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容疑者 魔王ベリアル

「一週間前、アマテラス製薬から匿名のタレコミが魔法庁に入りました」


 アマテラス製薬。

 その会社のことはよく知らない。

 製薬会社なんだろう、製薬と付いているし。


 でも、アマテラスはよく知っている。

 太陽を司る女神。

 商売繁盛、家内安全、恋愛成就にもご利益がある。

 小さい頃は、天岩戸でよく遊んでいたけれど、会う機会も無くなってしまった。

 彼女は天界の最高神、私は人間界の堕落した魔王。

 どうして差がついたのか。


 そんな名前の付いた企業。

 なにか国粋主義的な匂いがする。

 プライドを秘密と書類で塗り固めた会社。

 それが私の第一感。


「依代が行方不明という内容でした」


 ユージはタブレットをスワイプした。

 銀髪の女の写真が表示された。

 シンメトリーで、美しく、生気のない、お人形のような、どこにでもいそうな美人。

 自宅の流しの中で聖水を垂れ流しているサロメと同じ顔。


「二課が捜査中なんですが、早速暗礁に乗り上げています」

「ボンクラすぎない?」


 ユージが珈琲を啜った。


「そう悪く言わないで下さい。アマテラス製薬は秘密主義の上に超絶官僚体質なんです」

「……イメージ通りが過ぎる」


「庁」から「省」への昇格を狙っている魔法庁。

 覇権のために厚労省にくさびを打ち込みたい。

 タレコミに飛びついたのは、そんなところなんだろう。


「それで、人造依代の行方不明は無かったんです」

「え? なにそれ」

「書類上は」


 ユージめ、私をからかって愉しんでいるな。


「アマテラス製薬のセキュリティはガバガバでして」

「へー意外。手続きとか厳しそうなのに」

「厳しみたいですよ。ミスしたら始末書。訂正依頼書。

 ミスした書類の破棄依頼書。そして、書き直したミスのない書類。

 どんどん増えるみたいです」

「地獄だ! 魔界より恐ろしい」

「魔法庁の文書係が連日徹夜で書類を解析して、ようやく依代の製造記録を発見した、というのが昨日のハイライト」

「頑張ったんだね。ごめんね、『ぼんくら』なんて言って」

「どう考えます?」

「どうって……」


 何も考えていなかった。

 でも、どうと聞かれると何か考えてしまう。

 現場はアマテラス製薬の第一研究所。

 そこからどうやって、依代を消し去るか?


「いくらガバいセキュリティだからといって、人間一人分を隠すのは難しい」

「いいですね。続けましょう」

「クイズ正解者には何をくれるの?」

「ケーキなんてどうです」


 真面目に考えてみよう。


 依代を外に運び出す?

  これは流石に警備にばれるな。


 依代を起動させて同行者のふりをさせる?

  IDが無いのは流石に怪しい。


 荷物と一緒に……。

  いや、荷物として……。


 ユージが私の表情を見て微笑んだ。


「二課はまた真実に到達できていませんが、私達は『サロメ』を知っています」

「依代をバラバラに解体して、クール便で発送した」

「その可能性は高いと思いますよ」

「でも誰が? 何のために?」

「依代の横流し、とか?」

「横流しの相手ねぇ。依代を必要とする存在……魔族か神族」


 ユージがじっと私を見ている。


「私じゃ無いわよ!」

「わかってますよ」

「神族は、人造依代を自由に使えるんだから対象外でしょ。他の魔族……マフィアの連中は遺体に困らないから、神族用の依代なんか要らないし」

「発送人のメガ女神に聞かないと、動機は分からないですね」

「生きた玩具おもちゃとして、金持ち連中に売るとか?」

「魔王様らしい下衆い発想、大好きです」


 その時、ユージの電話が鳴った。


「ちょっと失礼」


 私はタブレットをパラパラとスワイプした。

 その資料の中に、見覚えのある顔を見つけて、私は思わず画面を二度見した。

 数年前の社内報みたい。

 画期的な技法の開発をアピールする女性研究者の紹介。


 これってメガ女神じゃない?


「お待たせしました」


 電話を終えたユージが残った珈琲を飲み干した。


「二課にいる友達に頼んで、発送発信記録を調べてもらいました。昨日までにクール便は全部で9個発送されています。住所はばらばらですけど。それと、」


 ユージが立ち上がる。


「急ぎましょう」

「どしたん?」

「昨日のまおーちゃんねるですけど。二課の中にもリスナーがいたみたいです」

「へー、凄いじゃん、私」


 ん、待って、待って。

 サロメはアマテラス製薬の人造依代。

 それが解体されて私の家に。

 私、開封動画を緊急配信。

 魔法庁に知られた。

 それって。


「私、容疑者になってない?」

「超重要容疑者です」

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