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みんなの脳の中にいる魔物

 マモルは長剣をアンナの胸に突き入れた。


 その刹那、


 ポン!


 と軽快な音。

 アンナの体が消え失せる。

 代わりに聖杖カウデクス、煙と共に現れる。


「身代わりの術の魔法!」


 背後に現れた聖女アンナ。

 勇者マモルを羽交い締め。

 一気呵成にバックドロップ。

 頂点で一旦止めて、捻りを加え、垂直に。

 それは、受け身を取らせぬ、殺意を高めたアンナオリジナル。


 ぐしゃり。


 と嫌な音立てて、マモルの頭部は地面へと。

 アンナはブリッジの姿勢で抑え込む。


「ゲハァ」


 押し潰された肺腑から、漏れる悲鳴は、否、それは、肩に乗せた龍のもの。

 黒い体液撒き散らし、ずるりと剥がれ、地に落ちる。


 バンバンバンと踏み鳴らす。

 デリアが玉座を踏み鳴らす。

 その音はまるでカウントダウン。

 ちょうど十回鳴った時、何処よりか鐘の音が、


 カーン、カーン


 と鳴り響く。


「何事か!」


 デリアもこれには想定外。

 どこで鳴るのかキョロキョロと、辺り探すもわからない。

 そうこうする内に、アンナはホールドを解いた。

 アンナはマモルの体を抱きしめ、顔や体を覆ってる黒い蔦を引き剥がす。

 いつしかマモルの鎧は色が抜け、元の白銀色に戻りつつある。


「ううん」

「あなた、気づいたのね」

「アンナ」


 アンナは、何も言わずにキスをした。

 マモルはアンナの腕の中、その手をぎゅっと握り返す。


「死ね! リア充」


 悲痛な叫びが木霊する。

 デリアは携帯電話を取り出して、どこかに電話をかけ始める。


 地面が揺れている。

 しかし、マモルはまだ動けない。

 アンナは、はなから動く気はない。


「来い! 海馬!」


 デリアは電話に向かって熱り立つ。

 それに呼応するように、地面が揺れる。

 アンナは強くマモルを抱きしめる。


 見よ!

 天が割れる。

 そこから光が溢れ出す。


 光の中から、巨大な、海馬が姿を現す。


「タツノオトシゴだ……」


 海馬は、悲鳴を上げた。

 可聴域を越えた悲鳴が世界の全てを震わせた。

 無限回廊の全ての窓ガラスが粉砕されて、庭に降り注ぐ。


 光の洪水の中で、アンナは恐怖した。

 爛々と輝く瞳に。

 この世ならざる狂気に震えた。


 海馬が、クルクルと巻き上がった尻尾を、ビュンと伸ばす。


 それはもう、純粋な質量の攻撃。

 圧倒的な破壊の力。

 真正面から受け止めた回廊の屋根は一瞬で形が消える。

 後から遅れて轟音が、アンナたちの鼓膜を震わせた。


 天まで登った爆煙を抜けて、海馬が進み出で、その尻尾をまた、巻き始めた。


「どーだ、私の最終兵器は」


 玉座の上に仁王立ち。

 デリアは二人を指差して、高らかに宣言する。


「次は、お前たちが、ああなるよ!」


 海馬の影が、二人にかかる。

 マモルはアンナの手を振り解き、よろよろよろと立ち上がる。

 何もない空間に手を伸ばし、そこから大きな盾を引き出した。

 そして、アンナの前に立ち塞がる。


「そんな盾! さあ、やっておしまい!」


 海馬の尻尾がギュルンと跳ねた。

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