表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/58

後ろを振り向けない勇者と、前を隠せない魔王

『なんだ』


 十二回目のコールで、元勇者マモルが電話に出た。

 思ったよりも早かったけど、『なんだ』はないだろう『なんだ』は。


「そこは、もしもし、じゃないと、やりにくいだろ。『もしもし』から『ベリアルです、いつも大変お世話になっております』と対応するから、その先が続くんだ。同級生に電話かけてお父さんが出たみたいな気分だ」

『……悪戯電話か? 用がないなら切るぞ』

「ああああ、待って! 勇者は困っているヒトを助けるのが仕事だろ」

『あん? まあ、間違ってはいないな』

「じゃあ、助けてくれ。非常に困ってる」

『嫌だね』

「速い!」


 戦闘以外で、この単語を使うとは思ってもいなかった。


『お前ヒトじゃないだろ』

「いや、差別だろ。魔族差別。それに、こっちに顕現するのにヒトを依代にしているんだから、ヒトはヒトだろ」

『何だと? ヒトを依代に? 聞き捨てならねえな』

「ああああ、それは何だ、言葉の綾というか、あれだ、そう転生! 転生の間違い」

『信用できねーな』

「そう言うなよ、勇者。本気マジで困っているんだから」

『今は勇者じゃない。元・勇者だ』

「そんなぁ。同じようなもんだろぉ。ノブレス・オブリージュだろぉ」

『それを奪っておいて何言ってんだ』

「頼むよう。グスン。グスン」

 

 配信で鍛えた私の演技力の前に跪くがいい。


『ったく。一体何やらかしたんだ』


 くくく、甘いぞ勇者、もう、終わりだ。


「実は――

 メガ女神のクール便が2000エンで、

 開封の儀を配信したら中身が生首で、

 誤魔化したら聖水が溢れだして、

 拭いていたから、服がない。

 だから、私は悪くない!」


 電話の向こうで深い溜息が聞こえた。


『無理だな』

「諦めるなよ。簡単に!」

『それはこっちのセリフだ。それに、実際、無理なんだ』

「なんで!」

『今、天界にいるんだ』

「天界? あの守護女神の件か」


 天界は今、揺れている。

 守護女神メモルがその震源地。


「天界も正義を振りかざすくせに、大概狂っているな」

『魔王に嫌味を言われるとはな』


 メモルは職権を悪用して勇者の私生活を無断で収益化していた。

 その中には勇者の妻、聖女アンナとの極めてプライベートな内容も含まれている。


「奥さん大丈夫そ?」

『アンナは問題ないが、天使庁がなぁ……まあ、なんとか片付いた』


 それにしても天界にも電話が通じるんだな。


『今、現世に戻るところなんだ。後ろを振り向けないから大変なんだぞ』

「えー困るよ、こっちは困ってるんだよ」

『無理だろ。物理的に』

「助けてくれないと『あの夜』のこと奥さんにチクるぞ!」


 電話の向こうで、『誰と話しているの』という会話が断片的に聞こえてくる。


『……いつまでそのネタを引っ張るつもりだ。くそ、分かった」

「助けてくれるんだな」

『これっきりだぞ。だが、俺が行くのは難しいから、ユージを行かせる』

「わーい」

『じゃあ、もう切るぞ!』

「愛してる勇者」

『うるせぇ!』 


 ツーツーツー。


「ふ、勇者よ、お前は甘い。甘過ぎる。その優しさはいずれお前自身の首を絞めることになるだろう。この世界は、お前が信じるほど美しくはない」


 部屋の隅に身を寄せて、服がないから、毛布を被る。

 壁にもたれて天井を見つめた。


「ユージって誰だろう?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ