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ベリアルの暴力は汚い暴力 デリアの暴力はきれいな暴力

「暴力では何も解決しないって?」


 ユージは反射的に返答した。


「まおーちゃんの首を刎ねておいてよく言うな」

「イジメを止めただけ。暴力じゃない」


 デリアの声はひどく冷静。

 表情の方はよく分からない。

 体だけじゃなく、顔の方も人形仕様。

 おかっぱ頭に、腰まで伸びた黒い髪。

 そのコントラストが白磁の肌をより強調している。


「過剰防衛だろう」

「正当な抑止よ」

「殺す必要なんてない」

「殺してなんか無いわ」

「じゃあ、これはなんなんだ」


 ユージは、床に倒れたままのベリアルを指さそうとして、自分の右手も切断されていたことに改めて衝撃を受けた。


「切断しただけ」

「同じことじゃないか」


 ユージは語気を強める。


「凡人め!」


 ここにきてデリアが感情的になった。


 ユ―ジの耳元で誰かが囁き始める。

 性別不詳。

 意味不明。

 とんでもない早口。

 たまに聞こえる断片的な単語。


「私が開発したこの技術は、時間的な連続性を保ちつつ空間だけを切断する」


 突然、デリアは早口でまくし立てた。


「……はぁ? お前、分からせる気があるのか」

「何故分からない!。普通は、手首と切り落とせば、切り落とした手は物になるだろう」

「いや、手は手だろう」

「それは意味空間の連続性で、時間連続性の話じゃない!」


 ユージは溜息。


「説明が致命的に下手だな」

「そんなことない」


 ユージはデリアの口調の変化に気付いた。

 こいつは、心の中まで人形なのかと思っていた。

 だが、実際には違う。

 ちゃんと人間が入っている。

 ならば、こいつのクソ高いプライドをなんとかすれば、なんとかなるかもしれない。


「要するに……川を堰止めているみなたいな感じだな」


 耳元で聞こえた言葉を反芻する。


「……」


 デリアに明らかな動揺が走る。


「この技術があれば、貧しい人に医療の機会を与え、この国を 世界に誇れる国にすることができる。私は、この技術で世界をアップデートする!」


 デリアの論調が急に変わった。

 説明というより演説。


 ユージは思う。

 こいつ正鵠を射られて話題を変えたな。

 耳元の声が再び語り出す。


「戻せないのに? アスカにも同じ事を言われただろう」


 ユージは聞こえた言葉をそのままデリアにぶつけた。

 アスカが誰なのか、ユージには分からない。

 ユージの耳元で鳴り響く音声。

 その扱い方が次第に分かってきた。


 普段は意味不明な音声。

 ユージが真実を知ろうとすると、声も活動を強める。

 そして、時折、意味のある言葉になる。


(まるでネット検索だな)


「それに、その技術は、もともと、アスカが出したアイデアだろう」


 効果はてきめんだ。

 デリアの動きがピタリと止まった。

 突如、抱いていた弟、サムソンを高々と持ち上げた。


「うわあ」


 サムソンをユージに向かって投げつけた。


 (大事な弟じゃないのかよ!)


 ユージは慌ててサムソンを受け止める。

 足元がふらつくが、なんとか踏ん張る。


「もう一度言ってみなさい!」

「おい、自分の弟だろ」


 激昂するデリアを無視して、ユージはサムソンを傍のソファーに下ろしてやった。


「おい、大丈夫か」


 ユージが声をかけるが返事はない。

 ベリアルの攻撃の余波なのか、姉にぶん投げられた精神的ショックなのか目は虚ろ


「私を無視するんじゃあ、ない!」


 デリアの様子を見ながら、慎重に間合いを測る。


 ユージには目的がある。

 武器も無い絶望的な状況から、デリアを撃退する。

 そうして、まおーちゃんと脱出する。


 可能性があるとすればベリアルが持っている力。

 それを感情的になったデリアにぶつけるしかない。


「お前は…… 単にアスカに言われた実験をやっただけじゃないか」


 デリアの右手が素早く動いた。


「痛!」


 ユージの頬が切り裂かれた。

 今度はちゃんと痛い。

 血も流れる。


 攻撃の速度は恐ろしく早い。

 だが、見える。

 認識阻害が働いていない。

 デリアは酷く怒っている。

 そんな人間の思考の予測は容易い。


「あいつは私の成果を盗んだの。そして、自分だけ出世した。私は、チームを追い出された。私の技術は世界を変えるはずだった。手術から痛みをなくし、生体観察を容易にする技術だ。採用されなかったのは、アスカたちの妨害があったから!」

 

演説に熱が入り、デリアの視線が宙を舞う。


(今しかない! まおーちゃんごめん!)


 ユージは床に転がっていたベリアルの頭を蹴りつけた。

 激しく回転しながら、ベリアルの頭部がデリアに飛んでいく。

 切断した首から吹き出す液体を撒き散らしながら。

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