逆襲のベリアル
ベリアルの体がブラックホールの中に無限に落下していく。
やがて、全てを吸い込んだそれは、今度は自分自身を飲み込んだ。
そうして、芥子粒よりも小さく圧縮されて、パッと消えてしまった。
デリアを残して誰もいなくなった部屋。
キューブが奏でる微かな鼓動が聞こえるほどの静寂。
デリアはよろめきながら立ち上がった。
「はははァ、馬鹿な奴め。勇者に敗北して落ちぶれた元魔王風情が、この私を倒せると思ったのか」
デリアはその場でクルクルと回る。
「それに、あざとい姿で媚を売りやがって。借り物の体のくせに。何だまおーちゃんって。魔王だからまおーちゃんって、安直過ぎるだろ、少しは考えろよ」
両手を広げ、羽ばたいた。
「弱小配信者のくせに、私のリスナーをもっていきやがって、その時から、こうして消し去ってやりたかったんだ。女神様を降臨させる目的がなければ、だれがお前みたいなクソつまらない配信なんか見るものか!」
肩で息をして、言いたいことだけ言って、足元のキューブを蹴り上げた。
「そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな 」
突如部屋に響くベリアルの声。
デリアは周囲を見渡す。
「どこにいる!」
降り注ぐ声に、上を見上げたデリア。
天井一杯に広がった暗い闇にたじろぐことなく、デリアはリボルバーの引き金を引いた。
ブラックホール弾がベリアルの眉間に放たれる。
「無駄だよ」
ベリアルの姿が消えた。
だが、ブラックホール弾は天井を貫通。破壊。吸収。
天井から外の空が見えた。
オレンジ色に紺色が混ざり始めている。
間も無く逢魔が時。
「そばに龍脈が流れているんだ」
今度は壁に影が移動した。
デリアは躊躇しない。
立て続けにリボルバーの引き金を引いた。
カチンカチン
空の薬莢を叩く撃鉄の音が虚しく響く。
「お前が私を切り刻んだお陰で、龍脈に接続できた。今の私は全盛期の5%魔王だ!!」
デリアは金切り声を上げてリボルバーを投げつけた。
ベリアルはそれを受け止める。
「いろいろと教えてくれたメガ女神には感謝しているんだ。降参するなら許してやるぞ」
「うるさい! 魔王が人間に感謝するな!」
デリアは足元のキューブを踏みつけた。
キューブが潰れて、赤い液体と肉片が飛び散った。
「止めろ!」
「この中に、お前の体が有るんだろう。戻れなくしてやる!」
「お前の弟もいるだろ」
それには答えず、デリアは潰すのを止めない。
弾力があるから、捗らないのがベリアルには幸いなのだけれど……。
今潰れたそのキューブは誰のもの?
「いい加減にしろ!」
壁の影から無数の棘が生じた。
細く長く、鋭く伸びて、飛び出した。
無数の針がデリアの体を貫いて、その体を壁に縫い付けた。
「グハア」
間髪入れず、ベリアルは針を束ねて一本の長大な釘を作り出す。
ベリアルは左手に釘を持ち変え、右手を巨大なハンマーに変形させた。
「覚悟するがいい」
その目が青く、強く燃える。
走り出し、加速して、デリアの胸の中心に釘を穿つ。
「魔王め、不浄な世界の不条理め。呪ってやる、呪ってやるからな!」
デリアの怨嗟の声を聞き流し、ベリアルはハンマーを打ち付けた。
カーン。
ベリアルが打ち込んだはずのハンマーが、金色の盾に打ち返された。
デリアとベリアルの間に割り込んだ黄色い影。
「お前は!」
「勇者マモル見参!」
金色のフルプレートアーマーが見栄を切る。
「人間に手を出す魔王は容赦しないぜ」




