」


カイが叫んで駆け戻ろうとするが、前衛の三体のゴブリンが棍棒を振り上げて行く手を阻む。火球はミミルめがけて一直線に放たれた。


「――慌てるな」


静かな声とともに、カロンが一歩前に出た。

右手をすっと前方に差し出し、魔力を解放する。


「『ウォータースプレー』!」


カロンの手のひらから、圧縮された高圧の水流が扇状に勢いよく噴射された。激しい水煙を上げながら飛来したファイアーボールと正面から激突する。火球は轟音とともに一瞬でかき消され、蒸気となって白く霧散した。


「す、すごい……!」


ミミルが息を呑む間もなく、カロンは間髪を入れずに杖代わりの指先をゴブリンの魔導士へ向けた。


「返す刀だ――『サンダーボルト』!」


空気がバチバチと激しく震え、目も眩むような青白い電撃がカロンの手元から一直線に放たれた。雷光は凄まじい速度で空間を裂き、ゴブリン魔導士の胸元を正確に貫いた。


ドォンッ!


雷撃の余波はそれだけに留まらず、周囲に広がっていた高圧水流の水分を伝って拡散し、前衛でカイを取り囲んでいた残りの四体のゴブリンたちをも一瞬で巻き込んだ。青白い火花が連鎖し、五体のゴブリンは悲鳴を上げる間もなく一斉に黒焦げとなって倒れ伏した。


森の中に、パチパチと弾ける放電の余韻と、立ち込める煙だけが漂う。

カイとミミルは口をあんぐりと開けたまま、完全に固まっていた。


「……二人とも、怪我はないか?」


カロンが何事もなかったかのように振り返ると、二人の体がふわりと淡い光に包まれた。


「うわっ……これ、レベルが上がった時の光だ!」

「私も……! 魔力が体に満ちていくのが分かります!」


二人は自分たちの手を見つめ、跳び上がって喜んだ。高レベルの魔導士ゴブリンを倒した経験値が一気に流れ込んできたのだ。


「カロンさん、あんたマジで半端ねえな! 一撃で全部倒しちまうなんて……!」


カイが興奮冷めやらぬ様子で駆け寄ってくる。カロンは「油断して敵に囲まれるなよ」と軽く窘めつつ、探索を続行させた。


その後も森の奥へと進み、順調にゴブリンの群れを掃討していった。カイの剣技も徐々に冴えを見せ、ミミルも後方からの支援の立ち回りを覚え始めていた。

しかし、森の開けた広場に出たところで、突如として地響きのような重い足音が響き渡った。


「グオォォォッ!」


木立をへし折りながら姿を現したのは、巨大な豚の頭を持つ筋骨隆々の魔物――オークだった。ゴブリンとは比べ物にならない威圧感と巨躯を誇り、手には大木を削り出した巨大な棍棒を握っている。


「オ、オークだ……! この森の浅い場所に出るなんて……!」


カイが思わず後ずさりする。駆け出しの戦士が単独で挑んで勝てる相手ではない。レベルの差は歴然だった。

オークは充血した目をぎらつかせ、カイめがけて棍棒を豪快に振り下ろしてきた。


「下がっていろ!」


カロンはカイの肩を掴んで後方へ引き戻すと同時に、風の魔力を素早く練り上げた。


「『ウインドカッター』!」


鋭利な三日月状の風の刃が幾重にも放たれ、空気を切り裂いてオークの巨体へと着弾した。硬い皮膚と分厚い筋肉は紙のように両断され、オークは棍棒を振り下ろす間もなく、轟音とともに地面へと崩れ落ちて絶命した。


静寂が戻った広場で、カイは腰を抜かしかけながらオークの巨体を見つめていた。


「す、すげえ……オークを一瞬で……。カロンさん、ドワーフの魔導士ってだけでも珍しいのに、ここまで強いなんて本当に何者なんだよ……!」

「まあ、色々あってな。それより、このオークはどうする? 素材や肉は持ち帰るか?」

「えっ!? も、もちろん持って帰りたいけど……こんなでかいの、俺たちじゃ担いで運べないよ」


カイが悔しそうに言うと、カロンは「それなら心配いらない」と微笑み、オークの巨体に手をかざした。固有能力である空間収納を発動させると、巨大なオークの死骸は煙のようにスッと空間の裂け目へと消え去った。


「うわああああっ!? 消えた!? アイテムボックスまで持ってるのかよ!?」


目を真ん丸にして驚愕するカイと、手を叩いて感嘆するミミル。

二人の賑やかな反応に苦笑しながら、カロンは空を見上げた。木漏れ日の角度からして、そろそろ昼を過ぎた頃合いだった。


ステータスを確認させたところ、この数時間の討伐でカイは一気にレベルが4上がり、ミミルも3レベル上昇していた。短時間としては破格の成長速度である。


「よし、そろそろ引き上げよう。あまり遅くなると現場や次の予定に響くからな」

「うん! 大収穫だ、町に戻ろう!」


三人は森を後にし、意気揚々と町へと戻った。


町に入ると、カイの案内で賑やかな市場の一角にある肉屋へ向かった。

店主に声をかけ、カロンが空間収納から新鮮なオークの死骸を取り出して見せると、店主は驚きつつも上質な肉だと大喜びし、その場で銀貨と銅貨が詰まったずっしりと重い革袋を買い取り代金として差し出してくれた。


店を出た後、カロンはその革袋をそのままカイへ差し出した。


「ほら、受け取りなさい。今日の稼ぎだ」

「えっ!? いやいや、ダメだよ! オークを倒したのも運んだのも全部カロンさんだろ? 俺たちなんも役に立ってないのに、全部もらうわけにはいかないよ!」

「そうですよ、カロン様! 私たちは助けてもらっただけで……」


二人が頑なに受け取りを拒否するため、カロンは少し考え、革袋から半分を抜き取って自分の懐に収めた。


「それなら、半分ずつにしよう。オークを見つけたのはお前たちのおかげだし、パーティーを組んだ以上は山分けが基本だ。これで文句はないだろう?」


カロンの提案に、カイとミミルは顔を見合わせ、恐縮しながらも残りの半分を受け取った。


「……ありがとう、カロンさん。本当に助かるよ」


カイは受け取った硬貨を大切そうに握りしめ、何かを決意したようにミミルと視線を交わした。ミミルが小さく頷くと、カロンに向き直って口を開いた。


「あの……カロン様。もしお時間があれば、私たちの家に来ていただけませんか? 大したものは何もないのですが……今日の助けていただいたお礼に、どうしてもお渡ししたいものがあるんです」


少女の真摯な眼差しに断る理由はなく、カロンは「それじゃあ、少しだけお邪魔させてもらおうか」と快諾した。


案内されたのは、町の外れにある貧民街に近い裏路地だった。

立ち並ぶ粗末な長屋の奥、一際小さく古びた木造の小屋の前でカイが足を止める。軋む扉を開けて中に入ると、家具もほとんどない薄暗い一室の奥に、質素な藁のベッドが置かれていた。


そこには、一人の女性が浅い呼吸を繰り返しながら横たわっていた。顔色は青白く、額には脂汗が浮かんでいる。


「母さん、ただいま。今、戻ったよ」


ミミルが駆け寄り、弱々しく目を開けた女性の手を握る。

カロンが察して問いかけると、カイが絞り出すような声で事情を話してくれた。


「……母さんは少し前から原因不明の熱病にかかってて、日に日に弱ってるんだ。普通の薬じゃ効かなくて、教会で解毒や病気治療の魔法を頼もうとしたけど、高額な寄付金が必要で俺たちには払えなくて……。だから、ミミルが経験を積んで『キュアポイズン』を覚えれば、母さんを助けられるんじゃないかって……」


少年ががむしゃらに魔法やレベルアップにこだわっていた理由が、ようやく腑に落ちた。二人は病に倒れた母親を救うため、危険を冒して冒険者になり、必死に戦っていたのだ。


「カロンさん、今日ミミルのレベルが上がって、さっきステータスを見たら念願の『キュアポイズン』を覚えてたんだ! だから……母さんを治せるはずなんだ!」


ミミルは胸元から木製の杖を構え、震える手で母親の胸元に掲げた。


「『キュアポイズン』……っ!」


淡い緑色の光が杖先から放たれ、母親の体を優しく包み込んだ。

しかし、光が収まった後も、母親の苦しげな呼吸は治まらず、青白い顔色に変化は見られなかった。


「えっ……? うそ……どうして!? 『キュアポイズン』! お願い、治って……『キュアポイズン』!」


ミミルは何度も必死に魔法を唱えたが、魔力が尽きかけ、肩を落としてその場に泣き崩れてしまった。


「うそだろ……覚えたばっかりのレベル1の魔法じゃ、母さんの重い病気には効かないのか……!?」


絶望に打ちひしがれ、カイが拳を床に叩きつける。

その背中に、カロンは静かに歩み寄った。


「どきなさい。私がやってみる」

「え……? カロンさん、回復魔法も使えるのか……!?」


カロンは母親の枕元に膝をつき、状態を観察した。体内に巡る毒素と病魔の淀みを魔力探知で捉える。確かに、覚えたての低レベルな解毒魔法で解呪できる域を超えていた。


カロンは右手を母親の胸元にかざし、体内深くまで浸透させるように魔力を強く凝縮させた。


「『キュアポイズン・レベル3』」


カロンの手のひらから、ミミルのものとは比べ物にならないほど濃密で眩いエメラルドグリーンの光が溢れ出した。光は波紋のように母親の全身をくまなく巡り、体内に巣食っていた黒ずんだ病魔の気配を根こそぎ浄化していく。


光が収まると、母親の呼吸はすっと穏やかなものに変わり、青白かった頬にほんのりと健康的な赤みが差した。


「……ん……っ……」


母親がゆっくりと、しっかりと目を開けた。


「母さん……! 母さん!!」

「カイ……ミミル……? 私……体が、すごく軽いわ……痛みが消えている……」


兄妹は母親に抱きつき、大粒の涙を流して泣きじゃくった。母親は事態を飲み込むと、涙を拭いながらベッドの上で深く頭を下げた。


「あなたが……助けてくださったのですね。本当に、なんとお礼を申し上げたらよいか……」

「気にしないでください。子供たちの必死な思いが通じたんですよ」


カロンが穏やかに微笑むと、窓の外から夕暮れの鐘の音が響いてきた。空はいつの間にか茜色に染まり始めている。


「おっと、いけない! もうこんな時間か。孤児院の子供たちとの約束に遅れてしまう!」


カロンが慌てて立ち上がると、涙を拭ったカイとミミルが勢いよく立ち上がった。


「カロンさん、どこ行くの!? 俺たちも行く!」

「え? いや、私はこれからメリス教の教会へ行って、身寄りのない子供たちに読み書きや計算を教える約束があるんだ。二人はお母さんのそばにいてあげなさい」


しかし、母親が優しく微笑みながら口を添えた。


「カロン様、どうか二人を連れて行ってやってください。この子たち、すっかりあなたのことが大好きになってしまったようですから……恩返しのお手伝いでもさせてやってくださいな」


母親に背中を押され、カイとミミルは満面の笑みで「行こう!」とカロンの腕を引いた。


三人は夕暮れの路地を駆け足で抜け、町の中心部にあるメリス教の教会へと向かった。

礼拝堂の裏手にある小さな教室に駆け込むと、すでに十数人の孤児たちが机を並べて今か今かと待ち構えていた。


「あ、カロン先生が来たー!」

「先生、遅いよー!」


子供たちが一斉に笑顔で迎えてくれる。カロンは息を整えながら、「すまない、少し野暮用があってね。さあ、今日も勉強を始めよう」と教壇に立った。


教室の後ろの席には、カイとミミルがちょこんと腰掛けていた。

カロンが黒板に文字や数字を書き、分かりやすく教え始めると、孤児たちだけでなくカイとミミルも真剣な表情で耳を傾け、熱心にノートを取る真似をしていた。二人の年齢でも、満足に教育を受けられる環境にはなかったのだ。


カロンの丁寧でユーモアを交えた授業はあっという間に過ぎ、鐘の音が授業の終わりを告げた。


「カロン先生、今日もありがとうございました!」


子供たちが元気よく挨拶をして教室を出ていく中、カイとミミルがカロンの元へ歩み寄ってきた。


「カロンさん……ううん、カロン先生! すっげー分かりやすかったよ! 俺たち、今まで文字も計算もろくに習ったことなくて……」

「カロン様、もしよろしければ……私たちも今度から、この授業を一緒に受けさせてもらえませんか?」


目を輝かせる二人の真摯な申し出に、カロンは快く頷いた。


「もちろん大歓迎だ。勉強は何歳から始めても遅すぎることはないからな。次からは前の席でしっかり聞きなさい」

「やったー! 約束だからな、先生!」


教会を出たところで、カイとミミルは名残惜しそうに何度も手を振りながら、母親の待つ家へと走って帰っていった。


一人になったカロンは、心地よい疲労感を感じながら夕暮れの町を歩き、いつものアパートへと戻った。

一階に併設された馴染みの食堂の扉を開けると、香ばしい肉の焼ける匂いと活気ある話し声が出迎えてくれる。カウンター席に座り、日替わりの煮込み料理と焼きたてのパン、それに冷えたエールを注文した。


温かい料理を胃に流し込みながら、今日一日の出来事を振り返る。

発電所の工事は順調に進み、無鉄砲な兄妹と出会い、森で魔物を討伐して、母親の病気を治すことができた。そして教会での子供たちへの授業。慌ただしくも、誰かの役に立つことができた充実した一日だった。


食事を終えて勘定を済ませると、カロンは階段を上がって自室へと戻った。

静まり返った部屋でランプに火を灯し、明日の予定を軽く確認する。発電所のタービン設置の準備と、夕方の教会の授業。やるべきことはまだまだ山積みだったが、不思議と心は軽かった。


寝台に体を横たえると、程よい疲れが心地よい眠気を連れてくる。カロンは静かに目を閉じ、穏やかな夜の静寂の中で一日を終えた。


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