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鉄鼠との闘い その4

 ユージは弾丸を発射した。

 狙いはベリアル。

 そのベリアルが持つリボルバーの安全装置。

 鉄鼠が弾の軌道を読んで開けた体の穴を利用する作戦。


 だが、穴の中で、ネズミが一匹、跳ねた。


「!」


 弾丸はネズミに当たって大きく逸れた。


 鉄鼠がユージの方に頭を向けてブルブル震えて嘲笑う。

 お見通しだよと言わんばかり。


 その鉄鼠の瞳にユージの奇妙な姿勢が映る。

 銃口が前ではなく横を向いていた。


「魔法庁式銃操術、曲射」


 ユージが密かに連射した二発目の弾丸には螺旋の回転が与えられた。


「まおーちゃんの姿が見えていたから簡単でしたよ」


 鉄鼠を回り込んだ弾丸が、ベリアルの構えるリボルバーを掠めた。

 柔らかい衝撃とともに安全装置のスライドスイッチが切り替わる。


「今です!」


 ユージの叫び声とほぼ同時にベリアルは引き金を引いた。


 ぱすん。


 気の抜けた発射音を残して、小さな弾丸が発射された。

 それは、鉄鼠の喉を貫通し、天井に消えた。


「え?」


 ショボい。

 あれだけ期待させておいて、結果これ?

 嘘でしょ。

 依代の中で大量に生産される脳内麻薬。

 鉄鼠の動きが緩慢に感じる。

 逆に思考は加速する。


 ああ、配信で得た市民税の二十五万エンを受け取りたかったな。

 カスタード抹茶トリプルトルネード。

 たべたかった。


「伏せて!!!」


 鬼気迫るユージの声にベリアルの体が反射的に反応した。


 黒い球が鉄鼠を包む。

 直後、内向きに爆発。

 音も、光さえも飲み込んで消滅した。


「やったのか?」


 残された下半身は形が保てず、崩壊を始める。


「は!」


 まだ終わっていない。

 ベリアルの瞳は赤い宝石の軌跡を捕らえた。

 鉄鼠の残存ネズミは手負いのユージに向かっている。


 そのユージは片膝をついている。

 ベリアルはリボルバーを構えようとして、止めた。

 このとんでも兵器がユージごと消滅させかねない。


 ユージの前に鉄鼠が姿を現した。

 今や、サイズは半分以下。

 だが、喉、腹を食い破ろうとやる気充分。


「ユージ!」


 ベリアルが叫んだが、ユージは動かない。


「あいつ、剥離しているな」


 ユージの魂は辺獄にお出かけ中。

 帰る肉体が無くなっていたらどうなるんだ?


 鉄鼠がユージに襲いかかろうとした。


 その瞬間。


 轟音と共に巨大な塊が鉄鼠の上に落下した。

 赤い宝石が押し潰されて、砕け散るのをベリアルは感じた。

 呪いから解放されたネズミたちが、今度は本当に散り散りに逃げ出していった。


「な、何が?」


 土煙で前が見えない。

 上を見上げると、天井に大きな穴が開いていた。

 太陽光がそこから差し込んで、光のパイプオルガンを作っている。


「なんだ? 何か落ちてきた」


 舞い上がった土がようやく落ち着いてきた。


 ベリアルはユージの元に駆け寄る。

 頬をおもいきりひっぱたいた。


「起きろユージ!」

「……はっ!」


 がばっと起き上がったユージは開口一番。


「大変です! 1ドルが165エンに!」


 ベリアルはもう一度、ユージを思いっきりひっぱたいた。

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