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空間次元の刻印  作者: Terracot


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その子供には傷跡がない

4:傷跡のない子供

その子供は、扉の外へ完全には出てこなかった。

ただ、闇と逆さまの都市との境界に立っていた。

片方の足は青い石の地面に置かれ、もう片方の足は背後の虚空へ沈んでいる。

空に吊るされた建物から降り注ぐ光が、その顔を冷たい光と影に染めていた。

ケイルは、自分自身を見た。

同じ顔という意味ではない。

それは、何も問いすぎないことを覚える前の――かつての自分の顔だった。

子供の琥珀色の瞳は澄み切っていた。

異なる次元から聞こえてくる声に疲れ果てる前の瞳。

髪は乱れ、服には光の塵が付いている。

左手首には、傷一つなかった。

ただ、何の傷もない皮膚だけがあった。

「兄さんが、僕の一部を連れ戻してくれたんだね」

その声を聞いた瞬間、ケイルの胸が鋭く痛んだ。

思い出したからではない。

身体のほうが、頭より先に覚えていたからだ。

ミラが一歩前へ出て、ケイルと子供の間に立った。

「扉を閉めて」

彼女は言った。

子供はミラを見る。

唇に浮かんでいた笑みが消えた。

「姉さんは、いつもそう言うね」

ミラはナイフを強く握り締めた。

ケイルには、彼女の心臓が乱れた鼓動を刻んでいるのが聞こえた。

脇腹の傷のせいで、呼吸は短く浅い。

だが、恐怖の原因はその痛みではなかった。

恐れているのは――あの子供だ。

「あなたは、ここにいてはいけない」

ミラが言う。

「僕は、姉さんよりずっと長くここにいるよ」

「ケイル、下がって」

「君は、あの子を知っているのか?」

「聞かないで」

ケイルはミラの肩越しに子供を見た。

子供は首を傾げた。

その仕草は、あまりにも多くの音の中から一つの音を聞き分けようとするときの、ケイル自身の癖とまったく同じだった。

「まだ聞こえる?」

子供が尋ねる。

ケイルは答えなかった。

「眠っている人たちの声。死んだ人たちの声。そして、飢えている都市の声」

子供は自分の胸に手を当てた。

「それから――兄さんの中にいる僕の声」

そのとき、背後から追跡者の咆哮が響いた。

槍はすでに拾い上げられていた。

槍先の金属片が赤く輝き、周囲の霧が焼けた皮膚のように縮み上がる。

「副対象を確認」

追跡者が言った。

「命令を変更する。両名を回収する」

ミラが振り返った。

「お前は、誰から命令を受けている?」

追跡者は沈黙した。

ケイルには、装甲の内側にある本物の心臓が、強く鼓動しているのが聞こえた。

一つ。

二つ。

三つ。

――こいつは、答えを恐れている。

子供が、さらに一歩前へ出た。

その踵が石の地面に触れた瞬間――都市全体が動いた。

空中に吊るされた道が、すべて同じ方向へ回転する。

雲の間に浮かんでいた列車が停止した。

そして、無数の窓の向こうにいた何千もの人影が、一斉にガラスへ顔を押しつけた。

誰も追跡者を見ていない。

全員が、子供を見ていた。

ケイルには、建物の中を広がっていく囁きが聞こえた。

「空っぽの部分」

「器」

「置き去りにされた子供」

子供は振り返らなかった。

ただ、ケイルだけを見つめていた。

「約束、覚えてる?」

その瞬間、ケイルのこめかみを激痛が貫いた。

見えた。

円形の部屋。

床に沿って走る青い光の線。

十歳の少年が、その中央にある金属の輪の中に座っている。

ミラがガラスを叩いている。

その後ろにはセランが立っていた。

両手は操作盤の上に置かれている。

少年の向かいには――もう一人の子供がいた。

それも、ケイルだった。

だが、その身体は透き通っていた。

その内部には、赤い光の糸が無数に走っている。

十歳の少年がガラスに手を当てる。

「僕が、君を家に連れて帰る」

その直後、背後から声が響いた。

「二人とも帰すことはできない」

ケイルが瞬きをする。

部屋が消えた。

目の前にはミラがいた。

「今、何を聞いたの?」

「その質問は、本来俺が君にするべきだ」

「ケイル……」

「俺たちは二人いた」

ミラは否定しなかった。

今度の沈黙は、何かを隠している人間のものではなかった。

長い間、決して直すことのできないものを見つめ続けてきた人間の沈黙だった。

子供が言った。

「姉さんは、兄さんを選んだんだ」

ケイルが振り向く。

「何を選んだ?」

「生きる人を」

ミラが一歩近づいた。

だが、ケイルは手を上げて彼女を止めた。

「君は、俺を選んだのか?」

「違う」

「じゃあ、あいつが嘘をついているのか?」

「そういう意味じゃない」

その答えを聞いて、ケイルは乾いた笑いを漏らした。

「君はいつもそうだ。真実を話したくないときは、別の言い方をする」

その瞬間――追跡者が突然、飛びかかった。

槍の穂先が霧を切り裂き、子供へ一直線に迫る。

ミラが身を翻して受け止めようとした。

だが、ケイルには相手の動きが彼女より先に聞こえていた。

ケイルはミラの肩を掴み、横へ引き寄せる。

そして左腕で槍の穂先を受け止めた。

赤い金属が服を貫いた。

だが――血は流れなかった。

ケイルの左手首にある傷跡が開いた。

槍の穂先が、小さな口のような暗闇へ吸い込まれていく。

追跡者が力任せに槍を引く。

しかし、槍はびくともしない。

子供はケイルのすぐ後ろに立っていた。

「兄さんは、まだ僕を守ってくれるんだね」

「黙れ」

「前にも、そう言ったよ」

ケイルは身体をひねり、追跡者の仮面を拳で殴りつけた。

装甲に亀裂が走る。

その隙間から、人間の目が覗いた。

琥珀色の目。

ケイルは動きを止めた。

追跡者は膝をケイルの腹へ叩き込んだ。

ケイルの身体が弾き飛ばされ、石の地面を滑っていく。

ミラが駆け寄る。

そして、ひび割れた装甲へナイフを突き刺した。

今度は刃が装甲を貫いた。

追跡者が膝をつく。

しかし、金属の手がミラの首を掴み、彼女を地面から持ち上げた。

ケイルには聞こえた。

ミラの肋骨が、再び折れる音が。

ケイルは立ち上がった。

速くはない。

強くなったわけでもない。

ただ――静かだった。

頭の中で、都市が叫んでいる。

一つ一つの窓が口。

一つ一つの道が血管。

石の下では、何千もの心臓が一つの命令を待っている。

ケイルは左手を地面につけた。

「彼女を放せ」

追跡者がケイルを見る。

「権限が存在しない」

「権限なんて聞いてない」

傷跡が広がった。

その瞬間――都市全体がケイルの声を聞いた。

建物が震える。

高架の線路がねじ曲がる。

空中の列車が雲から落下する。

だが、地面へ激突する直前――列車は空中で停止した。

まるで、見えない巨大な手に掴まれたかのように。

追跡者がミラを放した。

彼女の身体が落下する。

子供が駆け寄った。

小さな身体には到底できないはずの力で、ミラを支える。

しかし、彼女の身体は地面に触れなかった。

青い光が二人を包み込み、空中へ持ち上げていた。

ケイルは子供を見た。

子供は泣いていた。

赤い涙が頬を伝っている。

「都市を使っちゃだめだよ」

子供が言った。

「都市は兄さんの言うことを聞く。でも、言うことを聞くたびに――兄さんの記憶を一つずつ奪っていく」

ケイルは、自分の頭の中を探った。

何かが欠けている。

一つの音。

――母親が自分の名前を呼ぶ声。

もう、思い出せない。

ケイルは子供へ歩み寄った。

「お前は……何なんだ?」

子供が顔を上げる。

「僕は、兄さんが帰るために置いていったもの」

「じゃあ、どうしてお前には傷跡がない?」

「傷跡は、傷ついた証じゃないよ」

子供はケイルの手首を見た。

「それは――鍵なんだ」

その瞬間、都市の下から何かを叩く音が響いた。

コツ。

ミラが目を開いた。

「ケイル、逃げて!」

「何から逃げる?」

彼女は子供を見た。

そして、建物に開いた赤い目を見上げた。

「あなた自身から」

地面が、再び割れた。

だが、今度はその下に深淵はなかった。

闇の中から、巨大な手が這い出してきた。

その指には、無数の赤い光の線が走っている。

そして、その掌には――一つの目があった。

ゆっくりと、目が開く。

追跡者が後退した。

そして初めて――奴は跪いた。

「造形者が目覚めた」

子供がケイルの手を握った。

その手は、子供のものとは思えないほど冷たかった。

「兄さん……もう一度、選ばなきゃ」

「何を?」

「今度こそ、正しい人を」

巨大な手の掌にある目が、ケイルをまっすぐ見つめた。

そして、すべての異空間から同時に声が響き渡った。

「器が帰還した」

「欠けた魂の一部が目覚めた」

「融合を開始せよ」

ケイルの手首にある傷跡が、ゆっくりと閉じ始めた。

子供の身体が、巨大な手へ引き寄せられていく。

ミラが立ち上がろうとした。

しかし、足に力が入らず、その場に崩れ落ちる。

ケイルは子供の手を掴んだ。

巨大な力が子供を引きずり込もうとする。

赤い光がケイルの手首で燃え上がる。

皮膚が裂ける。

それでも――ケイルは手を放さなかった。

「ケイル!」

ミラが叫んだ。

「それを引き戻したら、失った記憶まで一緒に戻ってくる!」

「それが望みだ」

「あなたが何をしたのか、全部思い出すことになるのよ!」

「それも――俺が望んでる!」

ケイルは両手で子供を掴んだ。

二人の身体が触れた瞬間――

ケイルは、十歳の少年の泣き声を聞いた。

ミラがガラスを叩く音を聞いた。

セランが「方法は一つしかない」と告げる声を聞いた。

そして――自分自身の叫び声を聞いた。

「先に、この子を帰して!」

ケイルの目が見開かれた。

思い出した。

あの機械に入ったのは――自分ではなかった。

あの子供だった。

ケイルは、自らこちら側に残った。

あの子が融合されるのを防ぐために。

ミラはケイルを引き戻した。

セランは嘘をついた。

皆に、ケイルだけが帰ってきたと思わせた。

そして――目の前にいるこの子は、置き去りにされた「一部」なんかではない。

十年間、ケイルを待ち続けていた――一人の人間だった。

「……思い出した」

ケイルが呟いた。

子供はケイルを見上げる。

赤い涙は、まだ頬を伝っていた。

「じゃあ……僕を家に連れて帰ってくれる?」

ケイルは巨大な手を見た。

自分たちを飲み込もうとしている都市を見た。

そして、こちらへ這うように近づいてくるミラを見た。

「いや」

子供が目を見開いた。

ケイルは子供を強く胸に抱き寄せた。

「家なんて呼ばれる場所へ連れて帰るんじゃない」

「……え?」

「俺たち自身で決められる場所へ連れていく」

その瞬間――ケイルの手首にある傷跡が、砕け散った。

巨大な音が都市全体を揺らした。

窓という窓が一斉に光る。

高架を走っていた列車が、無数の破片へと引き裂かれる。

巨大な赤い手が、闇の中へ引きずり込まれていく。

子供の背後にあった扉が――消えた。

その跡に残された空白から、新しい道が開いた。

その道は、都市の下へ続いている。

そこでは――何千もの心臓が、一つの鼓動に合わせて脈打っていた。

追跡者が立ち上がる。

そして、敵意の消えた目でケイルを見つめた。

「お前は……鍵を壊した」

ケイルは子供を抱いたまま答えた。

「なら、奴らは俺たちを探すだろうな」

「違う」

男は、新しく開いた道を見下ろした。

「奴らは、もうお前の居場所を知っている」

そのとき――

地下深くから、別の子供の声が響いた。

「お兄ちゃん……」

ケイルの腕の中にいる子供が、顔を上げる。

初めて――その顔に、はっきりとした恐怖が浮かんだ。

「……一人だけじゃない」

ケイルは、黒い道の先を見つめた。

地下から、叩く音が響き始める。

コツ。

コツ。

コツ。

そして――

何百もの声が、同時に響き渡った。

「ケイル……」

「兄さん、約束したよね」

「僕たち全員を――」

「家に連れて帰ってくれるって」

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