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魔王ベリアルの復活

「誰だ!」


 突如出現した巨大な拳に下から突き上げられたデリア。

 器用に身を捩り、天井に着地した。


 ピシり。


 左頬から口元にかけて亀裂が走る。


「魔王ベリアル、復活!」


 部屋の中央に仁王立ちする黒い影。

 巨大な瞳がその影の中に浮かび上がり、天井のデリアを睨みつける。

 二度三度瞬きすると、瞼はいつの間にか唇に変化。


「良くもまあ、好き勝手やってくれたわね」


 しなやかに動く唇が小さな唇に分裂した。

 それぞれがデリアをなじり、非難し、責めたてる。

 口の中から飛び出した眼球が、ギョロギョロと部屋の様子を観察する。


「こんな酷い現場、魔界でもそうはないわよ」


 床一面に散らばる立方体キューブ

 その一つを拾い上げた。

 蠢動するキューブをベリアルの「眼球たち」が凝視した。

 どこかで見覚えのあるパーツがキューブからはみ出していた。


「耳……これは?」


 耳たぶの真下に黒子ほくろを認めたベリアルの頭が二つに割れた。

 中からヌルりと持ち上がった巨大な舌がキューブをペロンと味見する。


「これは……私の体!」


 ベリアルは激昂。

 地団駄を踏む。


「なんてことしてくれてんだお前は」


 ベリアルはデリアに指を突きつけた。

 黒い体が一瞬にして真っ赤に変化した。


「降りてこい! お仕置だ」


 デリアはだらんと腕を伸ばした。

 縦から横から、そして真上から、変幻自在に変化する鞭のように、その腕がベリアルに襲いかかった。

 ベリアルは軽くスウェイして巧みに避ける。


「くだらない手品ね」

「それはどうかな」


 キューブの中に潜んでいたデリアの腕がベリアルを襲った。


「ははははは、やっぱり手品じゃないか!」


 ベリアルの狂笑。

 デリアの腕はベリアルの体をすり抜ける。


「空間を切断する術のようだけど、魔王の敵ではないわ!」

「くっ、どうなっている」


 床に飛び降りたデリアがベリアルの足を払う。

 これも空振り。

 反動を利用して、今度は顔めがけてパンチを繰り出す。


「硬化!」

「きゃあ」


 吹き飛ばされたのはデリアの方。

 よろめいた瞬間に腕を掴まれて、踏みつけられた。

 めりめりめりと湿った音が部屋に響く。

 それはデリアの腕がもぎ取られた音。


「がああ」


 人間には出せない周波数の悲鳴を上げた。


「ミスリル樹脂装甲が!」

「魔王を舐めるんじゃない! お前の装甲なんか紙も同然だ」


 もぎ取った腕をヌンチャク代わりにぶんまわし、振り下ろした。


「アチョー」


 デリアは残った腕を総動員して攻撃を受け止める。

 けれど、それは無駄なあがきだった。

 火花が飛び、ガードした腕ごと破壊され、デリアは立ち上がることができない。


「一度やってみたかったんだ」


 ベリアルは両手を組んで指を、


「ボキボキ」


 それから首を捻って、


「ゴキゴキゴキ」


 とは鳴らなかったので、自分の口で言った。


「さあ、覚悟しなさい」


 振り上げた拳をデリアの顔面に繰り出した。


「!」


 結論から言うと、ベリアルの拳はデリアに当たることは無かった。

 その前にベリアルが緊急停止したからだ。

 ベリアルの眼球たちが、デリアの顔を凝視する。

 ひび割れた顔の表面がベリアルの拳圧でぺりぺりと剥落していく。

 その内部に別の顔がのぞいていた。


「あれ、あなたメガ女神?」


「……」


 返答のないデリアに、ベリアルは自分の体に依代の姿を投影した。


「ほら、私よ、まおーちゃん」


 快活な声にデリアは残った腕で顔を覆う。


「え、ちょっと」


 ベリアルとしても予想外の出来事。

 眼の前で泣き出す女性の慰めかたは「P≠NP予想」よりも難しい。


「大丈夫?」


 しゃがみ始めたベリアルの額を、小さな弾丸が貫いた。


「あ」


 デリアの腕にはリボルバー。

 サムソンがユージから弾き飛ばしたブラックホール射出装置。


 デリアが床に伏せる。


「あああああああああ」


 扇風機が奏でるような奇妙な声が響き渡る。

 ベリアルの頭部で炸裂したブラックホールが、ベリアルを飲み込み始めた。

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