ナーフされる、ベリアル
時速1200 Km/hr。
ステータス画面はそう告げている。
ベリアルは北北西に進路をとる。
なおも速度を上げて進行中。
「ベリアル走法」
それはベリアルが偶然見つけた挙動を追及した帰結である。
厳密に言えば歩行ではないが、それはこの際どうでもよい。
驚くべきことにベリアル走法は通常歩行という判定らしい。
急停止しようが、壁に当たろうがダメージ判定とならないのだ。
故に、ベリアルは極限を追求する。
ベリアル走法の初手は回転である。
規則正しく両手両足を動かして、初速のためのエネルギーを円運動として蓄える。
「うりゃ!」
一連の動作をひとまとめにしたコマンドを思い浮かべる。
体に捻りを与える。
同時にコマンドを発動。
すると、凄じい勢いで体が弾かれる。
この時の頭の向きで方向が決まる。
幾度となく繰り返すうちにベリアルはさらに面白い現象を発見した。
着地と同時にコマンドを発動することで、再度の跳躍が可能となるのだ。
加速、減速、方向転換も行える。
極めてシビアなタイミングではあるが。
ベリアルは矢印の方向に進む。
前方に森が見えた。
巨大なモンスターのすぐ横を掠める。
気がついた時には通り過ぎていた。
数秒遅れて、ベリアルは経験値を獲得した。
突如、ベリアルの視界が歪んだ。
足元の矢印が無茶苦茶に暴れる。
「な、なんだ?」
視界が暴れてまともに外が見れない。
見えない壁がベリアルの進行を塞いでいる。
前に進もうとするベリアルと、押し戻したい見えない壁。
地獄のような振動。
唐突に静かになる。
ベリアルは館の中にいた。
天蓋付きのベットが目の前にある。
加速が止まっている。
ステータスの速度は0を指していた。
「何が起きたんだ」
目視では体の様子に異常はない。
ベリアルは立ち上がった。
足首をぐるぐる回す。
特に異常は感じない。
「なんで、立てるんだ?」
ベリアルはその場でジャンプした。
それから、おもむろにラジオ体操を始める。
あれだけ苦労していた直立二足歩行がいとも簡単に行える。
正常であることが、今は異常だった。
ピコン。
着信を知らせる音が頭の中で響いた。
ベリアルは体操を止めた。
「ステータスオープン」
視界の中に巨大な文字が踊った。
不正な操作が検出されたため、緊急アップデートを実施しました。
不正処理で得られた経験値、アイテムは没収されます。
「ベリアル走法がナーフされた」
ベリアルは肩を落とす。
楽しいおもちゃが取り上げられたことがショックだった。
「明らかに運営の不手際なのにな」
まるで悪いことのように非難する文章に、ベリアルは少しだけ苛立ちを覚えた。
「異世界で光速度が不変かどうか試したかったのに」
とはいえ、四肢のコントロールを取り戻せた。
「これは大きい」
意識せず、意識的に歩くことができるようにルールが修正された。
ベリアルは、この世界を管理する存在に思いを馳せる。
だが、その思索の旅は、ベッドの中の住人によって破られた。
「なんでお前がここにいるんだ!」
それは、小さな人形だった。




