テンプレートを逸脱する力
「ここは女神の庭です」
「あなた、アンナでしょ?」
「ここは女神の庭です」
「違うの?」
「ここは女神の庭です」
「最初の街にいる少年みたい」
「ここは女神の庭です」
「……」
少女には見覚えがあった。
ダンジョンの部屋にラペリングしてきた筋骨逞しいシスターの若い頃によく似ていた。
「どうしてここに、いるんだ?」
「ここは女神の庭です」
「マモルはどうなった」
「……ここは女神の庭です」
どんな事を聞いても、返って来る答えは同じ。
「ユージが心配じゃないのか」
「……ここは。女神の」
ベリアルはアンナの顔を覗き込んだ。
無表情に思えたアンナの瞳孔が大きく開いた。
「ふーん。完全に意識がない、というわけじゃないね」
「ここは女神の庭です」
「頷いたりできないの?」
「ここは女神の庭です」
アンナが瞬きを繰り返した。
「じゃあ、イエスなら二回。ノーなら三回。OK?」
「ここは女神の庭です」
アンナは瞬きを二回繰り返した。
「アンナはここから出たい?」
「ここは女神の庭です」
瞬きは二回。
ベリアルはアンナの腕を引いた。
「動かない」
「ここは女神の庭です」
アンナの体は押しても引いてもびくともしない。
まるで根が生えているかのようだ。
「アンナ、先に謝っておくわ」
「ここは女神の庭です」
アンナが3回瞬き。
ベリアルはアンナの大腿部を思いっきり蹴り上げた。
「痛!」
「ここは女神の庭です」
アンナはその場から一歩も動かなかった。
逆にベリアルが悲鳴をあげた。
アンナの瞳と瞼が激しく動いていた。
「怒るなよ、先に謝っただろ」
「ここは女神の庭です」
暖簾に腕押しとはまさにこのこと。
ベリアルは溜め息をついた。
疲れからか、ベリアルはアンナに寄りかかった。
「うわ」
転びそうになってベリアルは思わず叫んだ。
「今、何が?」
アンナがベリアルを避けた。
半歩動いたアンナはすぐに元いた場所に戻った。
「ここは女神の庭です」
「おっぱいをゆっくり押す?」
瞬きは三回。
「いーや、触るね。何なら揉む。揉みしだく!」
ベリアルは両手を構えた。
アンナの胸を目掛けて両腕を繰り出す。
音も立てずにアンナは身を引いた。
「やっぱりだ」
元の位置に戻ろうとするアンナに、ベリアルは再度、腕を突き出した。
アンナが立ち位置を入れ替えるようにベリアルを避けた。
「見つけたな」
ベリアルは邪悪な笑みを浮かべた。
アンナは激しく瞬きを繰り返した。
「ここは女神の庭です」
当初は、アンナの動きのコントロールに苦労したベリアルだったが、何十、何百と繰り返すうちに、任意の場所への誘導に成功するコツを掴んだ。
それでも、元いた場所に戻ろうとする動きが強いことが厄介だった。
「油断すると、すぐに戻ろうとする!」
「ここは女神の庭です」
一旦、戻り始めるとそれを止めることは難しい。
何回 スタート地点に戻ったのか、もう数えていない。
「兎に角、連続でよろけさせれば何とかなる。扉まで行ってみよう」
何千回目かの挑戦で、アンナは数メートル移動した。
「ん?」
ベリアルはアンナが『ここは女神の庭です』と言わなくなったことに気がついた。
誘導をやめてアンナの様子を観察してみる。
「戻ろうとしなくなったな。会話は?」
アンナが目をぱちくりした。
「まだ、ダメみたいね」
ただ、そこから先は比較的楽な作業。
アンナのおっぱいを狙う。
アンナが避ける。
アンナのおっぱいを狙う。
アンナが避ける。
それを繰り返し、とうとう、扉の前まで来た。




