戻ってきた人
2:かつて帰還した者
ケイルは答えなかった。
彼は門の前に立ったまま、先ほど頭の中に響いた声に耳を澄ませていた。
周囲では、群衆が混乱していた。慌ただしい足音、人々の叫び声、そして高まっていくエネルギーによって震える石柱の音。
しかし、そのすべての音の中で、ケイルは一つの奇妙なことに気づいた。
門は完全に静かだった。
風の音すらしない。
金属がぶつかる音もない。
動いているエネルギーの音さえ聞こえない。
彼に聞こえる唯一の音は、自分自身の心臓の鼓動だった。
コツン。
コツン。
コツン。
そのとき、左手首の傷跡が突然熱くなった。
ケイルは袖を下ろしたが、もう遅かった。
弧を描く傷跡に沿って青い光の線が走り、指先まで広がっていく。
門の向こう側では、巨大な赤い目が瞬きもせず彼を見つめていた。
「お前はまだ、奴らの刻印を持っている」
今度は、その声はケイルの頭の中から響いたのではなかった。
あらゆる場所から聞こえてきた。
石柱から。
地面から。
怯えている人々の胸の中から。
ケイルには、何百もの異なる声色で、同じ言葉が繰り返されているのが聞こえた。
「奴らの刻印」
「奴らの刻印」
「奴らの刻印」
すぐに、数人の管理員が駆け寄ってきた。
彼らは黒い金属製の鎧を身につけ、肩にはヴェイラ政府の紋章が刻まれている。
彼らの手にあるエネルギー銃が、一斉にケイルへ向けられた。
「門から離れろ!」
一人が叫んだ。
ケイルは動かなかった。
指揮官が隊列から歩み出た。
彼は年配で、身長は四メートルを超えていた。
顔には額から顎まで伸びる傷跡がある。
首には銀色の金属製の輪が三つ付いていた。
それは最高位の管理官であることを示すものだった。
彼は数秒間ケイルを見つめてから、言った。
「ケイル、左手を出せ」
ケイルは動きを止めた。
この男に会ったことは一度もない。
ここにいる誰にも、自分の名前を言ったことはない。
それなのに、指揮官は彼が誰なのか知っていた。
「俺を知っているのか?」
ケイルが尋ねた。
「手を出せ」
「前から俺を知っていたのか?」
指揮官はすぐには答えなかった。
ケイルには、彼の心臓の鼓動がほんの少し速くなったのが聞こえた。
恐怖ではない。
自分が恐れていたことが起こっていると気づいた人間の緊張だった。
「私はセラン。北部管理隊の指揮官だ」
彼は言った。
「この門がお前に反応しているのは、お前の身体に第三の次元から来た感染の兆候があるからだ」
ケイルは彼を見つめた。
ケプラー1000bには、危険な病気はほとんど存在しない。
普通の人間なら、一生の間に深刻な病気を患うことなく生きることさえできる。
しかし、ケイルが疑ったのは、その言葉ではなかった。
彼にはセランの呼吸が聞こえていた。
彼は嘘をついている。
セランが「病気」という言葉を口にした瞬間、彼の心臓の鼓動が一度だけ乱れた。
同時に、ケイルはセランの後ろから、とても小さな声が聞こえるのを感じた。
「あの子が帰ってきた」
ケイルはセランの肩越しに後ろを見た。
誰も口を開いていない。
その声は、この広場にいる誰のものでもなかった。
門の向こう側から聞こえていた。
セランが手を上げた。
「そいつを捕らえろ」
管理員たちが一斉に前へ進んだ。
群衆はすぐに道を開けた。
何人かは南へ向かって逃げたが、大半はその場に残って見つめていた。
恐怖のせいで、門から目を離すことができなかった。
ケイルには、自分を取り囲んでいる者たちの動きが一つ一つ聞こえていた。
一人が左足を前に出す。
別の一人が銃の引き金に指をかける。
後ろの三人が飛びかかる準備をしている。
避けられる。
ケイルは重心を低くし、走り出す準備をした。
そのとき、一人の少女が群衆の中から歩み出た。
彼女は管理員たちほど大きくなく、身長はおよそ三メートル。
黒い髪を後ろで整えて結んでいる。
片方の目は淡い青色で、普通の住民の目とは違っていた。
彼女はケイルの前に立ちはだかった。
「門を通らないで」
彼女が言った。
ケイルは彼女を見た。
「君にも、あの声が聞こえたのか?」
少女は黙っていた。
その沈黙は一秒にも満たなかった。
しかし、ケイルの聴覚には、それが答えと同じくらいはっきりと聞こえた。
彼女にも聞こえている。
セランが彼女を見て、顔色を変えた。
「ミラ。そこをどけ」
「あなたは相変わらず、人前で嘘をつくのね」
ミラが答えた。
「言い争っている時間はない」
「あなたは彼を隔離区画へ連れていくつもりじゃない」
セランは何も言わなかった。
ミラはケイルを見た。
「この人はあなたを記憶保管階層へ連れていく」
ケイルは眉をひそめた。
「記憶保管階層って何だ?」
「政府が、第三の次元から帰ってきた者たちを収容している場所」
「生き残った人たちか?」
「違う」
ミラは門のほうを見た。
「自分が何を見たのか、まだ覚えている人たちよ」
そのとき、爆発音が響いた。
広場の左側にある石柱が光り始めた。
門の黒い膜が震え、皆の足元の地面に亀裂が走った。
群衆がパニックになって逃げ始める。
叫び声の中で、ケイルは別の音を聞いた。
小さな心臓の鼓動。
とても弱い。
彼は広場のほうを振り返った。
一人の子供が石の床に倒れていた。
押し合う人々の間に挟まれている。
群衆が押し合うたびに、小さな身体はさらに地面へ押し込まれていく。
その心臓の鼓動が、次第に遅くなっていた。
ケイルは考えるより先に動いた。
走り出した。
一人の管理員がケイルの背中へ武器を振り下ろした。
ケイルには、その攻撃が来る前に相手の肩の関節が動く音が聞こえた。
彼は身体を傾けて攻撃を避け、相手の腕をすり抜けて群衆の中へ入った。
彼は子供の足を踏んでいた人物をつかみ、横へ引き離した。
そして、子供の身体を押さえつけていた石板を持ち上げる。
石板はあまりにも重く、足元の地面が沈み込んだ。
子供が泣き出した。
ケイルは子供を引き出し、胸に抱きかかえて振り返った。
最初のエネルギー弾が、ケイルの肩をかすめて飛んでいった。
ミラが駆け寄り、ケイルを石柱の陰へ引っ張った。
「あなた、頭がおかしいの?」
彼女が尋ねた。
「怪我をしている人がいた」
「殺されるところだったのよ」
ケイルは腕の中で震えている子供を見た。
「でも、俺はまだ死んでない」
ミラは答える暇がなかった。
一つのノックが響いた。
コツン。
広場にあったすべての音が、突然消えた。
叫び声もない。
足音もない。
呼吸音もない。
ケイルに聞こえるのは、一つの泣き声だけだった。
子供の泣き声。
ケイルはその泣き声を知っていた。
それは、自分自身の声だった。
ケイルの目の前に、断片的な映像が浮かんだ。
暗い廊下。
青い光の線で覆われた壁。
自分の肩に置かれた巨大な手。
遠くで叫んでいる一人の女性。
ミラ。
今より若い。
しかし、間違いなく彼女だった。
透明なガラスの向こうには、セランがじっと立っていた。
当時の彼はまだ若かった。
だが、その目は今とまったく同じだった。
誰かが言っている。
「奴らにお前を連れ戻させるな」
映像が消えた。
音が一斉に戻ってきた。
ケイルは子供を抱いたまま、石の床に膝をついた。
左手首が激しく痛む。
傷跡が、今にも開こうとしている亀裂のように光っていた。
ケイルはセランを見た。
「あなたは、以前俺に会ったことがある」
セランは否定しなかった。
ただ、ケイルの左手首の傷跡を見つめた。
「私は、お前と一緒に帰ってきたものを見た」
「何を?」
「分からない」
「嘘だ」
初めて、セランの顔から冷静さが消えた。
門が震えた。
巨大な光の手が黒い膜を突き抜け、ゆっくりとケイルへ向かって伸びてきた。
管理員たちが一斉に発砲した。
赤い光線が飛んでいく。
しかし、その手が開くと、すべての攻撃が手のひらの中へ吸い込まれ、消えた。
ミラがケイルの腕をつかんだ。
「ここに残ったら、あなたの記憶を消される」
「じゃあ、通ったら?」
「あなたは、自分自身ではなくなるかもしれない」
ケイルは門を見つめた。
謎の声が再び響いた。
「お前は、ここで一度死んだことがある」
ケイルは一歩前へ進んだ。
「なら、今お前の前に立っているのは何だ?」
彼が尋ねた。
門の向こう側にある赤い目が、わずかに動いた。
「お前の残りの部分だ」
ケイルには、その答えの意味が分からなかった。
だが、一つだけ分かっていた。
セランに捕まれば、また記憶を失う。
今度は、永遠に失うかもしれない。
ケイルはミラを見た。
「何が起きたのか知りたいなら、一緒に来てくれ」
ミラは近づいてくる管理隊を見た。
そして、門を見た。
最後に、彼女はケイルの後を追った。
二人は黒い膜を通り抜けた。
ケイルが消えた瞬間、セランが叫んだ。
「門を閉じろ!」
一人の管理員が震える声で尋ねた。
「ですが、まだ中にいます!」
セランは門の表面を見上げた。
黒い膜の上に、二つ目の手形が現れていた。
最初の手形よりも小さい。
「分かっている」
彼は言った。
「では、なぜ閉じるのですか?」
セランはすぐには答えなかった。
彼は、ゆっくりと開き始める手形を見つめた。
「今回、呼んでいるのはケイルだけではないからだ」
門が閉じた。
その向こう側で、ケイルは目を開けた。
彼はヴェイラに似た都市の中に立っていた。
しかし、すべての建物が空から下へ、逆さまに生えている。
道路は黒い雲の層の間に浮かんでいる。
巨大な生物たちが都市の下を這い、霧の上に赤い光の跡を残している。
ミラがケイルの隣に現れた。
ケイルは、一つのノックを聞いた。
コツン。
コツン。
コツン。
その音は、二人の足元から聞こえていた。
地面がひび割れた。
暗闇の中で、一つの赤い目が開いた。
そして、あの声が最後に響いた。
「今度は、私より先に奴らに見つからないようにしろ」




