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鉄鼠との闘い その2

 血色の宝石の周りに、小さく黒い影たちが集結した。

 大きなネズミが佇立する。


 冒険者たちは伝承になぞらえてそれを鉄鼠と呼ぶ。

 その正体は呪いに縛られたドブネズミの群体。

 ダンジョン中層域に出現するフロアボス。

 準備さえ整えれば初級冒険者でも討伐可能なほどに、対処法は確立されている。

 ただ、人気がない。討伐クエスト依頼はいつも売れ残っている。


 苦虫を噛み殺したような表情のユージ。

 ネズミが苦手な冒険者は多い。

 魔物にとっては僥倖ではある。


 ベリアルが両手を広げて、片足立ちで対峙する。


「何やってんです、逃げますよ!」


 ベリアルの手を掴み、ユージは壁に向かって走った。

 鉄鼠は動かない。

 赤く光る目だけが二人の後を追う。


「あの妙な構えはなんです?」

「威嚇だよ。魔王の波動。敵は死ぬ」

「効果あります?」

「駄目だな。所詮ネズミ」

「後ろのバルコニーが見えますか?」

「後ろ?」


 走りながら振り向くと、二人が来た通路の上にバルコニーがあった。

 そこに小さな扉も見える。


「ここが正則せいそくのダンジョンなら、側道からあそこに行けるはずです」

「あそこから落下攻撃だな」

「中で武器を拾いましょう」


 大きく迂回しながら側道の扉に近づく。

 鉄鼠が突如、突進を開始した。


「ユージ来るぞ!」

「飛んで!」


 ベリアルを宙にぶん投げる。


「うひょー」


 ベリアルは鉄鼠の突進を跳び箱のように躱した。

 ユージはスライディングで鉄鼠の下をくぐり抜ける。


 鉄鼠が壁にぶち当たり、形が崩れた。

 水の中に落とした墨汁のように壁にネズミたちが広がった。


 ユージは落ちてきたベリアルを受け止める。

 再び走り出そうとした、その瞬間、ユージの視界の端にネズミの尻尾が引っかかる。


「ちぃ!」


 鉄鼠の尻尾が踊った。

 鞭のようにしなり、ユージを死角から襲う。


 ガチュィーン


 激しい打撃音が空洞に反響する。

 仰け反ったのは逆に鉄鼠の方。


 魔法庁式銃パリィ。

 それは弾丸を消費して敵の物理攻撃を弾き返す魔法庁の特殊銃術。


 間髪をいれず、ユージは鉄鼠の頭、喉、心臓にそれぞれ2発ずつ撃ち込んだ。


「ひゅー」


 ベリアルは口笛が吹けないから、口で言った。


「くそ、こいつら、思ったよりも頭がいい」

「突進は囮だったのか」


 ユージは空になった弾倉を排出して、即座にリロードする。


「パリィで弾を4発使わされました」


 貴重な弾丸を消費し、奥の手の銃パリィを晒すことになったけれど、一時的にでも行動不能にできたのは大きい。


「まおーちゃん! 怯んでいる今がチャンスです」

「おう!」


 ベリアルは側道のドアを押した。

 びくともしない。


「クソ、開かないぞ!」


 体当たりしても、蹴り飛ばしても開かない。


「引いてみて」

「ドアノブも何もないんだ」


 引くことはおろかスライドすることもできない。


「開けゴマ!」


 叫んで見ても変化はない。


「これ、ボスを倒したら開くタイプじゃない?」

「そんな……」


 ユージが撃ち込んだ場所は、通常の魔物であれば確殺の急所。

 だが、鉄鼠は群体である。

 ベリアルが扉を開けようと奮闘する間に、撃ち抜いた部分を新しいネズミたちが埋めていった。

 鉄鼠が再び動きだそうとしている。


「さっきの攻撃を弾くやつがあれば、勝てるんじゃない?」

「弾丸が全然足らないです」

「えー、用意しとけよ」

「魔物とやりあうのは想定外ですよ」


 ユージが銃を構える。


「弾はあと10発。今、入ってるマガジンで最後です」

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