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デリアはどうしても豆腐がサイコロ状にならない

 ユージがシュートしたベリアルの頭部は、きれいなカーブを描いてデリアに飛んでいった。

 激しく回転するそれは、切断面から謎の液体を撒き散らす。

 デリアは反射的にそれを叩き落とした。

 ベリアルの頭が床で跳ねて部屋の隅に転がった。


「ぎゃああああああ」


 悲鳴をあげたのはデリアの方。


 白磁の肌が赤黒く爛れていく。

 ポツポツと不気味な穴があちこちに穿たれる。

 深部に達した腐食から白煙が上る。


「お前! 何をした」

「研究者なのに知らないのか!」


 ユージは精神面からも追い打ちをかける。


「神族相手のゴマ摺りばかりじゃあ、知らなくても仕方ないか」


 魔法庁で神族相手に働くユージの素直な感想でもある。

 ベリアルに会うまでは、聖と魔が対消滅するなんて知らなかった。


「うるさい!」


 デリアの背中がギリギリと音を立てて開いた。

 中に格納された八本の腕がゆっくりと展開される。

 ユージはその隙をついてベリアルの体に駆け寄った。

 魔法庁の権限でベリアルの右手のアイテムボックスをこじ開けた。


「立ち去れば見逃したのに、これはお前たちのせいだぞ」


 デリアの背中の千手観音が無茶苦茶な軌道を描き始める。


「死ね」


 デリアの猛攻。


 ベリアルの体をサイコロステーキ状に切り刻み、 デリアの方も吹き出した魔汁で腕を六本失う。

 白煙を上げて腐っていく自分の手を引き抜いて、 ユージに向かって投げ捨てた。

 美しい顔は魔汁によってひび割れて、まるで笑っているかのようだ。


「平和主義者が聞いて呆れる」


 ユージは立ち上がることができない。

 攻撃に巻き込まれて、ユージの左足も切り刻まれてしまった。

 絶望的な状況。

 だが、頭の中に響く声が明瞭に告げる。


『勝利は私たちのもの』


 ユージはそれに賭けた。

 囁く声に。

 自分の直感に。


 デリアがユージの前に立ちはだかる。

 怒りに満ちて青白く光る瞳がユージを見下ろす。

 残った腕を全て伸ばしユージを威嚇する。


(ここしかない)


 ユージは回収したリボルバーを突き立てた。


「やめろ」


 突然、サムソンがのしかかってきた。

 リボルバーを奪おうともみくちゃになる。


 カランカラン。


 乾いた音を立てて、回転しながら銃が床を滑る。

 サムソンはユージを組み伏せる。

 そして、嬉しそうにデリアの方に顔を向けた。


 デリアは表情を変えることなく、腕を振り下ろした。


 まず、サムソンが三枚に下された。

 ユージの目の前でばらばらに解体された。

 そして、ユージも賽の目に切断された。


 痛みはない。


 二つの視界が入り交ざる。

 正中線に沿って分断されたためだ。

 意識が無限に分散していく。


 デリアの足が見える。

 同時にデリアの全身が見える。


 デリアが何かを見つけた。

 床の上で鼓動するパーツ。


 デリアは躊躇うことなく足をあげた。

 ユージとサムソンのどちらの心臓なのかユージにも分からない。


『力が欲しいか?』


 耳がどこにあるのかわからなかったけれど、呼ぶ声がした。

 地底から響く少女の声。


 ユージは願った。


(なんでもいい、この状況を打破できるなら、魔王の力でも)


 デリアが踏みつける。


 その瞬間。


 床から、巨大な黒い手が出現した。

 デリアをアッパーカットで吹き飛ばす。


「好き勝手によくもやってくれたな!」


 ユージが意識を失う瞬間に聞こえた声は、確かにベリアルの声だった。

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