怪物の秘密
冷蔵庫の中で無数のデリアたちが液体の入った瓶を並べていた。
青い蓋の瓶が棚を埋めていく。
壁に設置された温度計はマイナス十度を示していた。
デリアたちは瓶を置くと外に出ていく。
(重なっている)
ベリアルの感想通り、デリアの存在は重なっていた。
お互いの存在には気づいていない。
少なくともベリアルにはそのように見えた。
出て行ったデリアと入れ違いに、再びデリアが入って来た。
今度は、棚の瓶を取り上げる。
そしてまた出ていく。
すると、瓶を抱えたデリアが入ってくる。
(ループというよりも、色々な記憶のデリアが重なっているのかもしれない)
ベリアルは何だか寒くなってきた。
もちろん、そこにあるのは冷気の記憶。
ベリアルに何か影響を与えているわけではない。
それでも、鼻や口から白い息を吐くデリアたちを見ていると、ベリアルもその気になってくる。
(他に面白いものもないし、出るか)
そう思った時、ベリアルは悲鳴を聞いた。
確かに、実験室から聞こえてきた。
ベリアルは律儀にも廊下に出て、それから実験室に入り直す。
(こ、これは)
切断されていた。
実験室のほとんどの物が。
天板の黒い実験台は、中央から切断されている。
引き出しの中身ごと綺麗に切断されていた。
奇妙なことに試薬の入った茶色の小瓶も輪切りにされて、それにもかかわらず、中身の液体は漏れ出していない。
(切断だ)
その爪痕は実験室全体に及んでいた。
部屋の隅に置かれた、機能の分からないガラス器具も例外ではない。
その切り口が鋭く光っていた。
おおよそ被害の及んでいない物はなく、まさに、ズタズタ。
この言葉がこれ以上似合う現場はないと思えた。
(何やってんだ、こいつ)
ベリアルはデリアの様子を観察する。
惨状の中でデリアは椅子に座って作業していた。
ガラスで囲まれた箱の中に手を入れて、青いボトルから丸い容器に中身を移す。
そんな操作を黙々と続けている。
もちろん、そのガラスの箱も切断されている。
デリアは気付いていないのだろうか。
さっきの冷蔵庫のように、過去の記憶が重なっているのだろうか。
ベリアルは首を捻る。
そして、もう一つ、奇妙なことがある。
現象としては、こっちの方が切断よりも奇妙かもしれない。
(怪物がいるんだけど)
『人』という字に似た、黒い棒が実験室を徘徊している。
恐ろしい仮面をつけたそれは、切断された実験台の前で座りこんだかと思うや、部屋の隅に行って、床に転がったガラスを拾い上げたり、デリアのそばに行って、彼女をどかしたり、せわしなく動きまわる。
見た目はどうみても怪物。
なのに、だんだんそうは見えなくなった。
(あれって人間じゃないのかな)
黒い怪物がデリアから書類を受け取った。
その様子を見てベリアルは確信する。
(デリアは人間に興味がない)
ベリアルはこの記憶空間について感じていた違和感を、ようやく言語化することに成功した。
そう、この世界にデリア以外の人間は一人もいないのだ。




