生首は燃やせるゴミか否か? ゴミの出し方や分別ルールが異なるため、各自治体の清掃事務所や窓口へのお問い合わせが最も確実です
「さて、どうするかな」
湯船の中でベリアルは呟いた。
肩まで浸かれるなんて贅沢。
普段は洗面器一杯のお湯で体を拭くだけだから。
「二十五万かぁ」
自然と顔がニヤけてしまう。
直ぐに現金化はできないけれど。
今ならどんな嫌なことがあっても全て赦せる。
「心理的安全性があるって優雅ね」
湯船から腕を持ち上げ、指を伸ばす。
ゆっくりと。
「取り敢えずシュークリームかな」
カスタード抹茶トリプルトルネード。
シュー皮の中で渦巻く魅惑の甘い罠。
即興で作った歌を口ずさんでいた。
浮かれた歌声にふと気付いて、恥ずかしくなった。
湯船に沈んで、口からぶくぶく。
問題自体は何も解決していない。
咄嗟にヘアメイクドールとして生首配信事故を乗り切っただけなのだ。
何よりも、あの生首はまだこの部屋の中。
「頭って、燃えるゴミに出していいのかなぁ」
普通の生活をしていたら絶対に出てこないセリフ。
でも今、分別は切実な問題。
実際、冷蔵庫のキャパシティは小さく、頭の入る余地はない。
「クール便だからなぁ。ほって置いたら腐るよな」
魔王時代。幾度となく嗅いだ戦場の臭い。
「この安普請じゃ、死臭で一発アウトだよ」
そう考えると、意外に残された時間は少ない。
「包丁じゃ、細かく切断できないよな。ノコギリで細かくして流すか。それとも斧で叩き割ってゴミとして出すか」
決断しなければならない。
「いっそのこと勇者に押し付けるか?」
勇者マモル。今は元勇者だったな。
魔王を討伐した宿敵。
あいつに頼るのは癪だけど、なんだかんだで面倒見がいい。
「いや、さすがに生首前にして「助けて」は駄目だな」
二度目の討伐なんて御免だ。
「のぼせてきた」
ベリアルは湯船を出る。
鏡に映った自分の体をじっくりと観る。
「しかし、貧相な体じゃの」
それは、現世に降臨するための依代。
ダンジョンで見つけた名前も知らない十代の少女の遺体。
「いつかコヤツの肉親にも挨拶せねばならんかな」
贅沢にタオルを2枚も使って髪と体を拭く。
気分良く浴槽を出たベリアルは予想外の事態に思わず叫んだ。
「何じゃこりゃ」
台所の床が濡れている。
それは居間の方から続いていた。
ベリアルは居間を覗き込み絶句した。
ちゃぶ台が水浸しだ。
ぽたぽた以上、だらだら未満のスピードで液体が滴り落ちて床に水溜まりを形成中。
それが台所まで続いている。
元凶は段ボール。
女の首が入っている段ボール。
ベリアルはタオルで床をふこうとしゃがみ込む。
指先が液体に触れた瞬間、激痛が走った。
「痛!」
液体にふれたベリアルの指先から白煙があがった。
「これは聖水?!」
人に塩酸、ドラキュラに朝日、魔族に聖水。
それは昔から相性が悪い組み合わせ。
悪いどころか健康を蝕む。
「あああ、どうすればいい?」
取り敢えず、ベリアルは靴を履いた。
肌に直接接触しなければ侵食されないようだ。
そこで、台所から炊事用手袋を取り出して、手に装着。
「くそ、こんなの変態じゃあないか」
バスルームから洗面器を持ち出して慎重に居間に向かう
摺り足で。
「服を着るべきだったか」
だが、もう遅い。
引き返すことはできない。
ベリアルは元凶である段ボールを洗面器の中に入れた。
そのままゆっくりと後退する。
「取り敢えず流しに入れよう」
魔族にとっては恐ろしい聖水も、ステンレスにとってはただの水のようだ。
女の頭は無事、シンクに投げ込まれた。
「あとは、聖水をどうすればいいんだ。早くしないと、床にしみこんでしまう」
1、炎魔法で蒸発させる。
いや、水蒸気にしたらヤバイだろ。
2、転移魔法で吹き飛ばす。
魔力が足りない!
3、地道にタオルで拭く。
「く、3しか選択できない」
タオルで拭いて、洗面器に絞る。
一杯になったら、流しに捨てる。
これを何度も繰り返す。
「埒があかない、もっと簡単に除染できないのか」
ふと、ランドリーボックスが目に留まった。
ベリアルはおもむろに中の下着や服を床にぶちまけた。
「取り敢えず、これに吸着させよう」
聖水を吸い取った洗濯物をゴミ袋に詰め直す。
「なにやってんだ私は!」
情けなくて泣きそうになるけれど、頑張った。
あと少しで全部拭き終わる。
その時、聖水をたっぷり吸い込んだパンツがベリアルの手から零れ落ちた。
ぺちゃりと音を立てて、ベリアルの剥き出しの太ももに。
「ぐおおおおお」
激痛にベリアルがのたうち回る。
その弾みで、立てかけたちゃぶ台がベリアルの顔面を強襲した。
思わず鼻を押さえたベリアル。
「ぎゃあ」
聖水で汚染された炊事用手袋をしていたのを忘れていた。
『夜中にうるせえぞ』
安普請の壁をドンドンされて、怒鳴られたけれど、ベリアルに返事をするHPは残されていなかった。




