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帰りましょう

「ああ、わかっている」


マモルは答えたけれども、言うほど分かっていない。

ユージが辺獄にやって来た理由も分からない。

ただ、久々の息子との共同作戦に、喜びを感じるマモルであった。


「いくぜ!」


マモルが走り出す。

ガチャガチャと、フルプレートアーマーを鳴らしながら。

海馬は最後に残った力を振り絞り、音響兵器で迎撃を試みる。


「あなた!」


そこに、アンナが放った雷撃。

神に祈りを捧げていた?

アンナは、そんなタマでは無い。

マモルの背後で唱えていたのは、祈りの言葉に偽装した、高カロリーな攻撃の魔法。


直撃喰らった海馬の巨体が跳ね上がる。


「くらえ!」


マモルは全身全霊の力でもって、海馬の瞳に突入した。


「親父!」

「あなた!」

「はは、馬鹿め!」


デリアはマモルの無謀な攻撃が成立するとは思っていない。

根拠の無い、ただの願望。


海馬の動きが一瞬止まる。

虚無を映した瞳がアンナを凝視する。

その瞳から赤い液体が溢れ出す。

海馬の目が上を向いた。

その体が縦に裂ける。

左右に切り離され、さらに細かく切断されて、空に浮かんだブラックホールに吸い込まれていく。


「ぐう」


デリアは下唇を噛み締めた。

いつの間にか玉座を降りて、辺りを窺う逃げの姿勢。

ただ、目の前には銃を構えたユージ。


後退り、後ろに振り向けば、聖杖《まるた》を抱えたアンナ。

残る道は二つ。正面か、背面か。


「こんなの虐めだろ!」


酷い捨て台詞を残して、デリアは脱兎のごとく背面に。


「おっと、どこに行くつもりだ」


そこには、長剣を構えたマモルの姿。

白銀の鎧が海馬の血で赤く染まっている。


デリアは純粋な恐怖と狂気を感じて、急停止。


「さて、どうしてくれようか」


三方向から詰められて、デリアはゆっくり後退る。

両手をあげて、無害をアピール。


「こんなか弱く、小さな人形を、よってたかって殺すのか」


三人の良心を刺激して、和解を訴えてみるも、敗訴が濃厚。

デリアの目は絶望色。

人形だから顔色はずっと桃色だけれど、心はきっと蒼白に違い無い。

デリアは必死に言い訳する。


「違うんだ、これには深い訳がある。私の研究は奪われた。あの日から私は日陰者、私は悪くない」

「あなたの話は私、私、私! 私は悪く無いばかり」

「だって、本当に私は悪く無い! 教授が悪い、上司《ボス》が悪い、政治が悪い、私を認めない社会が悪い」


マモルが鎧の血を拭い、ユージの視線が一瞬それた。

その隙に、デリアは携帯を取り出すや、リダイアルして電話の向こうの誰かに助けを乞う。


「なあ、おい、助けてくれ!」

『……現在、この電話番号は使われておりません。もう一度よくお確かめのうえ、お掛け直し下さい……』

「おい、嘘でしょ」


後退る、デリアが何かに躓いた。


「あっ」


それは、マモルの肩に寄生していた龍の頭。

それを踏みつけて、ころんと転ける。


「あっ、ああっ」


バリン、バリンと無機質な、不気味な音が響き渡る。

地面に落ち、死んだはずの龍の口が大きく開いて、デリアに噛みついた。


「た、たす……」


デリアの悲鳴は音にはならない。

唐突な結末に、男二人は動けない。

ただ、呆然と龍に喰われるデリアを見ている。

アンナは一人、駆け寄って、その手を伸ばした。

デリアの小さな手が、助けを求めて空を切る。


腕が、ポトンと地面に落ちた。

龍の口から咀嚼音。

それも次第に弱くなり、そしてとうとう動かなくなる。


あまりにも呆気ない幕切れに、三人は言葉を失う。

液化して、黒い水溜まりに変わっていく龍の頭を見ながら。


しばらく立ち尽くしていたアンナだったが、唐突に、


パン!


と手を叩いた。


「さあ、現実世界に戻りましょう」


そう言って、アンナは指を差した。

示した先は女神の庭。

その崖の下に、現実世界が待っている。

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