空から降ってくるのは女の子がいいのだけれど、現実はままならない
土煙がおさまり、上空から落下してきた物体の正体が判明する。
「車?」
白い乗用車が頭を上にして地面に突き刺さっていた。
後部はぐちゃぐちゃに潰れている。
どこか見覚えのある車。
近付いたベリアルに車が警告を発した。
「警告、こちらは魔法庁の管轄車両です。車両への接近は法律により禁止されています。直ちに離れて下さい。警告――」
スピーカーが壊れているのでたどたどしい。
「私の車じゃないですか」
ユージが天井を見上げながら呟いた。
「ブラックホール弾がバルーンを破壊して、落ちて来たんだ」
ベリアルも上を見上げる。
天井から空が見えた。
差し込む光が薄明光線を形成して神々しい。
ベリアルがその光の中で笑い転げる。
「何がそんなにおかしいんです!」
ユージは少しむっとした。
「だって、車が降ってきたんだぞ、可笑しいだろ」
手を貸してユージを起き上がらせる。
「体は大丈夫か?」
ユージは両手を広げて見せた。
スーツが少し汚れているけれど特に問題はなさそうだった。
「連続パリィで四発使ってしまいましたけど」
「そのあとで二発撃っていたから、残りは……」
「四発ですね」
「縁起が悪いな。こっちの銃は?」
「五発装填してますから、残り四発ですね」
「こっちも?!」
「魔王が縁起を気にするんですか」
「するだろう。四は駄目だ。死に通じる」
「じゃ、こう考えたら。4+4で8。末広がりで縁起が良いじゃないですか」
「そんなの……それなら、いいか」
「いいんだ」
ベリアルにはいろいろ質問したいことがあった。
ユージはいつから剥離していたのだろうか?
そして、剥離から戻ってきて怪我一つしていないのは何故なのか?
リボルバー型のブラックホール弾発射装置というトンデモ兵器を個人所有しているのは何故なのか。
そういった疑問は、車が発した大音響にかき消された。
「車両への接近は法律により禁止されています、あなたたちは、法律に違反しています。直ちに退去してして下さい。命令に従わない場合は、攻撃を開始します。三十秒……」
突如、スピーカーの音量が上がった。
ノイズ混じりの警告からカウントダウンが始まった。
「魔法庁のユージだ。排除モードを強制解除!」
「魔法庁のユージを確認しました、排除モード終了」
ユージはやれやれと両手をすこし持ち上げてみせた。
「強制執行モードに移行します」
ヘッドライトが点灯し、エンジンが唸りを上げた。
ユージが驚いた顔で振り向く。
「ふごっ」
ベリアルが助走をつけてユージにドロップキック。
ユージが吹っ飛ばされた。
直後、元いた場所にビームが着弾する。
「排除します、排除します、排除します」
壊れた玩具のように、ヘッドライトが明滅を繰り返し、ビームの乱射が始まった。
「やばい、やばい」
「側道だ! 今なら開いているはずだ」
二人は一目散に側道に向かう。
車の攻撃はますます激しくなる。
「あ!」
突然、ベリアルが足を止めた。
引き返そうとするベリアルの腕をユージは掴む。
「どこにいくつもりですか!」
「ふわふわ!」
ユージは一瞬、ベリアルが何を言っているのか分からなかった。
「ふわふわ仕上げを入れただろ。トランクに!」
「あ!」
そう、ユージはコインランドリーで洗濯したベリアルの服をトランクに収納していた。
後で回収できますからと約束までしていた。
「お気に入りがあったんだぞ!」
「危ないです!」
ユージはベリアルを担ぎ上げた。
「離せ! 回収するんだ」
「新しいの買ってあげますから」
車の攻撃は今やコントロール不能。
自分で自分を攻撃している。
「あああああ」
車が燃え上がるのを見て、ベリアルが肩の上で絶叫した。
「あぶない」
側道の扉に体当たり。
通路の中に飛び込んだと同時に、ドゴォン!という凄まじい爆発音が響き渡った。
通路の隙間から漏れ出る赤い光が、ふわふわ仕立ての洗濯物が完全に破壊されたことを物語っていた。




