直立二足歩行が、こんなに難しいなんて
「直立二足歩行が、こんなに難しいなんて」
見知らぬ世界の青空の下。
どこまでも続く草原の中で叫ぶベリアル。
「まるで、産まれたばかりの小鹿じゃないか」
左右の腕と足を意識的に動かさないと体を持ち上げることすらままならない。
四つん這いも実は厳しい。
油断しては何度も地面とキスしている。
産まれたばかりの小鹿でも数分の後には立ち上がるのだから、
「小鹿以下じゃん」
ベリアルはステータスをもう一度開いた。
29ページにわたるステータスは極めて詳細。
その中には経過時間の項目がある。
気がつけば三十時間ほど過ぎていた。
「一分が速い気がする」
奇妙なことに、全くお腹が空かない。
血中の尿酸値や、糖化度といった複雑な項目が用意されているのに、空腹度は考慮されていない。
「生命値は微妙に下がっているんだよなー」
ステータスを閉じる。
視界の中の人体操作説明は未だに消えていない。
右下の数字は『1/5』となっている。
最初の項目すら終わっていないのだ。
ベリアルは仰向けに転がり、青空を見つめた。
「異世界を舐めてたな」
お気楽極楽。
のんびり、スローライフ。
そんな幻想はどこにもない。
「世界のルールを把握するのにこんなに苦労するなんて」
ベリアルは寝ころんだままジタバタとしてみた。
左手を動かした後で右足を動かす。
何度も何度も動かすうちに、そういった一塊の動作をコマンドとして連続で行うことができるようになった。
「うああああああ」
ベリアルは叫びながら、さらにジタバタしてみせる。
両手、両足を激しく動かして、体を回転させる。
この方法で少しづつ進むことはできた。
「私はミミズだ!」
もう、ヤケクソだった。
手と足を動かすコマンドを無茶苦茶に発動させた。
「もう、いやだー」
駄々を捏ねるように、体を捻った。
突然ベリアルの体が激しく飛び跳ねて、ニメートルほど移動した。
「え! 何が起きた?」
一番驚いたのは当の本人。
「今、私は何をした?」
何かある。
そう直感した。
「ジタバタして」
今、行なったことを、もう一度再現してみる。
「体を捻った」
今度は何も起きない。
「ジタバタした後、ヤケになってコマンドを入れた気がする」
それから、ベリアルは謎の跳躍現象の再現に果敢に取り組んだ。
この世界の時間にして五時間の後。
約千回の試行の果てにベリアルはついに解法を見つけた。
「まずは、地面に寝そべり」
両手両足を交互に動かしてその場で横に回転する。
「それからコマンド発動、すぐに体を捻る」
頭の中で段取りを確認。
試行錯誤で見つけたコマンドを思い浮かべ、準備を整えた。
「よし、スタート」
鍵になるのは時間であった。
それも非常に短い時間。
体が反応するよりも速くコマンドを入力する。
「今だ!」
気合いと同時に体を捻ると、ベリアルの体は十メートル近くも跳躍していた。
「やったぜ」
ベリアルは草原の上で一人ガッツポーズ。
空を見上げる。
自分が成し遂げたことに感動して、涙した。
「……」
高揚した気分が一旦落ち着いた。
冷静になって考えて、ベリアルは酷く落ち込んだ。
「しゃーない。これを極めてみるか」
その何気ない決断が、数時間後にとんでもない事件を引き起こすことになるとは、ベリアルは予想もしていなかった。




