魔王なんだから窮鼠状態からの第二形態は余裕よね
袋の中の女性が虚ろな瞳でベリアルを見つめている。
その唇が笑った気がして、ベリアルは漸く悲鳴を上げることができた。
「うわっと」
ベリアルは椅子の上から転げ落ちた。
薄暗い机の下は妙に落ち着いた。
このままだと、生首生配信者として炎上は必死。
回線を引っこ抜いて逃げて楽したい。
でも、それでは生首を肯定することになる。
せっかく育てたアカウントも間違いなく死ぬ。
魔王復活の礎として、これだけはなんとしても守りたい。
ふと目を上げると「ドラキューン」と目があった。
それは、六分の一のプラスチック・ミューズ。
子供向けの着せ替え人形。
いつも私に勇気をくれる存在。
逆に……肯定してしまえ。
ベリアルは机の下から這い出した。
携帯を手に取り配信に戻る。
「いやあ、びっくりして、思わず転げ落ちちゃった」
タムぴょん :大丈夫?
めれんげ :動揺しすぎ!
レントン :もちつけ
同接は千を超えていた。
コメント速度はあいかわらず速い。
でも、煽りの数は減ってきている。
今、ならならなんとかなる。
そんな気がする。
「そういえば、メガ女神からDMがきてるんだけど」
ベリアルは携帯をカメラの前にかざした。
「えーと親愛なる、まおーちゃん」
勿論DMなんて来ていない。
「プレゼント、喜んで貰えたでしょうか? 喜べるか! 大混乱だよ。
今、私はアマリ連合国の西海岸に来ています。 えー魔王が困っているのに海外旅行かよ」
架空のDMに架空のツッコミを入れる。
火を吹け! 私の演技力。
「まおーちゃんが人形好きと聞いたので、こっちの玩具屋さんで、面白そうな人形を買いました。着払いで送ります。 だって」
ま―ヌーン :メガ女神ひど
ラムゼー :メガ女神ならやりかねん
ヨセミテ国立:まおーちゃんかわいそう
お、コメントの掌握に成功しつつあるのでは?
みほちん :ヘアメイクドールか
ヘリック7 :あーなる
ヘアメイクドール。
それは文字通りドールをヘアメイクして楽しむ玩具。
「ヘアメイクドールって、本邦ではあまり子供に受けないせいか、ほとんど見かけないよね」
ラムゼー :へー
ぽぽら :りある過ぎてキモ
岡田裕二 :通報しました
「海外だとローティーン向けに一定の需要があるんだよね。「クリーチャーズ・ハイ」でも何体か出ている」
ポーラ :フランキーンの持ってる!
ぬーばー :うらやま
笹団子 :@岡田裕二 うざいよ君
「しかし、これは凄い精巧ね。まるで生きているみたい」
落ち着いてきたせいか、冷静に観察できるようになった。
「ベースはシリコン基体かな、皮膚が多層構造になっているみたいね。凄いきれい」
それは、本当に本心だった。
「あ、思わず見惚れちゃった。じゃあ、この紹介動画はまた、後日やりますね」
メイリーン :まってます
ま―ヌーン :もうおわり?
マッシュ :楽しみにしてます
ルーシー :海外技術すげー
「それじゃ、今日はびっくりしすぎて疲れたので、ここで終わります。ご視聴ありがとうございました」
ヌルペリオン:おつー
☆住民税5000エン☆
タムぴょん :おつかれサマー
シエンタ :たのしかったです
コメントはまだ続いていたけれど、ベリアルは配信を停止した。
完全に配信が停止したことを2回確認して、マスクを外した。
大きくため息をついて、椅子と同化した。
疲れた。
なんとか、誤魔化した。
やりきった。
「えーと、住民税は……ん?」
そこには見慣れない数字があった。
「じゅ、十万……二十万……二十五万エン !」
もう一度数え直したが、間違いではなかった。
「え、ヤバくない?」
こころがウキウキと踊った。
疲れが吹き飛んだ。
シュークリーム何個食べれるんだ。




