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ベリアル試験の感度は高いが、精度と特異度が低い

「この通路、湿気が高すぎなのよ」


 モーモーマンション地下2階。

 消防法を完全に無視した構造体からは、雨漏り、漏水、結露水が滴り落ち、あちこちに水溜まりを作っている。


「タイルが水を弾くのが厄介ですね」


 108号室の前で二人はこの先の通路にも水滴が点々と続いていることに気づいた。


 聖水の漂白作用による判別法は事実上封印されている。

 床の水溜まりがただの水なのか、聖水なのか、ユージには判別できない。


「良い考えがあるよ」


 自信満々でぱちんと指を鳴らし、ベリアルは水滴を指で触れた。


 普通の水であれば何も起きない。


 もし、それが聖水なら

 ――ベリアルの指から白煙が上がった。


 針で刺すような痛みが人差し指を襲った。

 悲鳴をあげかけて、反対側の手で口を押さえた。

 脳内に大量の麻薬が生産されて、ベリアルの視覚を歪ませた。


「……全然良い考えじゃない。お前も止めろよ!」

「止める前に、やったのはまおーちゃんですよ」


 ふらふらしているベリアルの手を引いて、二人は163号室を目指す。


 ***


 163号室。

 部屋番号が名刺大の紙に印刷されて鉄扉に貼られていた。

 扉付近に水が溜まっている。

 ユージは周囲と部屋の中の気配を探る。


「中にはいないですね。鍵は……かかっている」


 心配そうな顔でベリアルがユージを見上げた。

 恐る恐るベリアルが水に手を触れる。


「何も起きない」

「ただの水のようですね」


 深い溜息の後、ベリアルは強く主張した。


「もう無理。こんなの心臓が耐えられない!」


 ベリアルが床に座り込む。


「なんで、こんなに水が溜まってるんだよ」

「地下道って、いろんなところで漏水しているイメージありますけど」

「もう痛いのやだ!」

「困りましたね」


 ベリアルが駄々をこねる姿を見ていたユージ。

 ポンと手を打つ。


「いいことを思いつきました」


 手を差し伸べて、ベリアルを立たせる。


「168号室に行きましょう」

「もう、痛くない?」

「痛くないですよ」



 自信にあふれたユージの表情に押されて、ベリアルは渋々歩き出す。



 ***



 168号室には番号の表示がない。


「167号室と169号室の間ですから、168号室ですよね」


 当然のように扉の前には水溜まり。


「いやーだー」


 ベリアルが震えている。

 両手を背中の後ろに隠してしまった。


「もう、触らないぞ」

「ちょっと待って下さい」


 ユージはベリアルの頭に手を触れた。

 撫でられるのかと勘違いしたベリアルが目をつぶる。


「いい子いい子されても、誤魔化されないからな」

「違いますよ、ちょっとチクッとしますよ」


「痛!」


 頭皮に軽い痛み。髪の毛が引っ張られる感覚。

 反射的にのけぞって、軽い殺意を覚えた。


「何!」


 ユージの指先には引き抜かれたベリアルの髪。

 ユージはそれを水溜まりに投げ入れた。


「あ」


 髪の毛が白煙を上げて消滅した。


「聖水ですね。ここが本命かもしれません」


 ベリアルはわなわなと震えた。


「今までの痛い思いは何だったの!」

「し! 静かに」


 ベリアルは慌てて自分の口を押さえた。

 中の様子を探っていたユージは、扉に手をかける。


「中に人はいないみたいですが……」

「どうした?」

「何か変な感じです」

「変な感じ?」

「中が滅茶苦茶広い」

「???」

「鍵はかかっていますね。どうします?」

「どうしますって、決まってるだろ」


 ユージはベリアルの返答を待たない。

 鞄から細長い紙片を取り出して鍵穴に貼り付けた。


「魔法庁の秘密の道具?」

「ナノマシン集合体です」

「そういうのはさ、ダミ声で説明してよ」


 黄色い札がスライムのように変形して鍵穴に吸い込まれていった。

 扉の中でカチャリという音が響く。


「さて、行きますか」


 ユージは銃を取り出して、弾倉を確認した。

 ベリアルも頷く。


「また、変態が出なきゃいいけど」


 二人は、扉を開け、中に滑り込んだ。

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