珈琲に豆菓子が付いてくるのは常識です
「四時間ぐらい前だったかな、たまに見かける男だけど、背が高くて挙動が不審だったから印象に残っとる」
ティラミスと珈琲を運んで来た店長から情報を貰う。
ユージはタブレットに捜査資料を映して珈琲を啜った。
ベリアルはティラミスに穴を開けていた。
「ここのメニューみたいな情報」
「どういう意味です?」
「特別感がない」
ユージが背後を指差す。
振り向いたベリアルが店長に愛想笑い。
「でも男というのは有力な手がかりですよ」
「有力か?」
「全人類の半分に絞り込めました」
「ポジティブ!」
ベリアルがほじくり返したティラミスを口に運ぶ。
「捜査は水面下で動いてますね」
珈琲に一緒に付いてきた豆菓子を口に放り込んだ。
「背が高いで思い出したけど、一回、配信者の女子会に参加したことがあって」
「そんな動画有りました?」
「みんなキラキラで、一言も喋れなかった……」
「どんまい」
「それはおいといて。その中にいたんだよ、やたら背の高い女が」
ベリアルは携帯から写真を探している。
「もう一度、捜査資料を見せてくれない?」
「どれです?」
「アマテラスの社内報、女性研究者のインタビューが載っているやつ」
ユージはタブレットをパラパラとスワイプした。
「ああ、やっぱりこの人だ」
「この人なら依代にアクセスは可能そうですが」
築山デリア。魔法工学者。
社内報には『空間制御魔法による画期的な外科手術法の開発』という研究が紹介されていた。
一年前に総務部に異動している。
「どこかで見たと思ったんだ。偉くない、私?」
「捜査対象にはなってませんが、経歴的に怪しいですね」
ユージは社内報を見ながら何か考えている。
「何? 褒め言葉でも探してるの?」
「いえ、彼女が『メガ女神』なら、なんでまおーちゃんに首を送ったのかなと思って」
ベリアルは首を捻る。
「そういえば何で住所知ってんだ?」
「可能性があるとすれば……誤配送?」
ユージは袋に残っていた豆を全部口に入れた。
「それなら伝票見れば分かりますよ」
「えーと、んー記憶がないわ」
シロフクロウと化したベリアル。
「字がドヘタだったのは覚えてる」
「もしかして、犯人は伝票も持ち去ったんじゃ」
「だから、棚をひっくり返したと?」
ベリアルは机を悔しそうに叩いた。
「写真撮っておけばよかった。開封動画しか考えてなかった」
「それですよ!」
ユージは慌てて、動画サイトのアーカイブを開いた。
「昨日の配信……あ!」
『「住民税の諸君! ――――画面に見えてるこれ、映ってる? 伝票の送り主の欄見て……そう、あの『メガ女神』――――』
「ここ!、 ここに送り先が書いてあります」
二人は手を取って喜んだ。静止した送り状を拡大する。
「よめねええ」
「ミミズみたいですね」
丑 -2ー103
「うーん、数字はかろうじて読めますけど。最初の記号は何?」
「これは……『うし』だよ。マンションの名前。住民は『モーモーマンション』って呼ぶけど」
「モーモーマンション2階の103号室」
「私の部屋だね」
「じゃあ、住所は間違っていない?」
画面を凝視していたユージが、二つの『ー』を指差す。
「左の『ー』は右肩上がり、右の『ー』は左肩下がりですね。これ-《マイナス》とー《ハイフン》じゃないですか?」
「2階じゃなくて地下2階か」
ベリアルはユージの妙に鋭い観察眼に舌を巻く。
「そうか、丑マンションから直接行けないから、ここの前を通ったんだ 」
「どういうことです?」
「前も言ったろ、住民が勝手に拡張しているから入口が他の場所にあっても不思議じゃない。モーモーマンションの地下2階は虎のエントランスから行くんだ。ここからなら近いよ」
「急ぎましょう。聖痕が消えないうちに」
「店長! ごちそうさま」
精算を待つ間に、ふと思いついた疑問をベリアルに尋ねた。
「なんで珈琲に菓子が付くんです?」
「……え? 常識じゃないの?」




