↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
73/83

それは魔法における最大の禁忌

 部屋の端には古い木製テーブルが置かれている。

 デリアがそこで熱心にメモを取っていた。

 ベリアルはデリアの様子を覗きこむ。


(これが、『切断』の魔法式?)


 メモには奇妙な記号と数字が並んでいた。


(そんなに、簡単じゃないか)


 パパラパー!


 頭の中でファンファーレが鳴り響いた。

 同時に、ベリアルの視界の片隅に文字が踊った。


「『切断』の数式を獲得しました」


(え、まじで)


 ベリアルはメモに描かれた数式を眺める。


 記号から色が滲みだす。

 シアン、マゼンダ、イエローそして、黒。

 四つの色が広がって、魔ざり合う。

 それは、やがて一枚の巨大な絵となってベリアルの視界を覆い尽くした。


(そんなバナナ)


 目頭を押さえて強く目を瞑った。

 左目から血が溢れて頬を伝った。


 巨大な一本の黄色いバナナが、真ん中で二つに分断されている。


(これは、ゼロ除算!)


 ゼロ除算。

 それは魔法における最大の禁忌。

 それは1=2を証明し、無限のエネルギーを汲み出すことを可能とする禁断の技術。

 魔法を破壊し、友人関係を敵対関係に変換する。

 家族を崩壊させ、やがて、世界を破綻に導く、禁断の呪法。


 故に、魔界において、ゼロ除算には公には名前がない。

 その性質を定義することすら重罪である。


(魔さか、こんなところで実装されているとはね)


 ベリアルは下唇を強く噛みしめる。

 その耳に、先々代魔王との会話が蘇る。

 それは、ベリアルが五歳の誕生会のこと。


「おいでベリアル」

「なんでしょう、おばあさま」

「ベリアル、お前はこれからこの魔界を支配し、繁栄させなくてはならないよ」

「心得えておりますわ」

「お前は魔法が得意だったね」

「ええ。この間も、人間を煉獄の炎で炙ってやりましたのよ。おばあさまにも見せてあげたかったわ」

「それは頼もしいね。でもいいかい、ベリアル」

「なんでしょう」

「魔法には表と裏、その二つの顔があるのよ」

「そうなんですね」

「ベリアルが魔王としてより強く、より立派になるには、魔法の裏、つまり、悪いことも知らなくちゃあいけない。わかるかい?」

「はい、おばあさま」

「いいかい、これは誰にも言ってはいけないよ」

「それでは、おばあさまも、私に教えられないではないですか」


「……それは、私は魔王だからいいんだよ」

「ずるくないですか」

「魔王だからずるくないよ。理屈臭い子供だよ、全く。誰に似たんだろうね」

「おばあ様の孫ですから、仕方ありませんわ。それより、早く教えていただけませんか」

「は! 生意気な。欲しければ自分で、奪ってみせよ!」

「おお、あたぼうよ。表に出やがれ!」


 ベリアルは右の頬を撫でた。

 それは、祖母と孫との楽しい語らい。

 先々代魔王の左ストレートを顔面で受けた後、無意識で放ったクロスカウンター。

 そのパンチは祖母の顎を捕らえた。

 そうして、ベリアルは、魔法の暗部、ゼロ除算を手に入れた。

 祖母との思い出と共に大切に封印されている


(今考えると、トンデモねえばばぁだな)


 ふいに蘇った記憶にベリアルは顔をしかめた。


(だけど『切断』の魔法式がこれだと言うなら……『切断』を元に戻す方法がない)


 ベリアルは頭を抱えた。

 髪を掻きむしりながら、実験室の中を歩き回る。


(この式が巧妙なのは、時間の連続性を保ったまま、空間の連続性をゼロ除算で破壊している点よね。空間の情報が消えるから元に戻せない)


 ベリアルは歩くのを止め、デリアの姿をぼんやりと見つめた。


(でも、何となく、違和感がある。デリアのあの様子)

 デリアは一心不乱にメモを取っている。


(本当にあなたが考えたの? ただ、書き写しているだけだけじゃないの?)


 かちゃり。

 同時に、ベリアルの視界に文字が現れる。


 どこかで鍵が開いたようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。