鉄鼠との闘い その3
「ベリアル、アイ!」
茶目っ気ったっぷりにベリアルが叫ぶ。
魔素が濃いダンジョンの中で、その瞳は空気を吹き込んだ薪のように赤々と輝いている。
叫ぶ理由はないけれど、そこは気分の問題。
鉄鼠の中で蠢く血色の宝石を捉えた。
「コアが激しく動いてる」
「どこです!」
ユージが狙いをつける。
「あっち」
ベリアルが指を差す。
けれども、定まらない。
「こっち?」
「どっち!?」
せっかくの情報も伝わらないなら?意味がない。
「他に魔法は使えないんですか」
「1000℃の火球なら出せるけど」
「それそれ、そういうの」
ベリアルが大きく息を吸い込んだ。
肺の中で酸素と魔素を練り上げる。
「ベリアル、ふぁいやー」
巨大な火の玉がベリアルの眼の前に出現した。
「ハァ!」
裂帛の気合とともに火球が発射され鉄鼠に当たる。
ユージは目を見開いた。
その驚異的な威力に。
「二、三匹焦げただけ!?」
ベリアルは何故かドヤ顔。
「ライデンフロスト現象だな」
「何もできないじゃないですか」
「どれだけ魔素が必要だと思ってんだ」
ベリアルが軽くジャンプした。
「だが、使いようはある」
右足を後ろに引いたテイクバックの姿勢から鉄鼠を蹴りつけた。
「血風!」
それは、風を纏った鋭い蹴り。
集合しつつあった鉄鼠の姿が再び崩れた。
畳み掛けるようにベリアルは蹴りを繰り出す。
潰れたネズミから体液が飛び散る。
「うあわあああ」
逆にユージが悲鳴をあげた。
ベリアルの体表面に極小の風を流しているので魔素の消費も少ない。
風が体液を吹き飛ばすので、汚れる心配もない。
「喰らえ!」
久々の殺戮にベリアルのハートが燃えた。
ベリアルに気圧され鉄鼠の姿が散り散りになる。
ように見えた。
調子に乗ったベリアルは気付いていなかった。
鉄鼠の方が一枚上手なことに。
鉄鼠の体がベリアルの背後で再構成された。
無常なる尻尾攻撃。
「まおーちゃん、危ない!」
ユージはベリアルを突き飛ばす。
「うわー」
ベリアルの視界に吹き飛ぶユージの姿が映り込む。
ユージが壁に激突した所までは見えた。
助けられたベリアルはなんとか体勢を立て直す。
ユージのところに駆けつけようとするが、鉄鼠が前を塞ぐ。
尻尾を地面に叩きつけベリアルを威嚇する。
鉄鼠を倒す手段がもうない。
ない?
いや、一つあるじゃないか。
ベリアルは右手を素早く二回握り締めた。
緊張のせいかうまく動かない。
鉄鼠はチューチューと鳴くばかりで攻撃してこない。
「ナメプしやがって」
突き出した右手に小さなリボルバーが出現した。
車の中でユージに渡されたものだ。
見よう見真似で銃を構え、引き金を引き絞る。
びくともしない。
「なんだこれ!」
安全装置の外し方なんて教わっていない。
鉄鼠がその体をぶるぶると震わせた。
まるでベリアルを嗤っているようだ。
鉄鼠の顔がゆっくりとベリアルに近づく。
口が大きく開いて、その頑丈な鉄の歯を見せつけた。
「まおーちゃん!」
ユージの声。
姿は鉄鼠に邪魔されてよく見えない。
鋭い発砲音。
と、同時に鉄鼠の体に穴が開いた。
着弾地点を予測したネズミたちが先に避けたのだ。
穴を通過した弾丸がベリアルのすぐ横をかすめる。
ひぃ。
塞がりつつある穴の向こうにユージの姿。
ベリアルは、殺す気かと睨みつけた。
ユージは銃口をこちらに向けたまま。
「構えて!」
二人の視線が交錯する。
ベリアルは拳銃を握り直し、鉄鼠に向けて突き出した。
鉄鼠はユージとベリアルを結ぶ直線上に位置取る。
「狡猾な奴だ。だが、それでいい」
ユージはベリアルに狙いを付けて弾丸を発射した。




