夫婦喧嘩は犬も食わない
音のない庭に轟く破壊音。
無限回廊の擁壁に隠された扉が、アンナの放った攻撃で、中の方から吹き飛んで、向かいの壁にぶち当たる。
「ウォーミングアップにちょうどいいわ」
綺麗な花で飾られた、庭の草木のざわめきを無視して進む聖女様。
玉座に続く黄色い道を一人行く。
「お待たせしたわね、勇者マモル」
肩に担いだ聖杖カウデクスを、軽々と持ち上げて、玉座を護る勇者マモルに突きつけた。
「現実世界に帰りましょう」
優しい声で語りかける女神の微笑み。
対するマモルは様子がおかしい。
いつもの白銀のフルプレートアーマーが真っ黒に染まっている。
肩の上には禍々しい龍の頭が載っている。
目の前に、妻のアンナが来ているのに、マモルは言葉をかける素ぶりもみせない。
鎧がグネグネと、まるで生きているように変形し、その頭を兜で覆い隠してしまう。
頭の両側から捩れた角が伸びていく。
空中に手をかざし、何もない空間から、マモルは剣を引き抜いた。
身長の二倍を越える物干し竿。
黒い刃が鈍い光を放ち、アンナの姿を写し込む。
「デリア!」
アンナは叫ぶ、玉座に置かれた小さな人形に。
「動きを封じたはずなのに、どうやってここまで来れたのか。聖女アンナ!」
「答える義理はありません。夫は返してもらいますわよ」
デリアは小さく舌打ちし、か細い腕を振り回す。
「あの魔王といい、お前といい、どうして誰も言うことを聞かない!」
「魔族と一緒にされるのは心外ね。でも、神族はわがままなんですの」
「どうせ、現実に戻っても、お前の息子はバラバラなんだ! 絶望しかないぞ」
「そうとも限りませんわ」
「お前……何をした!」
含みのある満面の笑みをデリア人形にくれてやる。
デリアはガンガンと玉座を打ち据える。
「もういい! お前たちはここで消えてしまえ! 愛する夫に殺されてしまえ!」
黒い鎧の勇者マモル。
デリアの檄に反応し、一歩前へと踏み出した。
アンナは応じて身構える。
ところが、マモルはそれ以上、ピタリと動きを止めたまま。
「どうやら、マモルも言うことを、聞いてくれないようだわね」
天を突くよな長剣を、構えたままでフルフルと、抵抗している勇者マモル。
「くっそ! お前もか!」
デリアはその小さな躯体を跳ね上げて、椅子の上で地団駄を踏む。
「ならば! やっておしまい」
言うや否や肩に乗っかる竜の頭が咆哮する。
目が光り、炎を吐いて、回転し、それに応じてマモルが苦悶する。
「あなた!」
そんな様子を見兼ねたアンナ、聖杖抱えて突進するも、振り回された長剣に、行手を阻まれる。
間髪入れず、マモルの剣は、縦に横に、縦横無尽に駆け回り、受けるアンナは防戦一方。
「くう!」
ジリジリ押されるアンナ。
「雷の魔法!」
起死回生にアンナは雷撃放つ。
しかし、それは緩い攻撃。
傷つけたくない、想いのためにアンナはどうしても本気になれない。
対するマモルは操られ、その倫理感が欠けている。
本気で剣を打ち込んで、怯んだ隙に詰め寄ると、襟首掴んでえいや!と投げた。
「ぐっは」
地面に叩きつけられて、アンナは一瞬気が遠くなる。
朦朧とする意識の中で、迫るマモルと視線が交錯。
赤い瞳が炎のように瞬いた。
「ははは、くたばれ!」
様子を見ていたデリアは玉座の上で拍手喝采。
跳んでハシャイで宙返り。
マモルは吠えて、長剣を、地面によこたうアンナの胸に、深々と突き入れた。
音のない庭に轟く破壊音。
無限回廊の擁壁に隠された扉が、アンナの放った攻撃で、中の方から吹き飛んで、向かいの壁にぶち当たる。
「ウォーミングアップにちょうどいいわ」
綺麗な花で飾られた、庭の草木のざわめきを無視して進む聖女様。
玉座に続く黄色い道を一人行く。
「お待たせしたわね、勇者マモル」
肩に担いだ聖杖カウデクスを、軽々と持ち上げて、玉座を護る勇者マモルに突きつけた。
「現実世界に帰りましょう」
優しい声で語りかける女神の微笑み。
対するマモルは様子がおかしい。
いつもの白銀のフルプレートアーマーが真っ黒に染まっている。
肩の上には禍々しい龍の頭が載っている。
目の前に、妻のアンナが来ているのに、マモルは言葉をかける素ぶりもみせない。
鎧がグネグネと、まるで生きているように変形し、その頭を兜で覆い隠してしまう。
頭の両側から捩れた角が伸びていく。
空中に手をかざし、何もない空間から、マモルは剣を引き抜いた。
身長の二倍を越える物干し竿。
黒い刃が鈍い光を放ち、アンナの姿を写し込む。
「デリア!」
アンナは叫ぶ、玉座に置かれた小さな人形に。
「動きを封じたはずなのに、どうやってここまで来れたのか。聖女アンナ!」
「答える義理はありません。夫は返してもらいますわよ」
デリアは小さく舌打ちし、か細い腕を振り回す。
「あの魔王といい、お前といい、どうして誰も言うことを聞かない!」
「魔族と一緒にされるのは心外ね。でも、神族はわがままなんですの」
「どうせ、現実に戻っても、お前の息子はバラバラなんだ! 絶望しかないぞ」
「そうとも限りませんわ」
「お前……何をした!」
含みのある満面の笑みをデリア人形にくれてやる。
デリアはガンガンと玉座を打ち据える。
「もういい! お前たちはここで消えてしまえ! 愛する夫に殺されてしまえ!」
黒い鎧の勇者マモル。
デリアの檄に反応し、一歩前へと踏み出した。
アンナは応じて身構える。
ところが、マモルはそれ以上、ピタリと動きを止めたまま。
「どうやら、マモルも言うことを、聞いてくれないようだわね」
天を突くよな長剣を、構えたままでフルフルと、抵抗している勇者マモル。
「くっそ! お前もか!」
デリアはその小さな躯体を跳ね上げて、椅子の上で地団駄を踏む。
「ならば! やっておしまい」
言うや否や肩に乗っかる竜の頭が咆哮する。
目が光り、炎を吐いて、回転し、それに応じてマモルが苦悶する。
「あなた!」
そんな様子を見兼ねたアンナ、聖杖抱えて突進するも、振り回された長剣に、行手を阻まれる。
間髪入れず、マモルの剣は、縦に横に、縦横無尽に駆け回り、受けるアンナは防戦一方。
「くう!」
ジリジリ押されるアンナ。
「雷の魔法!」
起死回生にアンナは雷撃放つ。
しかし、それは緩い攻撃。
傷つけたくない、想いのためにアンナはどうしても本気になれない。
対するマモルは操られ、その倫理感が欠けている。
本気で剣を打ち込んで、怯んだ隙に詰め寄ると、襟首掴んでえいや!と投げた。
「ぐっは」
地面に叩きつけられて、アンナは一瞬気が遠くなる。
朦朧とする意識の中で、迫るマモルと視線が交錯。
赤い瞳が炎のように瞬いた。
「ははは、くたばれ!」
様子を見ていたデリアは玉座の上で拍手喝采。
跳んでハシャイで宙返り。
マモルは吠えて、長剣を、地面によこたうアンナの胸に、深々と突き入れた。




